Super Bowl LV

 Super Bowl優勝おめでとう、Blaine Gabbert!

 冗談は置いておいて、第55回Super Bowlはゲームとしては久しぶりに残念な展開となった。以前、計算した「つまらなさ指数」で見ればこのゲームは+22となり、歴代で7番目につまらない試合だったと言える。昨年のゲームが-10、その前も0とか-1といった具合に最終Qまでそれなりにもつれたのに比べると、今年はかなり一方的な流れだった。
 最近でこういう一方的展開だったのは2013シーズンのSeahawksとBroncosのSuper Bowl。面白いことにこのゲームも今回同様、favoriteだった側(Broncos)が一方的に打ちのめされていた。もちろん、このゲームは今回のように一方のホームスタジアムで行われたわけではないし、あるいはCovid-19の影響で観客数に制限がかかるといった現象も起きてはいない。単純に比較できるものでないのは確かだ。
 しかしこの2つのゲームで最も違っているのは、事前のオッズそのものだろう。2013シーズンのSuper Bowl直前までのオフェンスEPA/PとディフェンスEPA/Pの差を、こちらを使って調べたところ、Broncosが+0.197に対してSeahawksは+0.185とわずかながらBroncosが高い評価を得ている。それに対し、今シーズンの場合はChiefsが+0.129に対してBuccaneersが+0.187と、かなりBuccaneersの方が高い評価になる。むしろなぜ事前のオッズがChiefsのfavoriteになっているのか、疑問を感じてもおかしくない数字だ。
 同じことを書いているのがAaron Schatz。彼が計算しているDVOAによると、第3週以降、ずっとBuccaneersがChiefsを上回っていたという。その状況はSuper Bowl直前でも変わらず、Football Outsidersのプレビューを見ても、DVOA及びWeighted DVOAのいずれにおいてもBuccaneersの方が評価が高い。
 にもかかわらず、なぜChiefsの方が強いと思われていたのだろうか。一つには、同じアナリティクス系のデータでもDVOAとは違ってChiefsの方が高い数字を出しているところがあったのが理由だろう。例えばFiveThirtyEightのEloに基づいた予想がそうだし、ESPNのFPIでもChiefsが1位をキープしていた様子が窺える。
 だがそれを言うなら、Buccaneersの方が評価が高い別のアナリティクスもあった。例えばPro-Football-ReferenceのSRSがそうで、Chiefsの6.8に対してBuccaneersは9.4とかなり後者の方が評価は高い。得失点差はチームの実力を測る分かりやすい指標であり、もっとそちらに注目しておくべきだと言われればその通りだ。
 Chiefsはオフェンスが強く、Bucsはどちらかと言えばディフェンスが強い。将来のパフォーマンスが予測しやすいのはオフェンスの方であり、つまりChiefsの方が活躍を予想しやすいチーム構成になっていた。だから彼らの方がfavoriteになったのだ、という理屈もあるだろう。一方でDefense wins championshipsという言葉もある。前にも書いたがプレイオフのように戦力が均衡しているゲームではQB率いるオフェンス以外の要素が重要度を増す。ディフェンスの強いBucsの方が力を発揮できる、と見ることも可能なのだ。
 結局のところ、Schatzが反省しているように、今回のSuper Bowlの事前評価は一方に偏りすぎていたのだろう。多くの人がライン勝負ではBucsに分があると理解しながら、それでもChiefsが有利だと判断していた。それは「間違いだった」わけで、アナリティクス系の人々ですら華やかすぎるMahomesの数字とプレイに惑わされたのかもしれない。

 予想が正しかったかどうかはともかく、結果として大差がついたことはそれほど疑問ではない。underdongが勝つこと、それも圧勝することは、過去にだってあったし今後もあるだろう。加えてゲームが終わればいくらでも後知恵を働かせられるため、結果についてもいくらでも説明できる。今回についてはこちらの図が分かりやすい説明として紹介されている。
 このゲームにおいてBucsのパスラッシュに何度も追い回されたMahomesは、パスを投げるかサックされる前にトータルで497ヤードも走り回ることになったそうだ。最終的にMahomesは56回のドロップバックのうち半分以上の29回でプレッシャーを受けており、これはSuper Bowl史上最多になるという。一方のBradyは30回のドロップバックでプレッシャーを受けたのはたった4回。この差がゲーム結果に影響を及ぼしたのは確かだろう。
 だが、この結果を見てすぐ「ChiefsのOLが敗因」と決めつけるわけにはいかない。以前にも指摘しているが、QBへのプレッシャーは必ずしもOLの質とは直結していない、というかむしろQBのプレイスタイルとの相関の方が大きい。このゲームについても、Next Gen Statsを見ると、Bradyがパスを投げるまで2.27秒しか要していないのに対し、Mahomesは3.47秒とかなり長い時間ボールを手放さなかったことが分かる。
 時間にからむ数字で見てもMahomesが多くのプレッシャーを受けていたとの指摘はある。Pro Football Focusのデータを使ったと思われるこちらのツイートによると、彼は2.5秒以内で合計25回のプレッシャーを受けていたそうだ。だがプレッシャーという概念自体、そもそも主観的なものである。もっと客観的なデータを使うと、そこでは異なる姿が浮かび上がってくる。
 Next Gen StatsでOLが突破されるまでにかかった時間を調べたpass block win rateによると、Chiefsの数字は67%だった。シーズン中の数字と比べると3位のCardinalsと同じであり、つまりChiefsのOLはこのゲームでむしろリーグ屈指の活躍を見せたことになる。同じくNext Gen Statsが算出しているプレッシャーがかかりだした時間の平均を見ると、リーグ平均の3.02秒を上回る4秒超だったそうで、ここでもChiefsのOLは非常に健闘していたことになる。
 それだけではない。PFFの主観的データを使っても、なおOLを擁護することは可能だ。少なくともAFC Championship Gameとの比較で見る限り、ChiefsのパスプロテクションはむしろSuper Bowlの方がいい数字を残していた。そのAFCCGでMahomesは+0.57のEPA/Pを積み上げ、Bills相手に圧勝している。OLの控え選手が出てきたことによるマイナス影響は、少なくともこのデータからは窺えない。
 だとしたらなぜSuper BowlのMahomesはあれほど酷い成績(EPA/Pは-0.19)を残したのか。一つにはBucsのセカンダリーが素晴らしい働きをしたことが考えられる。もちろんOLも数字に出てこない問題を抱えていた可能性はあり、その両方が作用したと判断することも可能だ。だが個人的には別の要因も考慮しておきたい。コーチングだ。
 知っての通り、Super Bowlの少し前にChiefsのHCであるReidの息子が絡んだ交通事故があり、小さな子供が重体になっている。Reidはゲームに際して緻密な事前準備をすることで知られており、bye week後の高い勝率もその事実を反映したものだろう。だが今回のゲームに限って言えば、彼は万全の準備ができるような精神状態になかった可能性がある。
 論拠はない。あくまで個人的な妄想でしかないが、Reidがそうなっていたとしても、人間としては当然の反応だと思う。NFLは結局のところただの興行だし、それより大事なものが世の中にはたくさんあるのも事実。それに、Chiefsのオフェンスが不振だったのではなく、Bucsのディフェンスが素晴らしかった可能性だってある。それでも、もしこの事故の影響で、Chiefsのコーチたちがレシーバーをフリーにするルートを見つけ出せなかったのだとしたら、ファンとしては残念な気持ちはある。
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