Wentzトレード

 オフシーズン2つめのblockbuster tradeが発生。EaglesがWentzをColtsにトレードした。代わりに彼らが受け取るのは今年の3巡と、来年のドラフト指名権。後者には条件がついており、もしWentzが全スナップの75%をプレイするか、あるいは70%でプレイしてColtsがプレイオフに出た場合は1巡、そうでなければ2巡の指名権をもらうことになっているという。
 私の最初の感想は「Colts払いすぎ」だった。Wentzの5年間のRANY/Aは-0.33であり、この数字はHoyer(-0.30)やKeenum(-0.32)すら下回っている。どこの世界にHoyerやKeenumに2巡と3巡(場合によっては1巡と3巡)を支払うチームがいるだろうか。ColtsのGM(Chris Ballard)は何を考えているのだ。なぜ今となってはほぼ意味のない5年も前のドラフト順位に価値を見いだすような取引をやらかしたのか。
 残念ながらそう思った人は少数だったもよう。こちらのツイッターアンケートを見ると、この取引を「Coltsの勝ち」と見ている人が3分の2近くに達している。ESPNのエキスパートたちの評価を見ても、Eagles側にAをつけているのが1人しかいないのに対し、Colts側については3人がA評価をしている。
 なぜそんな評価になっているのか。おそらくこちらのツイートで流れているように、今年の1巡との交換という噂が事前に出ていたためだろう。Bearsファンは絶対拒否の姿勢だったし、実現可能性がどのくらいあったかと言われると個人的には疑問だが、この情報がアンカリングバイアスになっていた可能性は否定できない。
 それにWentzの評価は別の指標を使うともっと上昇する。彼のキャリアのDAKOTAは0.076と、Staffordと同じで、CarrやNewton(0.077)よりは少し低いくらいの水準。このデータから判断するなら、Coltsの取引もそれほど払いすぎとまでは言えなくなる。こちらのツイートで述べられている通り、「予想より少し多い」くらいの支払額という意見が上限、上のESPNのエキスパートのうちSeth Walderの評価が下限といったあたりで考えればいいのだろう。それでもColtsが高い対価を出したのは間違いなさそうだが。

