NFLのドラフト開幕。予想された通り、今年は初日(1巡)に5人のQBが指名された。過去最多だった1983年(6人)には今年も及ばず、また指名順位を見ても1、2、3、11、15位と、1999年(1、2、3、11、12位)には届かない格好。事前の段階ではトップ10で5人指名されるのではとの見方もあったが、そこまで極端な結果にはならなかった。それでも
今年の1巡QB指名が例年に比べて多いことは間違いない。
Football PerspectiveのDraft Capitalで見たところ、
過去にQBに対するドラフト資源が最も多く投入されたのはその1999年だったという。この時は1巡の5人に続いて2巡(全体50位)でShaun Kingが、3巡(同77位)でBrock Huardが指名されていた。一方、今年はKyle Traskが2巡(同64位)でBuccaneersに、3巡ではKellen Mond(同66位)とDavis Mills(同67位)が、それぞれVikingsとTexansに指名された。
問題は次。残る有力候補2人はなかなか指名されず、ようやく全体11位になってトレードアップしたBearsが
Justin Fieldsをゲット。そして
Jonesは全体15位で待っていたPatriotsが指名した。それでも1巡上位で5人が指名されたのは、Covid-19で試合が不十分だった翌年のドラフトだと思えばかなりのものだ。
以前
こちらでざっくりとしたドラフト候補たちの分析をしたことがあるが、そこでも指摘した通りカレッジで十分なプレイ経験があり、なおかつパス成功率が高い選手はLawrenceしかいない。他のQBはいずれもプレイ回数が少なく、特にLanceの少なさは目立つ。パス成功率だけ見るのならJonesが優れているが、これは
在籍したチームの有力WRたちによる底上げもあるだろう。
要するにトップ2人はどのサイトでもほぼ一致しているが、残る3人については評価が分かれているのが実情なのだろう。そうなると上位2チームがLawrence、Wilsonと順番に指名するのは当然の結果となる。今回はJaguarsもJetsもシーズン成績通りの指名順であり、特にトレードアップはしていないため、QBのために多くの追加ドラフト資源を投入したわけではない。同じくトレードアップしていないPatriotsを含めて妥当な戦略に基づく指名と言えそうだ。
一方49ersとBearsはどちらもドラフト資源を追加投入することでQB指名にたどり着いた。上の分析で見る限り、彼らが指名した3人のQBは実は似たようなプロスペクトだったとも考えられる。となると、その指名権を得るために追加で投入したドラフト資源が過剰ではなかったかとの懸念が出てくる。ここで重要なのはトレードアップ前の指名順と、トレードアップのために投入したドラフト資源の量だ。
49ersもBearsも、トレードアップのためにかなりの資源を投入している。
2002年以降で見てもトップ5に入るレベルの追加投資だ。その結果として手に入れたQBが外れだった場合はどうなるのか。同じくQBを指名したJaguars、Jets、Patriotsに比べ、追加資源を投入した分だけチーム力へのマイナス影響が大きい状態で次のQBを探しに行かなければならなくなる。
特に49ersの場合、
このトレードアップのために来年再来年の1巡指名権まで投入しており、これで外れになりでもしたら目も当てられない。結果論だが、彼ら以外が今年のドラフト通りの指名をしていたなら、当初の指名順である12位でもLanceを指名できていたわけで、今回のトレードアップが払い過ぎであるという印象がさらに強まる。Garoppoloという、怪我こそ多いが出場している時の成績はいい(RANY/Aは+0.83)QBを抱えた状態でこれだけの資源を投入してしまったのは、いささか軽率だったようにも見える。
それに比べればBearsの判断はまだ許容範囲だろう。
彼らもトレードアップのために多くのコストを追加で支払ったのは事実だが、彼らの場合はトレードアップしなければ1巡20位で待つ必要があったわけで、12位だった49ersよりもQBがいなくなる可能性は高かった。
こちらで紹介した「追加で差し出すのは来年の1巡1つにとどめるべき」という考えに比べるとコストは高かった(今年の1、5巡と来年の1、4巡)が、下位指名権なのでまだ許容できる範囲内との判断だろう。
それに、どちらのチームにしても、指名したQBが活躍さえすれば投資は正当化される。アメフトはQBの影響が非常に大きなスポーツであり、いいQBがいればチーム成績が大きく上向く。また一流QBが他のチームから流出するケースは、キャリア晩年か怪我といった事情でもない限り滅多になく、結果として一流QBを手に入れる手段のほとんどはドラフトになる。そのためにはそもそもくじを引かなければならないわけで、前回も書いた通り
「QBを指名するためなら1巡上位へのトレードアップも許容される」と見るべきだろう。
逆にドラフトでFieldsやJonesを指名できるチャンスがありながら見送ったチームについてはどう考えるべきだろうか。PanthersとBroncosについては前回にも述べたが、結局どちらもQBは指名しなかった。直前に出た、
RodgersがPackersに不満を抱いているというニュースから、BroncosはRodgersを狙って新人QBを取らなかったのではないかとの意見も出ていたが、実態は不明だ。
指名する可能性があったとしたらこの2チーム及び、Bears相手にトレードダウンしたGiantsあたりか。Panthersはトレードで手に入れたQBを使うつもりであり、残る2チームはまだルーキー契約中のQBの実力を見極めようとしている段階なのだろう。また、
Rodgersがどう言おうと切り札はチーム側が持っているという指摘もある。PackersがRodgersをトレードする気がないのなら、それに期待するのは無駄。Rodgersネタは話題にはなったが、あまりドラフトに影響はしなかったと見た方がよさそうだ。
さて、これだけ多くのQBを1巡で指名しておいて、いったいどのくらいの確率であたりを引くことができるのだろうか。前にも紹介したが、
トップ15人のQBたちのうち全体10位までに指名されたQBが4割を、1巡指名が53%を占めている。つまり8人はドラフト1巡指名QBということになるが、一方で新労使協定が発効した2011年以降、4年間のルーキー契約を終えた2017年までに、1巡で指名されたQBが20人いたことを忘れてはいけない。実際には契約額トップ15人の中にはRodgersやRyanといった旧労使協定下でドラフトされたQBもおり、的中率はさらに低いと見るべきだ。
多くのQBが1巡で指名される年は有望QBが多いことは確かだが、それでも外れは出る。直近1巡で5人のQBが指名された2018年では、既に2人のQB(いずれも全体10位内で指名)が指名チームから放り出されている。その前に5人が1巡指名されたのは何度も述べている1999年だが、こちらも2人は早々に先発失格となっている。1999年のドラフト1巡指名組で10年以上キャリアを継続できたのは2人だけ。そしてどちらも、前回述べた「平均より標準偏差1以上上回るQB」にはなっていない。
たとえ有望な年であってもこれだけ外れが出るわけで、そう考えると今年のドラフト1巡指名も決して安泰ではない。半分くらいの確率で先発として頼れないQBが出てくると見ておいた方が安全だろう。いや、昨シーズンがCovid-19で例年ほどまともにゲームができていないことを踏まえるなら、そのリスクはもっと高いかもしれない。5チームにとっての本番はむしろこれから。個人的にはダメQBをいつサンクコストとして切り捨てられるかに、チームの実力が現れると見ている。
スポンサーサイト
コメント