1796年・カール大公

 1796年戦役関連の史料。今度はカール大公に関連するものだ。まずは戦役開始前に彼が軍に出した布告から。

「5月30日にマインツで発せられたカール大公の布告と軍への一般命令
 横柄なフランス政府による不公正で贅沢な要求が平和に対する全ての希望を消し去り、新たな戦役を不可避にした結果、皇帝陛下は休戦の停止を通知した。戦闘状態は31日の11時から正午12時の間に再開される。
 陛下はこの重要な危機に際し、この軍の指揮権を快く私に授与し、それによって私に対する最も喜ばしい信頼の証拠を与えてくださった。最大限の力を発揮することが私の義務である。私は、そのよき行為に我ら共通の国の安全と名誉ある平和の獲得がかかっており、同じ熱意と惜しみない愛国心に活気づけられた我が指揮下の全兵士が、忍耐強さと勇気をもってこの重要で有益な結末を達成することを求め、信じている。私は最も厳粛な方法で彼らにそれを強く勧める。
 兵たちの将軍に対する、そして将軍の兵たちに対する相互信頼はこれだけ偉大な計画を実行するには不可欠であり、義務の遂行は極めて高貴かつ神聖である。この信頼こそ、私が名誉ある指揮権を持つ軍に求めているものであり、さらに私が抱く誠意に値するものだと自任している。
 私は、最も不変の勇気と揺らぐことのない忠誠を持つことを既にこれだけ模範的かつ数多く証明しており、これまで戦場へ率いた中でも最も優れ最も勇敢な軍の一つを先導することに誇りを持っている。
 皇帝陛下の世襲領に対する偏愛とえこひいきを全く示すことなく、どこであれ手柄をたてたものは区別なく当然支払われるべき報酬を得るであろう。またどこであれ苦難があれば同様に私の哀れみを呼び起こすだろう。我らのつながり、視点、長所は非常に強く結ばれており、全てのものは私の愛情と支援に対する同様の権利を持つ。
 相互の尊重と経験に由来する正当な信頼に基づく同じ精神は、我々を活気づける筈だ。
 将軍たちは、祖国への愛情と、名声と栄光への高貴な熱狂を強めることで、それぞれの指揮下にある兵たちの間でこの義務に対する全般的な忠誠心を高めるようさらに努める。彼らは兵たちを、世論を誘惑し社会のつながりを断ち切る一時的な逆上状態から守る。彼らは、軽率な会話、根拠のない非難、政治的な醜聞に伴う熱狂、あるいは性急な判断により、個人が全部隊の耐えざる忍耐力を破壊することを許さない。彼らはドイツ人の精華の中にある完全な信念と、我らの大義の正しさに対する最も強烈な感情を維持し、兵たちの指揮官と彼ら自身に対する信頼を鼓舞する。敵を、少なくとも彼らの相対的な勇気と強さを侮るのは確かに軽率だ。しかし彼らを我々より高く評価し、まだ何の証拠もないのに彼らに優位を帰するのは最も臆病な行為である。
 我々は我々にとって最も親愛な筈である全てのもののために、そして信仰と、政府体制と、財産と、真の政治的自由と、秩序と、法律を、あらゆる社会的結びつきを踏みにじり、あらゆる理想と所有権を破壊した人々の攻撃から守るために、そして信仰、良心、義務感の欠落、あらゆる人間性を共倒れにしようとする試みから守るために戦う。
 我々はあらゆる文明国の権利を守る。ドイツはその幸福とその保護を我々に信任した。我々はこの偉大なる責務に答えなければならない。我々にその意思があれば、我々はそれを達成できるだろう。
 元帥は指揮下にある兵たちのこの感情に訴える。そして、将軍たちの才能と努力、さらに彼ら自身があらゆる機会に明示している勇気と大胆さに無限の信頼を置いていることを確約する。
 カール大公、元帥」
A Collection of State Papers Relative to the War Against France"http://books.google.com/books?id=Gwqp14DN7agC&pg=PR5&dq=circle+suabia&as_brr=1" p21-22

 盛り上げるような発言だけで中身はない。まあ、単に兵士の士気を上げるための布告なのだから、誰が言ってもこんな内容だろう。
 次に連合軍からシュヴァーベン・クライスが脱落した後の史料。カール大公から彼らの行動を批判される書簡を送られたことに対する返答だ。

