ドラフトの成果

 前にOver The Capに載っているドラフト選手たちのスナップ指数を紹介したことがある。スナップ指数でみると直近4年間の指数とチーム成績の間にほとんど相関がないことが分かった。しかしスナップカウントではなく、もっと選手の貢献度を表すような指標を使って計算してみたらどうなるだろうか。Pro Football Focusに載っているA new look at historical draft success for all 32 NFL teamsという記事がそのあたりを調べている。
 使うのはPFF WAR(wins above replacement)という指標だ。PFF gradesを使って選手の貢献度を勝利数に変換し、それが控えレベルのチーム(3勝13敗と想定)をどのくらい上回っているかを調べたもののようだ。PFF gradesは全部のプレイをアナリストが評価するという方法で点数をつけている。主観が入ってくる部分があるわけで、そのあたりをどう見るかという問題はあるが、単にスナップカウントだけで見るよりはプレイの実態を表している可能性は高いだろう。

 記事では2017年から2020年までにドラフトされた選手たちのWARを見ながら各チームのドラフトの成功度合いを測っている。もちろん選手たちのルーキー契約期間中の正確なWARは4年経過しないと分からないが、3年経過時点でのWARと4年時点とのR自乗は0.96、2年と4年だと0.87と、どちらもかなり高い相関度を示している。1年しか経過していない選手であってもこの数値は0.60になるそうで、ドラフトが当たりかどうかは4年待たずとも割と早い段階で評価できるのかもしれない。
 それぞれの選手のWARと、その選手の指名順から期待できる数値との差から、各チームのドラフトがどのくらい成功したかを計算できる。この記事でまず最初に計算しているのが、期待値に比べてどれほど高いWARをドラフト選手が稼ぎ出したかだ。結果は圧倒的にChiefsがトップで、その後にBuccaneers、Ravens、Saints、Texansと続いている。
 だがチーム別(グラフに載っているチームロゴ)ではなく個別の選手別(ドット)を見ると、Chiefsの高い評価はほぼ1人の選手(Mahomes)がもたらしていることが分かるだろう。QBという影響力の大きなポジションでリーグ平均を大きく上回る成績を残している彼がいたおかげで、Chiefsの評価が非常に高くなっているのだ。同じことはTexans(Watson)にも言えるし、逆にCardinalsはRosen指名の失敗によって非常に低いWARを計上する羽目に陥っている。
 QB指名で失敗しているのはFootball Teamも同じで、Haskinsが大きなマイナスを計上したおかげで何人かいたプラス評価の選手が相殺されている。むしろHaskinsがいながら全体としては平均値の成績を収めているあたり、Football Teamはこの数年、全体としてはいいドラフトをしていたのではないかとも考えられる。どうやらWARで直接比較する方法はQBの指名結果に極端に左右されるようだ。
 というわけで2番目のグラフでは計算方法を変更。指名順だけでなくポジションも調べ、そのポジションの下から数えて何%の位置にいるかを全選手について割り出す方法を採用している。MahomesのWARが11に対してQuenton Nelsonは1.6と実数だけ見れば影響力の大きいQBの数値が圧倒的にでかいのだが、これがポジション内の位置づけとなると、MahomesとNelsonも99.9%(つまり上位0.1%)で並ぶ。この方法を使えばQBの指名に極端に左右されない、より一貫性の高いドラフト評価ができる。
 こちらの評価だと上位に来るのはColts、Saints、Cowboys、Bills、Buccaneersなどだ。Coltsは75%(上位4分の1)に入る選手を非常に数多く指名しており、その点が評価されている。Football Teamも1つ目のグラフよりは上位に顔を出しているが、Haskinsの評価が薄れ、他のより成功した指名が評価されるようになったことが理由だろう。残念ながらこの方法でもCardinalsは最下位。Rosen以外のドラフトもあまりうまく行っていなかったことが分かる。
 しかしこのグラフは、今度は逆にドラフト下位指名選手を過大評価している可能性がある。指名順トップ100以内の選手の評価と過去4年の得失点差の相関は、それ以外の選手と得失点差との相関に比べるとずっと高い。そこで3番目のグラフでは指名順の高さに応じた重みづけを行い、その加重平均を出している。少しばかり順位が入れ替わっているのが分かるだろう。
 トップに立つのはSaintsで、Coltsはその次になる。Chiefsの評価も2番目のものよりは高くなっている。ダメな評価を受けることが多いJetsも、このデータだとそれほど悪い位置にはいない(少なくともAFC東ではBillsに次ぐくらいのいいドラフト評価になる)。一方、最下位はまたしてもCardinalsで、その後に続くRaiders、Bengals、Eaglesあたりも3種類のグラフ全てで下位に沈んでいる。目立つのはTexansが下から5番目にいることで、Watson以外が外ればかりだったことが窺える。
 ドラフト順だけでなく、さらにポジションでも重みづけをしたのが4番目のグラフだ。こちらを見るとトップはBuccaneersに、以下Saints、Cowboys、Bills、Coltsといった具合の並びになる。トップのBucsは29人指名したうち、8人が90%以上の評価を受けており、この数は他のどのチームよりも多かったそうだ。しかもその8人のうち下位指名は1人のみ。逆に上位指名で外れだったのも1人のみにとどまっており、Bucsがこの4年間、上位指名で堅実にいい選手を引き当て続けたことが、Super Bowl優勝に貢献したことが分かる。
 以上のデータを踏まえ、記事ではさらにドラフトでいい選手を指名し続ける能力の持ち主がいるかどうかを調べている。結論は「おそらくNO」。BucsのLichtは2017年以降は素晴らしい使命をしているが、2014-16の3年間、彼の評価は(4番目のグラフで言うと)32チーム中29位だった。ColtsのBallardの2013-16は23位だったし、SteelersのColbertは直近4年間は6位だがその前の4年間は24位にとどまっている。
 逆にBroncosのElwayは2011-16にはドラフト評価で1位を保持していた。同じ期間にPatriotsのBelichickは2位だったが、彼らの直近4年間を見ると真ん中より下のあたりで低迷している。2番目のグラフでトップにいるのはColtsだが、全くのランダムで指名しても最良のチームが彼らと同じくらいの評価を受ける可能性は25%もある。2006-20までの全指名でSaintsのLoomisは56%の評価を得ているが、最良のチームがこのくらいの数字を叩きだす確率は実に52%もあるわけで、Loomisのやったことはコイントスレベルの行為と見ることもできる。
 もしLoomisが他のGMより明白にドラフトがうまいという評価を得たいのなら、これまでと同じ評価を受けられる指名をあと10年は続けなければならない。そう、つまるところドラフトはcrap shootという、これまでも何度も述べてきた指摘が、WARを使った分析でも裏付けられたわけだ。
 それでもこの分析だと、単なるスナップカウントで見た時よりもドラフトの成果がチームの成績と相関している度合いは高そうだ。少なくとも4番目のグラフで見ると上位10チームのうち8チームは2020年のプレイオフに到達している一方、下位10チームはどれ1つとしてプレイオフには至っていない。2017-20の成績だと少し相関は下がるが、それでも上位10チームのうち7チームは4年通算で勝ち越している(それ以外に勝率5割が1チームある)一方、下位10チームのうち6チームは負け越している。

