NFLではPro Bowlが開催されなかった。代わりに開催したのは
マッデン21版のプレイ 。個人的にPro Bowlはゲームとしては別に面白くも何ともない試合だと思うが、さすがに来年はリアル開催ができるようになっていることを祈りたい。
というわけで今週の最大の話題は
StaffordとGoffのトレード 。一昔前に比べるとNFLでの選手トレードは増えてきた印象はあるが、これだけ派手なものは確かになかなか記憶にない。実際にはLionsはStaffordを、RamsはGoffに加えて2021年のドラフト3巡、2022年と23年の1巡と3つのドラフト権を譲り渡すという。
年齢だけ見ると年寄りのStaffordの方が高い評価を受けるのはおかしく見えるし、QBとしての成績を見ても例えばキャリアのDAKOTAはどちらも0.076と同水準(GoffはEPA/Pが0.105、CPOEが-1.3で、Staffordは0.110と-1.6)。RANY/AではStaffordが+0.255でGoffが+0.416と、年齢同様Goffの方が価値が高い。そのため一見してRamsが払いすぎに見えるが、キャップを見るとGoffが2019年にキャップヒット17.8%の契約を結んだばかりだったのに対しStaffordは2017年に16.2%となっており、残された負担は後者の方がずっと少ない。トレードの場合、契約は引き継がれるので、この部分の穴埋めが必要になったのだろう。
ちなみにトレード前時点での2021シーズンのキャップスペース(Over The Capによる)は、Ramsがマイナス31ミリオン、Lionsはプラス1.7ミリオンと、確かに後者の方が余裕はある。だが金額的には微々たるものだし、どちらもまだこれからかなりの調整を強いられるのは間違いない。こうした苦しい対応は、これからもいろいろなチームで見られるだろう。
QBとしては他に
Riversが引退を表明 するという動きがあった。現時点で39歳だから年齢的にはそう意外でもない(40歳すぎて続けている方が異常)。今後は地元で高校のアメフトチームのコーチをやるそうで、これだけの記録を残した選手にしては地味なセカンドライフではあるが、変にマスコミなどに転じるのではないあたり、本当にやりたいことをやろうとしているのかもしれない。
彼は2004年ドラフト組の中では間違いなく最良のパッサーだった。Roethlisbergerと比べてもRiversのキャリアANY/Aが6.93であるのに対しRoethlisbergerは6.68とRiversの方が高い。RANY/AでもRiversが+0.977に対し、Roethlisbergerが+0.763となっている。他の2004年組といえば同じく今季限りで引退したSchaub(6.48)や、既に引退済みのEli Manning(5.92)などがいたが、どちらもパス成績はさらに劣っている。
Riversの不幸は3つある。その1、同期ではなく、その前後に偉大すぎるQBが大勢いたこと。1998年ドラフトのPeyton Manning、2000年ドラフトのBrady、2001年ドラフトでRiversの前にChargersのスターターを務めていたBrees、そして彼の翌年にドラフトされたRodgersだ。2004シーズン以降で見ると、この4人で合計12個のAP First Team All-Proを手に入れているほか、Super Bowl Ringも8つ入手している。今シーズンの結果次第ではそれぞれ13個と9つになる可能性すらある。
彼ら4人の成績を見ると、例えばANY/AはPeyton(7.17)、Brady(7.10)、Brees(7.10)、Rodgers(7.42)とそろって7ヤードを超えている。これだけ高水準の成績をたたき出せるQBとほぼ同時代にプレイすることを強いられた結果、RiversはPro Bowlに8回も選出されながらAll-Proへの選出はついに1回もないままキャリアを終えるに至った。皆そろってキャリアが長かったのもRiversにとっては不運で、Rodgersがいつまで続けるかによるが、少なくとも現時点ではRiversより若い時期に引退した者はいない。
2つ目の不運はチームだ。こちらは上記4人もさることながら、むしろ同期たちとの比較でRiversにとって大きくマイナスに働いたとみるべきだろう。特にパス成績だけならRoethlisbergerを上回っているのに、勝ち負けだとRiversの134勝106敗に対しRoethlisbergerは156勝74敗1分と大きな差がついた理由となった。優れたチーム作りをしていたチームにドラフトされた後者の方が、そうでないチームで長く過ごすことになった前者より勝ち星で上回ったのは仕方ない。同様にディフェンスの力でSuper Bowl Ringを手に入れたEliに比べると、味方の助けが少なかったRiversは不幸だと言える。
3つ目はゲームにおけるツキのなさだ。上記の通りRiversはキャリア全体では勝ち越しているのだが、7点差以内のゲームに絞って勝敗を出すと51勝69敗と大きく負け越している(プレイオフ含む)。1ドライブ差以内のゲームにおいては実力もさることながら運不運の影響も大きい。彼自身の責任ではない僅差の敗北も含め、そうした部分での不運が色濃くつきまとったキャリアだったように思う。
そしてここで質問。RiversはHOFにふさわしいのか。優勝という意味ではふさわしくないという結論になるが、歴代QBでHOF入りしたメンツを見ると、必ずしも優勝は必須の条件ではない(Marino、Tarkentonなど)。逆にパッサーとしては大したことのないQBが優勝を理由に選ばれるケースは少なく、その意味ではEliよりRiversの方がHOF入りの可能性は高そうにも見える。だが本当にそう言い切っていいのかどうかはもう少しきちんと調べる必要があるだろう。