「シュヴァーベン・クライス諸国からカール大公への訴え
 厳しく悲痛なことに、我々には無実であらゆる側から圧倒され被害にあっているシュヴァーベン・クライス諸侯と諸国の不満を、しかし特に我々が蒙っている根拠のない非難に対する不満の解消とクライスから奪い取られた財産の回復、シュヴァーベン・クライスの領内にいる帝国軍の下位指揮官が犯した敵対的な取り扱いと同じ乱暴行為に対する皇帝陛下の慈父のような保護、そしてクライス諸国間のスムーズな連絡とクライス内慣習のあらゆる可能な再構築を、皇帝陛下の前に、帝国の首長からの支持を求める我々の憲法上の要求を聞いてもらうことができるかの高名な場所に対して代表して声高かつ広く訴える他に選択肢が残されていない。
 かくして強いられることになったこの措置は、共通の利害と公益業務における公共の福祉のために無数の犠牲を払ったさらなる尊敬に値する諸侯と諸国のおかげである。現在の不幸な状況下でほとんど絶望に陥っているクライスの臣民のおかげである。要するに、殿下の返答の中で行われた痛みを伴う非難とは異なり、我々自身のおかげなのである。我々はまた、完全な確信をもって、我々に対して投げかれられた憎むべき讒言のために殿下がクライスに対する先入観にとらわれていると断言することができる。
 アウグスブルクにて、1796年8月13日」
A Collection of State Papers Relative to the War Against France"http://books.google.com/books?id=Gwqp14DN7agC&pg=PR5&dq=circle+suabia&as_brr=1" p97

 一方、フランス軍が退却を始めた後に、カール大公が一時はフランス側に寝返った領邦に対して出した宣言もある。

「カール大公殿下の、ドイツ帝国で再征服された地域の住民に対する宣言
 ヴィンデッケンの司令部、1796年9月11日
 ドイツのいくつかの国や地域から現在退却している敵は、彼らが命じ一部は未払いになっている分担金の代わりに何人かを人質として連れている。一方でいくつかの市や地域は彼らの同胞を解放するため、そうした分担金の滞納を支払う意向を感じている筈だ。
 我々は、軍の指揮官であり皇帝と帝国の元帥として、敵に連れ去られた人質を買い戻すためもしくは彼らの解放のため、現金、為替手形、その他のあらゆる方法によるあらゆる支援を送ることのないよう全ての者にあらかじめ真剣に警告するとともに、帝国内の隅々まで公表した一般的な皇帝の布告と、皇帝と帝国の指揮官の宣言に基づいて、そこから起きるはずの敵に対する優位を人々に思い出させるよう我々自身のために仕向ける。この文書に背いた場合は現存する法律の通りにその目的のために集めた金額を没収するだけでなく、そのような支払いをした者あるいは他の方法でその目的に協力した者にはその倍の罰金を科すことが避けられず、状況によっては逮捕するか他の際立った罰を与える」
A Collection of State Papers Relative to the War Against France"http://books.google.com/books?id=Gwqp14DN7agC&pg=PR5&dq=circle+suabia&as_brr=1" p104

 戦争となると互いに容赦のない行動を取るという一例だろう。

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コメント

No title

st
こんにちは。本当に素晴らしい語学能力と記憶力と熱意ですね。
まさか防衛研究所戦史研究センター史料室の方ですか?

ところで英語サイトでカール大公に対して非常に高い評価、ナポレオンとウェリントンに次ぐ、そして軍人としては彼らより上だというのを目にしました。
まとめると下記の様な主張でした。

・モロー、ジョールダン、ナポレオンを破った野戦指揮官としての腕前
・遅れていたオーストリアの軍制改革の名実ともに主導者だった。これはナポレオンがカルノーら革命初期の人たちに頼り切っていたことである
・ナショナリズムの時代を軍事面から理解し立憲君主制の有力支持者となった(兄と対立し失脚した原因の一つ)
・軍事史、軍事理論の著作を記し、ジョミニやクラウセヴィッツに次ぐ優れた分析を残している

即ち野戦指揮官&軍制改革者&軍事理論家という3つの顔を持ちどれもハイレベルであり、軍人として総合的に上だという評価です

私もカール大公はかなり好きですが、軍事理論家という点と軍制改革の資料が少なく困っています。
貴方のご意見をぜひ伺いたいです。

No title

desaixjp
カール大公についてはRothenbergのNapoleon's Great Adversaryに指摘があったと記憶しています。
基本的に彼はこの時代においては保守的な人物で、どちらかというと18世紀的な「位置取り戦争」を評価している人物だ、と書かれていたと思います。
軍制改革についてもRothenbergの本にいくつか紹介されていました。

あと彼の理論についても、最近になって英訳本が出たようです。
https://www.amazon.com/dp/1934840971

以上、ご参考まで

No title

st
ありがとうございます!

彼の著作英訳でてたの恥ずかしながら知りませんでした…それにしてもタイトルが紛らわしい。
Kindleでいけるので早速買ってみます

No title

desaixjp
お役に立てたのなら何よりです。
面白い内容だったら教えてください。
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