タンパリング解禁

 NFLでは新年度前のリーガル・タンパリング解禁(現地15日)によってFA戦線が事実上火蓋を切った。初日に何より目立ったのはPatriotsの派手な行動。いつもはFAで出ていく選手は多くても取りに行く選手は少なく、結果として補償ドラフトを積み上げているチームだが、今年はタンパリング解禁から次々と大型契約を叩きだして衆目を集めた。どうやら過去10年間にFA選手と結んだ金額と比べ、今年の初日の金額はかなり多かったようだ。
 こちらのページには全チームのFA契約やトレードの一覧が載っている。2日目まで進んだ段階でPatriotsが手に入れたのは12人。Jaguars(15人)、Texans(14人)に次ぐ大人数だ。他に2桁人数と契約したチームは存在せず、動きの大きさが目立つ。いつもの年とここまで違うのは、例年になく大きなキャップスペースが空いていること、そして前年に冴えない成績だったことなどが影響しているのだろう。別にBelichickは常にケチ、というわけではない。
 単純に契約した選手数だけでなく、勝ち星に対する貢献期待度まで計算すると、Patriotsが手に入れた選手によるチーム力の向上はリーグでトップになるとの指摘もあった。こちらのグラフはPro Football FocusのWAR(wins above replacement)を使って各チームがオフにどのくらいの補強をしたかを推計するものであり、実際2020年にはFAでWARを増やした上位10チームが平均で勝ち星を前年より2.7も増やしたそうだ。なお2番手にはJetsが、3番手にはFootball Teamが顔を出している。獲得選手の数では最多のJaguarsは、WARでは7番手になっている。
 逆ににWARで見てマイナスが多いのはSaints、Lions、Colts、Eagles、Texansなど。キャップがかなりきついSaints、Eaglesあたりは仕方ないが、TexansやLionsはそこまでキャップが厳しくない割に順位が低く、そしてキャップが余りまくっているColtsはかなり異常値に見える。オフにあった彼らの大きな動きといえばWentzトレードくらいなのだが、よほど彼の評価が酷いのだろうか。一方、厳しいキャップにもかかわらずマイナスをほとんど出していないChiefsなどは上手く立ち回っている可能性がある。
 そしてもう一つ、FA一覧を見ると初報時点の契約数字が意外に当てにならない様子も分かる。実際、出てきている数字を見ると「上限でいくら」worth up toという数字が載っているかと思えば、単に何年いくらという数字しか出てこない例もある。保証額についても報じられているケースがある一方、全く触れられないものもあり、この一覧表を見ても実際にチームのキャップがどうなるかを見通すのは難しい。Patriotsのキャップについて詳しい人は、正確な数字が分かるまで推測はしないと言明していたくらいだ。
 実際、この人物が詳細を把握しているデータと報道を比べると、結構違いがある。4年24ミリオンと報じられたJalen Millsの契約詳細はほぼ報道通りなのだが、上限で4年30ミリオンと伝えられたDeatrich Wise Jrの場合、実は契約額は4年22ミリオンにとどまっていることが分かる。差額の8ミリオンがインセンティブだろう。
 もっと問題なのはKendrick Bourneだ。第一報は単に3年22.5ミリオン(年平均7.5ミリオン)となっているのだが、実は詳細を見ると通常の契約は3年15ミリオン弱にとどまる。つまり、残る7.5ミリオンはこれまたインセンティブの可能性があるわけだ。こうなるとPatriotsが「初日に200ミリオンを投じた」という話も、安易に信じられなくなる。
 彼によると金額の大きいJudonの契約は4年54.4ミリオン弱Jonnu Smithは4年49.9ミリオンとなる。一方、Over The CapによればHunter Henryは3年37.4ミリオン弱だ。いずれも初年度は6~7ミリオン前後となっており、今シーズンのキャップヒットはかなり抑制している。この状況だと、まだ資金を投入す余地はありそうだ。