RANY/Aで見ると、データが取れる1969年以降で彼は15位に位置する成績(0.977)を記録している。上位陣のうち、現役及びHOF選出前の選手を除くと、彼より上位でHOFに選ばれているのが6人(Young、Staubach、Montana、Marino、Warner、Fouts)、選ばれていないのが2人(Romo、Anderson)いる。そして彼のすぐ下には選ばれていないQBがGarcia、Green、Rypienと続いている。これらを見る限り、Riversは選ばれる水準の少し下にいるように見える。
RANY/AではなくANYのValueで見るとどうだろうか。彼より上にいる2人のQB(Marino、Montana)はどちらもHOFに選ばれており、下にいる選手たちの中にもYoung、Fouts、Favre、Warner、Staubachら選ばれている選手は多い。もちろんRomoやAndersonは選ばれていない選手なのだが、彼らの積み上げたValueはRiversに比べれば低いわけで、長期にわたる活躍が評価されるのならRiversがHOF入りする可能性は無きにしも非ず、と見える。実際、Valueで見れば彼は歴代トップ7に顔を出している。彼より上にいるのはMarino、Montana以外は上で紹介した4人のQBたち(Peyton、Brady、Brees、Rodgers)だけだ。
Pro-Football-Referenceでは彼のポジションを非常に微妙な位置に置いている 。歴代QBたちの中でも高いところにいるのは間違いないが、平均的なHOFのQBにほんの僅かながら届かない評価だ。それでも彼より下にいるRyanやRoethlisbergerがHOFに選ばれるような事態になれば、なぜRiversは選ばれないのか、という声が大きくなる可能性は十分にある。個人的にも、もしRoethlisbergerがHOF入りするのなら、Riversを入れないのはおかしいと思う。
2018シーズンまで彼の成績は基本的にリーグ平均を上回っていた。だが負傷で早々に欠場した2019、そして一応最後までプレイした2020シーズンは、どちらもANY/Aで見てリーグ平均より下の成績になっている。同じ年寄りQBたちの中でもRodgersがMVPレベルの、BradyやRivers、Breesが平均より上の成績で2020シーズンを乗り切ったのに比べ、Roethlisbergerの苦闘ぶりが窺える。
DAKOTAで見ても状況は同じで、Roethlisbergerのレギュラーシーズン中の数字(0.086)はGoff(0.090)とNewton(0.062)に挟まれた位置にある。要するにかなり悪い方の数字だ。年齢も含めて考えると、彼に多額のキャップを注ぎ込むメリットがないと考えても不思議はないし、チームがカットを選べばキャップ負担を19ミリオン減らせるわけで、今のままでは後1年プレイする機会すら与えられないかもしれない。
彼が契約リストラに前向きな発言をするのも不思議ではない わけだ。
来年の彼の成績がどうなるかは神のみぞ知るだ。2019シーズンにほぼリーグ平均並みまで成績を下げてこれで終わりかと思われたBradyは復活したし、同じようにかつての輝きを失っていたように見えたRodgersも2020シーズンにはピークに近いレベルまで成績を戻してきた。前にも書いた通り、
一流QBたちは必ずしも晩年に崖を転落するとは限らない のだろう。Riversとは違う道を選ぶ彼がどうなるかは興味深いところだ。
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コメント
彼がドラフトされたジャイアンツにそのままいたら、多分Eliよりもさらにリングを手にできたはずで、HOF入りも現在の当落線上ではなかったはずです。
それを考えると、本人の能力もさることながら、どこのチームに属するかと言う本人の能力ではどうしようもない不条理を感じます。
私的には、今考えるとRiversはB reesやManningにみたいにもっと早い段階でチームを移籍すれば良かっと思います。
つくづくSan Diego所属が勿体なかった。
2021/02/04 URL 編集
ずっと同じコーチングスタッフだったのなら、もしかしたら彼らのプレイコールが原因ではないかと解釈もできるのですが、別にそういうわけでもありません。
RiversがChargersにいた14シーズンのうち、得失点差から見たPythagenpat勝率を上回る成績を収めたのはたった4シーズしかないのですが、それは全て別々のHCの下で記録されたものです。
Chargersにいたのが不運だったと言われれば、確かにそんな気がしてくるデータですね。
ドラフト指名時と同じGiantsにとどまっていたらどうなっていでしょうか。
2021/02/04 URL 編集
Riversの不運の原因のひとつにホームの利点の弱さがあるのではないでしょうか?
San Diegoは赴任の街で熱狂的なファンが少ないことが言われていますが、これがクラウドノイズの弱さなどにつながり敵にHomeゲームなのに通常通りのプレーをされるからです。
実際コロナの影響で観客がほぼいなかった2020seasonはHomeと RoadのNFL全体での成績はほぼ互角でしたが、2019seasonは若干Homeの方が勝率はいいです。
まあ、2020seasonは非常に特殊なseasonだったので、あまり鵜呑みにはできないですが、この観客を入れない環境が後2年くらい続けば、もっとファンやHomeの利点、クラウドノイズが与える影響がわかると思います。
でも実際は経営的にはありえませんけど。
2021/02/05 URL 編集
https://www.theringer.com/nfl/2021/1/6/22216167/nfl-playoffs-home-field-advantage-covid-19-restrictions
ただ原因はクラウドノイズばかりでもない、というのが上の記事の分析ですね。
Chargersの成績にHFAがどの程度の影響を及ぼしていたかについては定量的に把握する必要がありそうですし、そのためにはデータを色々と見た方がいいと思います。
誰かそんな分析をしてくれればありがたいのですが。
2021/02/05 URL 編集