前回、
米議事堂襲撃に関連する
エントリーで、今後の問題点として治安当局の話を取り上げた。なぜああも容易に暴徒を議事堂に入れてしまったのかについては
報道でも
問題視されており、
議会警察長官が辞任を決める事態に至った。何より問題なのは、今回の件が昨年ずっと続いていたBLMで指摘されていた「治安当局が人種差別的な対応をしている」との疑惑を裏付けてしまうような事態である点だ。
以前
ピンカーに対する抗議について書いた際に、それに対する
反論の日本語訳を紹介した。そこで指摘されていたのが、ピンカーの「警察は黒人に偏って発砲しているわけじゃない」という主張。人口に占める黒人の比率に対して警官に撃たれる黒人の比率が高いのは確かだが、逮捕者に占める黒人の比率と比べると実は似通った数字になる。だから警察は別に人種差別的に行動しているわけではなく、あらゆる犯罪容疑者に同じように接している、という理屈が成り立つわけだ。
記事によると、それまでアフリカ諸国を対象に
武力紛争をまとめていたプロジェクトが、2020年からは米国も対象に調査をし始めたところ、警察の対応には偏りがあることが判明したのだそうだ。警察は左翼の抗議行動に対しては51%の確率で力を使っているが、右翼の抗議に対しては34%しか使っていない。BLMの93%は平和裏に行なわれたものだったにもかかわらず、そちらの方に対する反応の方がより強引だったわけだ。プロジェクトの担当者は今回、警察が議事堂への侵入を許したことについて「本当に信じられないが、まったくもって驚きではない」と話している。
そうした警察の反応が左右両派からも認識されていたことを窺わせる証言もある。
こちらによれば、議事堂に侵入したうちの1人は「こんなのアメリカじゃない。彼ら[警察]は私たちを撃っている。BLMを撃つものだと思っていたのに、愛国者を撃っている」と叫んでいたそうだ。侵入したトランプ支持者の多くが顔を隠そうともしなかったのは、
マスクを巡る政治的対立もあるが、一方で逮捕されやすい左翼より警戒が薄かった(
薄すぎた)面もある。
こちらの記事でも、今回の暴徒に対する彼らの対応の甘さについて色々な事例が報じられている。
FiveThirtyEightの記事では、今回の不手際を責められた警察が、今後はどんな場面でもより強硬に出るようになるのではないかと指摘している。同時に、警察が味方だと(勝手に)思い込んでいた右翼の側からは、警察を裏切り者と考えてより破壊的な行動に出る可能性があるという声も紹介している。「暴力は暴力を引き起こす」リスクが高まるわけだ。
政府組織、特に公的な暴力を担う組織内にこうした政治的勢力と結びついた人々が一定数いるということは、政府内部で互いに政治的な争いを行う、つまり内戦を起こす可能性がそれだけ高いことを意味する。また、今回の襲撃が治安当局の意図的なサボタージュではなく単なる無能だったとしても、それはやはり当局者の能力不足が引き起こす反乱・内戦リスクの高まりにつながる。実際、
既に左翼側も武装している例がある。
もちろん民主党はかなり強い態度に出ている。まずはトランプの罷免を求めたが、副大統領がこれに応じない姿勢を見せたところで今度は議会による弾劾の方針を打ち出した。だがこの弾劾によってトランプが大統領の座を追われるかどうかについて、
FiveThirtyEightの記事は極めて懐疑的だ。結局のところ弾劾による大統領解任には共和党から一定数の支持が必要であり、それだけの支持を集めるのは無理と見ている。
そしてもう1つ。そろそろ対岸の火事と笑ってみていられなくなる可能性も考えておいた方がいいかもしれない。以前から日本国内のトランプ支持者という謎な存在がいたが、
彼らはいまだに一定数の勢力を保っている。中にはかなり新興宗教が混じっているようで、その
カルト性に警戒を強めるべきだとの意見も出てきた。彼らも結局のところ米国同様、「対抗エリート」に煽られた「不満を抱えた大衆」だとすれば、日本でも構造的人口動態危機が次第に膨らんでいることになるわけで、確かに楽観視できる状態ではない。
それにしても米国でここまで権威主義的主張に同調する人が増えるとは思わなかった。
以前載せた「妄説」で、21世紀半ば以降の統合局面はローマ帝国の専制政治と似た形の社会が増えると予想したが、米国の現状を見ていると世界がそちらの方に向かっていると言われても違和感はない。
スポンサーサイト
コメント