このニュースを見た瞬間の私の感想は、Wentzの時と同じく「Panthers払いすぎ」だった。今年の6巡はともかく、来年の2巡と4巡はさすがに出し過ぎだろう。Chase StuartによればPanthersはDarnoldのために
「全体34位に等しい対価」、つまり2巡上位のドラフト権を支払ったことになる。3年間のRANY/Aが-1.28と、LosmanやOsweilerより低いうえに、一度たりともシーズンフル出場できたことのないQBに対して支払う額としては、いささか高いのではなかろうか。
ちなみに
Fitzgerald-Spielbergerのドラフトチャートを使い、またFitzgeraldがやっているように
将来価値の割引をしない方法で計算すると、PanthersがDarnoldのために差し出した価値は実に全体9位にほぼ等しいものとなる。彼らは今年の1巡で持っているドラフト権(全体8位)とあまり変わらない水準を、過去3年でリーグ最下位(750プレイ以上)のDAKOTA(0.026)しか残していないQBに投じたわけで、やはり払いすぎに見えて仕方ない。
Darnold自身の問題だけではない。PanthersにはBridgewaterがいるのに、わざわざ高い対価を出してまでDarnoldという冴えない実績のQBを取りに行ったのも問題だ。BridgewaterがいいQBだと言うつもりはない。彼のキャリアRANY/Aは-0.36とFitzpatrick並みだ。それでもDarnoldよりは圧倒的にいいし、
負傷から復活した後だけに限ればほぼリーグ平均レベルの数字を残している。Darnoldと同じ期間のDAKOTAは0.096と、こちらもDarnoldよりずっといい。
昨シーズンのPanthersのEPA/Pを見ると、オフェンスがリーグ19位に対してディフェンスが24位だった。Bridgewater自身のEPA/Pはオフェンス全体と同じ19位。確かにチームとしては物足りないのは間違いないが、Bridgewaterのみが問題だったかと言われると決してそうは思えない。リーグ平均並みのQBというのは案外、扱いづらいもので、ファンやチームに不満がたまりやすいことは否定しないが、だからと言って若さ以外に取りえがなさそうに見えるQBに走るのは、
かつてBillsがTaylorを先発から外してPetermanを出したときを彷彿とさせる。
逆に平均以下のQBしか抱えていないチームは、安くBridgewaterを手に入れることを考えても良さそうだ。
NewtonやWinstonあたりと似た金額で彼が使えるのなら、既にチームにいるQBと競争させる相手としてもいいし、控えQBとしても活用できそう。ドラフト上位でQBを取りに行けるチームは限られているわけで、その場合は保険として使うのにちょうどいいQBになると思う。
一方Jetsはこれで全体2位でのQB指名が確定したと見ていいだろう。今のところ
話題に上っているのはZach Wilsonあたりだが、まあドラフト当日までは無理に判断しなくてもいい。ただ、トレードアップした49ersも含め、トップ3人が全員QBになる可能性がかなり高まったのは間違いなさそう。かつてトップ3の指名が全員QBだったのは、豊作と言われていた1999年。でも指名された3人のうち、それなりに長く活躍できたのはMcNabbのみだった。さて今年はどうだろうか。
ちなみに今回のトレードでも、早速
勝者と敗者について書いた記事が出てきた。Wentzの時もそうだったが、QBを手に入れたチームが「勝者」の側に名前を出しており、違和感を拭えない。もちろんDarnold自身が勝者、Bridgewaterが敗者になるのは同意するし、ついでにWatsonの潜在的なトレード先が減ったという意味で彼が敗者になるのも理解できる。というか
Watsonを告訴した女性は22人に達しているそうで、正直彼にとっては「それどころじゃない」状態だろう。
各チームがやけくそとも言えるQB争奪戦に走っているのも、それだけ
ゲームに及ぼすQBの影響が大きいからだ。今やドラフト上位でQB以外を指名するのはまるで愚かな行為とまで見られかねない有様である。実際問題、Darnoldのように
「トップ3で指名し得る悪い方のケース」であっても、トレードすればこれだけの対価が得られるのだから、むしろQBを指名しない方がおかしいのかもしれない。
だが一方でドラフト上位指名のQBになると当たり外れが大きいのもまた事実。最初から上位指名権を持っているチーム(今年のJaguars、Jets)はともかく、QBを手に入れるために大きくトレードアップするチームにとっては、結果としてそのQBが外れになると目も当てられないのは確かだ。Jetsだけでなく、Trubiskyを指名したBears、Goffを指名したRams、Griffinを指名したWashingtonなど、大掛かりなトレードアップをした挙句にそのQBを切り捨てる結果に至ったチームは多い。
もちろんダメQBであることが分かったなら、早々に縁を切るのは間違いではない。変にサンクコストを引きずるのは悪しき
コンコルド効果にすぎず、それよりも次のQBを探す方を優先するのが正しいと言えるだろう。その意味ではRosenを1年で諦めたCardinals、Darnoldを3年で放出したJetsと、最近のNFLチームは昔よりずっと合理的に行動するようになっている。今年の49ersも、指名したQBが外れだと分かればすぐに次の選手を探しに出る方がいい。
フランチャイズQBをドラフト以外で見つけるのは難しく、そしてドラフトで事前に選手の能力を見極めるのがほぼ無理だとすれば、チームがやるべきなのはひたすらドラフトでQBというクジを引き続けることになる。問題はどの程度当たりやすいクジを、どのくらいのコストを投じて引くべきか。過去の例を見てもドラフト1巡上位のQBの方が、それ以下のQBより当たりの確率が高いのは間違いない。ではQBがいないチームは、コストを考えず、ひたすらトレードアップを繰り返せばいいのだろうか。
問題はある。一つはQB以外のポジションの強化が難しくなること。でもQB以外がチーム成績にもたらす影響を考えるなら、多少他のポジションを犠牲にしてもQB強化に向かうのがいいような気もする。もう一つは、ドラフト資源の浪費によって将来のトレードアップが難しくなること。しかしこちらも、1人のQBの実力を2~3年かけて見極めたうえで必要なら次のQBを探しに行く、という方法を取れば、何とか自転車操業できそうな気がする。
QB指名のトレードアップをするうえでも、どこかにパレート最適があるはずだ。しかしどこがパレート最適なのか、正直私には分からない。最近になって増えてきた派手なトレードアップは、果たしてチームにとって適切な資源配分なのか、それともドラフト資源の無駄遣いなのか。誰か分析してくれるとありがたい。
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