 というわけでこのトレードだけについて言えばRosemanの勝利だと私は判断している。2020シーズンの成績を見る限りWentzのトレード先は容易には見つからないと思っていただけに、Coltsから2つの指名権をもぎ取ったのは大成功と言っていい。これでColtsの来シーズンの成績が落ちれば2022年の2巡上位(うまくすれば1巡上位)が手に入ることになるし、Rivers(2016年以降のDAKOTAが0.126)からWentzに交代するColtsの成績低下は十分に期待できる。
 私はRosemanのアグレッシブなキャップ対応は割と評価しているし、彼が繰り出すエグい手練手管も面白いと思ってみている。だが彼が、例えばほぼ無視されていた補償ドラフトに価値を見つけたNewsomeや、トレードを活用したドラフト価値向上を巧みに行ったBelichickのようなゲームチェンジャーかと言われると、そうは思わない。彼の優秀さは、あくまで「普通のGM」の枠内での評価だ。
 実際、このトレード単発だけ見れば勝っているRosemanも、チーム作りという観点では足元は明確に敗者だ。2021シーズンのサラリーキャップは事前の想定より高い180ミリオンになりそうだが、それでもEaglesの来シーズンのキャップはWentzのトレードを計算に入れずに47ミリオンの赤字。今回のトレードで発生するWentzのデッドマネーは33.8ミリオンと史上最高額で、キャップ負担の削減にはほとんどつながらない。
 要するにRosemanは2021シーズンにtankingする方針を固めたとみていいだろう。彼はこれから他のサラリーが高いベテランをどんどんクビなりトレードなりで放出し、サラリーをキャップ内に抑制する必要がある。Coltsが成績低下する可能性より、Eaglesがそうなる可能性の方がもしかしたら高いかもしれない(HurtsのQBRは昨シーズンのWentzよりさらに低い)。2021シーズンのうちに膿を出し切って2022シーズンに再スタートする方針だと思われる。
 このやり方は2011年の新労使協定以来、多くのGMが使っているのとほぼ同じ手法だ。ドラフト上位でQBを指名し、彼が安いサラリーでプレイしている間に他のポジションを強化してチーム力を底上げする。QBが安価に使える間は、ベテランのQBを抱えるチームより他のポジションを強化しやすくなるため、短期的なチーム力は高まりやすい。Rosemanがやったようにラインにサラリーを投じるのも、わかりやすく効果を上げる方法だったのだろう。だがこの方法は、Mahomesのような超一流QBを運良く指名しない限り、QBのルーキー契約が終わるとともに効果を失う。短期間しか使えないドーピングのようなやり方だ。
 いや、たとえ運良く超一流QBを指名したとしても、成功するとは限らない。Wilsonを擁するSeahawksがまだ1回しか優勝できていないこと、Watsonを抱えるTexansに至ってはSuper Bowlにすらたどり着けていないことを考えるなら、決して「勝つための基本的な王道」とまでは言えないのではなかろうか。Wentzについてはルーキー契約から延長した時点で私は疑問視していたし、足元ではOver The Capもあの契約を「酷い失敗」と見なしている。Wentzの契約延長をせず、4年ごとにQBを1巡指名するカレッジ方式に切り替えるくらいのことをすれば、Rosemanも一種のゲームチェンジャーと呼べたかもしれない。だがそうはならなかった。やはり彼は普通のGMでしかない。 
 GoffとWentzという2人のQBの失敗で、ルーキーQBの3年目が終わったところで前倒しで契約する動きにブレーキがかかる可能性はあるだろうか。こちらの記事ではJackson、Allen、Mayfieldの3人についてその可能性を論じているが、個人的には前にも書いた通り、3人とも延長はせず5年目オプション行使でとどめた方が安全だと思う。ただしJacksonについては延長があってもおかしくはないだろう。
 もう1人、Darnoldの価値について、今回のトレードはどのような影響を及ぼすのだろうか。JetsファンのChaseは「よくて2巡、おそらく3巡」としているが、個人的にはこのドラフト巡でも高すぎると思う。DarnoldのRANY/Aは-1.28であり、DAKOTAは0.026と直近3年間のKeenum(0.041)やFlacco(0.052)より低い。もちろんWentzよりも下だ。トレード相手が見つからなくても不思議ではないと、個人的にはそう思うのだが、今回のWentzのトレードを見てもドラフト指名順はいまだリーグ内で評価される対象になっているようなので、実際にはChaseの予想くらいの指名権は得られるかもしれない。

 ちなみにColtsが彼を取りに行ったのも「窓」が閉ざされつつあるからだ、との説が出ている。確かに大成功だった2018年のドラフトで指名した選手たちは、2021シーズンがルーキー契約最終年だ。残された穴であるQBに優秀な選手を連れてくることができれば優勝だって見えてくる、という理屈はあるだろう。でもその相手がWentzだと言われると、思い浮かぶのは「溺れる者は藁をもつかむ」というフレーズだ。
 2017年にWentzと一緒だったReichがHCになっているのがプラス要因だとの主張はあるが、それを言うならWentzが平均以下の成績しか残せなかった2016年もReichがOCだった。Wentzと似た成績推移をしたQBたちの過去の例も魅力的とは言いがたく、結局のところ2017年は「まぐれ当たりだった」と考えるのが適当だと思う。
 もちろんこうした悪条件を乗り越えてWentzが復活する可能性はあるし、Coltsが念願の優勝に手を届かせることだって考えられなくはない。だがその確率は低いと思うし、正直Wentzにドラフト権を投入するくらいなら、「全QBを指名」する方がいいのではないかと思わなくもない。将来は不透明だからこそ、くじを引く回数を増やすというやり方だ。
 でも不透明な将来の中でも1つ予測できそうなことはある。ファンの声がうるさいEaglesを去ることで、今後Wentzが話題に上る頻度が減るだろう、という予測だ。Eaglesファンはこれ以上、WentzがいいQBであるふりをしなくて済むようになるわけで、そうした発言を巡る議論の発生度合いも減るだろう。Wentzの周囲が今までより静かになるのは間違いないと思う。
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