Bridgewaterトレード

 NFLではいよいよドラフトが始まるが、その直前にQBのトレードがあった。PanthersがBridgewaterをBroncosに引き渡したのだ。代わりにBroncosが差し出すのは6巡(191番目)の指名権。しかもPanthersはBridgewaterに7ミリオンを支払うことにしており、Broncosが彼に払う額は3ミリオンにとどまるという。出血大サービスだ。
 Over The CapによるとPanthersは今シーズンについて、既にBridgewaterとの間で10ミリオンのサラリーを保証していたという。もし彼らが普通にBridgewaterを解雇し、例えばベテランミニマム(およそ1ミリオン)で他のチームと契約していた場合、Panthersの負担は9ミリオンほどに達していたそうだ。それに比べれば負担額が2ミリオン少なく、またあまり意味のない順番とはいえドラフト権も手に入る今回のトレードの方がまし、という理屈だろう。
 ちなみにSchefterが書いているBroncosの負担額3ミリオンというのは、あくまでサラリーの保証額のうち彼らが負担する分である。実際には彼のベースサラリーは4.5ミリオンであり、Bridgewaterがロースターにとどまり続けるならBroncosは既に保証している3ミリオンに加えて1.5ミリオンを支払う必要がある。もちろん昨シーズンの14ミリオンに続いて今シーズンは17ミリオンをデッドマネーとしてキャップに計上しなければならないPanthersに比べれば、ずっと安い金額であることは確かだ。
 一見して碌でもないトレードに見えるが、Panthersがこれに踏み切った理由は何だろうか。1つはもちろん、Darnoldを手に入れたことにより、Bridgewaterが不要になったためだろう。Bridgewaterのサラリーが控えQBにしては高すぎるのは事実。それらをサンクコストとして切り捨てるという判断は、それ自体は間違いではない。DarnoldがBridgewaterよりいいQBかどうかという判断に対しては非常に疑問だと思うが、Panthersとしてはそう判断したということだろう。
 前にも書いた通り、Darnoldがプロ入りして以降の成績だけ見るのなら、どう考えてもBridgewaterの方がずっとまともな成績を残している。Darnoldはリーグ最低クラスであるのに対し、負傷から復帰した後のBridgewaterのRANY/Aは-0.05。もちろん立派な成績とは言い難い(Cutlerの少し下くらい)し、ドロップバック数800未満という数字を見ても、あまり信頼できる数字ではない。だが1317ドロップバックでRANY/Aが-1.28というDarnoldに比べれば圧倒的にいい成績であることは確か。Darnoldの方を選ぶPanthersの考えは、やはり私には理解不能だ。
 もう1つの論拠としてFitzgeraldが書いているのは、ドラフトを巡る駆け引きの一種ではないかというもの。トレードや契約内容を見てもBroncosがBridgewaterを控えQBとしか見ていないのは間違いないし、Schefterが書いているように、これでドラフトでのQB指名がなくなるわけではないだろう。だがBroncosがトレードアップする確率はおそらく下がる。全体8位指名権を持つPanthersが引き続きドラフトでのQB指名を狙っている場合、9位指名権を持つBroncosがトレードアップするのを牽制する手段としてBridgewaterをトレードしたという可能性は、確かにあり得ると思う。
 同時に、PanthersがDarnoldを全面的に信用しているわけではない、と想像することもできる。今年のドラフトで有望とされる5人のQBのうち、誰かが8位まで落ちてくれば、それを拾うことを彼らは考えているのかもしれない。実際、こちらのモックドラフトではTrey Lanceが指名されずに落ちてくるという予想がなされている(ただしPanthersではなくBroncosが指名している)。Panthersが欲しいQBが落ちてくれば、それを取りに行く可能性がまだ残っていると考えられる。
 一方、トレード相手のBroncosから見ると今回のトレードで損することはほとんどないだろう。彼らの先発であるLockは、まだ2年のキャリアしかないが、RANY/Aは-0.79とGrossman並みの水準にとどまっている。彼に比べればBridgewaterの方がいいQBだし、それをこの安い金額とわずかなドラフト権だけで手に入れられるなら文句はあるまい。ただ、これで彼らがトレードアップを見送るかどうかは保証の限りではないだろう。それに彼ら以外にもPatriotsなどQBを欲しがっていると見られるチームはある。当日にはまだ波乱があると見ておいた方がいいだろう。