 一方、Over The Capは同じ2017-20の期間中にFAに投入した資金と勝率との関係を見ている。最初の分布図がまさにそれで、X軸はFAの年平均契約額、Y軸は勝率だ。一目で見て分かる通り、こちらはどちらかというと逆相関の関係にあるように見える。実際、この2つの相関係数は-0.483となっている。
 これが1人当たりの平均サラリーで見ると、それほど明確な逆相関は見えなくなる(2番目の分布図)し、年5ミリオン以上のFAに限るとまた逆相関らしさが浮かんでくる(3番目の分布図)が、最初の分布図ほど明白に出ているわけではない。元々1つ目の分布図でもそれほど強い相関があるわけではなく、FAと勝率の関係はなかなか微妙であることが窺える。
 最後の表ではFAに投じたサラリーと勝ち星との関係もまとめている。1つの勝ち星のために使ったFAサラリーを見ると、最も少ないSteelersは1ミリオンほど、PatriotsやRavensは1.5ミリオン台と、効率よく勝ち星を挙げていることが分かる。逆にJetsは1つの勝ち星のために9.5ミリオン、LionsやJaguars、Giants、Raidersは7ミリオン前後を使っており、FAへの投資がうまく行っていないことが分かる。
 どうやら大雑把な傾向として、コストの安いドラフトでいい選手を集める方が、コスト高なFAに頼るより勝利につながりやすいようだ。だがそのドラフトの成果はかなりランダム。もしかしたらGMという仕事は「とにかくツキのある人間」でないと務まらないのかもしれない。
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