 ちなみにOver The CapではPatriotsの契約のうち、Jonnu SmithとAgholorの契約についてはかなり低い評価をしている一方、NewtonやJudonの評価はそこそこ高い。個人的にBelichickは常にTEは過大評価しているように見えるし、WRの評価については当たり外れが大きい印象がある。さて、今回の契約は結果としてどういう評価になるのだろうか。

 一方、QBの契約もさらに進んでいる。まずジャーニーマンFitzpatrickがWFTと1年10ミリオンの契約を締結。報道では最大12ミリオンともあり、インセンティブがついているのだろう。38歳になってもまだ引く手があるのは見事なものだが、年平均の契約額が彼にとって2016年のJetsとの契約(年12ミリオン)に次ぐ高い数字であるところも驚き。
 昨シーズンの彼はBradyとあまり違いのないDAKOTAを記録した。その前年はリーグ平均並みだったが、もう1年前はWilsonに近いほど高いDAKOTAを残しており、要するにこの数年だけ見るとかなりいいQBに見える。もちろんキャリア全体で見れば平均以下のQBなのは間違いないし、年齢的にも大枚はたいて手に入れるタイプのQBでないことは確かだが、一方HeinickeやKyle Allenしかいないロースターを見れば十分に補強となることも事実。10ミリオンでこの3年間と同じくらいの活躍をしてくれれば文句なしだろう。活躍できるかどうかは分からないが。
 彼がいなくなったDolphinsは、Colts前シーズンはColtsにいたBrissettと1年5ミリオンの契約を結んだ。以前こちらでも書いた通り、この金額は典型的なベテラン控えQBのサラリーだ。そもそも彼についてはColtsが結んだ年平均28ミリオン弱の契約が異常なのであって、今回の金額は妥当な数字だろう。Tagovailoaが成長すれば出番はないだろうし、Dolphinsがトレードでもっと大物のQBを手に入れればいよいよ控え専業の道が見えてくる。
 同じくらいの契約に踏み切ったのがSaints。Winstonと1年5.5ミリオン(インセンティブがつけば最大12.5ミリオン)の契約を締結した。昨年もSaintsにいたのでチームは変わらず、Breesの引退を受けて先発争いをHillと繰り広げることになりそう。個人的にこのオフにFAとなるQBの中で最も高い実績を持つのは彼だと思っていたが、特に争奪戦とはならなかったようだ。このオフはキャップの調整に苦労したとはいえ、4年連続プレイオフに出ているチームの先発をもらえれるなら、そちらの方がありがたいとの判断だろう。
 Hillの方は契約リストラを行い、Saintsのキャップを少しだが助けていた。なぜかvoid yearsの「4年140ミリオン」という数字が報じられて少し騒ぎになったが。void yearsの数字が現実になることはあり得ない。初報段階の数字が当てにならないという一例だろう。
 TexansとTaylorの契約もおそらく似たような感じだ。表に出てきているのは1年で最大12.5ミリオンという数字だが、ベースサラリーはその半分以下とされており、おそらくWinstonやNewtonと似たような金額の契約なのだろう。Texansは引き続きWatsonこそが先発と表明しており、Watsonが徹底抗戦してチームが諦めるという展開に至らない限り、Taylorの出番はごく限られたものとなるだろう。
 控えではなく先発含みと見られるのが、BearsがDaltonと結ぼうとしている1年10ミリオンの契約だ。インセンティブで最大13ミリオンになるそうで、狙っていたWilsonが(当たり前だが)手に入らなかった時点でこちらに手を伸ばしてきたようだ。BearsはまだFolesを契約下に置いているが、彼よりは先発経験の長いDaltonの方が頼りになると考えたのだろうか。
 もちろん2021シーズンのQBがどうなるかについては、今後ドラフトの行方も見なければならない。例えばFootball Outsidersのモックドラフトでは1巡上位で5人ものQBが指名されると見ている。そうした動きが一通り出そろったところで、ようやく次のシーズンに向けた勢力図が見えてくるのだろう。今はまだ混沌の時期だ。
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