 ドラフト絡みではFitzgeraldが面白い分析をしていた。ポジションごとにトップクラスの選手がドラフト何番手ぐらいで指名されたかというものだ。契約額でトップ15位に入っている選手たちの指名順位の平均値と中央値を出した表が最初に出てくるが、ポジションごとに結構違いがあることが分かる。
 圧倒的に上位指名に優秀な選手が集まっているのがCBやLTだ。QBやIDL、EDGEといった面々も、上位指名選手が優秀な選手として生き残っている度合いが高い。逆に低いのはCやTE、RTといったあたり。サラリーの水準が低いポジションの選手ほど低い指名順位のトップクラス選手が多い印象はある。少し意外なのは、Gの順位が思ったより高く、WRが思ったより低いことか。
 Fitzgeraldはこの表を踏まえたうえで、トップ10にトレードアップするならQB以外を指名すべきでないし、1巡へのトレードアップの場合はCBとLTまでなら許せると指摘している。EDGEについては1巡にトレードアップしてまで指名するポジションではないというスタンスだ。逆に下の方にいるC、TE、RTなどはドラフト全体を通じてタレントがいる可能性があるわけで、LBより下のポジションは1巡で指名する価値はないという見方だ。
 さらにFitzgeraldは、もう少し詳しく分析したエントリーもアップしている。トップクラスの15人がトップ10以内、その他の1巡、2巡上位、2巡下位、3巡以降に指名された割合を最初の表で示しているが、中でも注目すべきなのは3巡以降の指名割合だ。CBとLTに関しては2巡まででスター選手はほぼ指名されており、それ以降にトップクラスの選手が見つかる可能性はほとんどない。またIDL、QB、EDGEといった選手たちについても3巡以降の割合はかなり低めだ。
 予想外なのはLBで、彼らもQB並みに3巡以降でスター選手を見つけ出すのは難しいようだ。FitzgeraldはLBについて、いい選手を遅い指名権で見つけることはできても、スターは2巡までしか出てこないのではないかと指摘している。一方、SやRB、RT、C、TEといったポジションはスターの半数以上が3巡以降で指名されており、こちらは慌てて上位指名しなくても後から色々といい選手を掘り出す可能性が残されている。
 2つ目の表は、特に1巡下位と2巡上位に注目した分析だ。一番上に出てくるWRは1巡下位でよく指名されるポジションだが、当たりは極めて少ない。2巡上位でも同じように外れが多いポジションであり、各チームがWRに対してはドラフトで過大評価しがちな傾向が見て取れる。1番目の表で3巡以降のスター選手が40%いることを踏まえても、WRに関するGMの評価が当てにならない様子が窺える。
 逆にCBやEDGEはいい選手が引き当てられており、GMたちのアプローチが正しいようだ。どちらも1巡下位の方が2巡上位より的中率が高く、これらのポジションは早く指名した方がいいことになる。「2巡のDB指名」はSならともかくCBはやめた方がよさそうな感じだ。またLBについては2巡上位の方にいい選手が多く、「リーチしないよう気を付ける」必要があるという。
 さらにTEは2巡上位でいい選手が数多く指名されている。にもかかわらずTEを1巡下位で指名する度合いは極めて低い。また最初のエントリーでTEは下位指名でもいい選手が多いことも指摘済み。もしパスオフェンスを強化したいのであれば、安易にWRの指名に走るより、むしろTEの中で原石を探しに行く方がいいのかもしれない。こちらについてはBelichickのアプローチは正しそうに見える。

 最後にもう一つ、5年目オプションについてFitgeraldが問題点を指摘していた。新労使協定に従って5年目のサラリーを決めると、Saquon Barkleyのサラリーが何と4年目よりも下がってしまう、という驚きの事実だ。彼はPro Bowlに出場経験もある、2018年1巡ドラフト組の中では成功した方の選手なのに、そのサラリーが4年目より28%も低下してしまうのは、さすがにおかしい。Barkleyの4年目までのサラリーが指名順(全体2位)で決められているのに対し、5年目については安いRB市場に基づいた計算がなされているために起きた現象だ。
 Fitzgeraldは対応策として、Barkley側から労使協定の解釈変更を要求するべきではないかと提案している。5年目オプションはトランジションテンダーの一種であり、そしてトランジションテンダーなら少なくとも前の年のサラリーより20%は引き上げなければならない。このように解釈すれば、Barkleyの場合5年目のサラリーは7.2ミリオンではなく12ミリオン強となる。個人的にRBにサラリーを払いすぎることには疑問を感じているが、この件に関してはFitzgeraldを支持する。5年目オプションの機能がタグと似ているのは事実だし、である以上、タグで認められている金額はきっちり支払うべきである。
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