当選確実

 長々と開票作業が続いていた米大統領選挙だが、現地土曜日になってようやく当選確実の報が出た。投票前からカギを握ると言われていたペンシルベニア州(あとついでにネバダ州)でのバイデン勝利が決まり、彼の獲得した選挙人の数が過半数を超えたためだ。というわけでバウツェンの話は今回もまた休み。
 ペンシルベニアの開票結果だけ見ると大逆転劇に見えるかもしれないが、それは単に郵便投票の開票を後回しにしたためにすぎない。もし当日投票分と同時並行で開票をしていれば、おそらく最初からずっと接戦のまま推移し、最後に決着がついた、という格好になっていただろう。一般に都市部の開票ほど時間がかかることを踏まえれば、最後にバイデンが振り切るという展開くらいはあったかもしれない。今回の投票でも改めてわかったことだが、米国における分断は都市と地方の間に存在しているからだ。
 実際、終盤の開票対象が偏っていたことは、かなり早い段階からペンシルベニアとジョージアにおけるバイデン逆転の可能性の高さを容易に予想させていた。こちらのツイートを見ると分かる通り、途中から投票数の差はほぼ想定通りの変化を見せている。これほどきれいに一直線上に並ぶデータはなかなか珍しい。
 それにしても改めて、開票直後に一時トランプがfavoriteになったのは謎である。こちらのグラフを見ても分かるが、現地4日の日中だけそうした動きが生じているが、それを除けばグラフはほぼ一直線に近い形で民主党勝利の側に向かっている。Nate Silverは、開票開始以後のあらゆる時点においてバイデンがunderdogになったとは思えないと言及しており、むしろオッズの変動は過剰反応だったと考えた方がいいんだろう。
 Silverは今回の選挙における世論調査と実際の結果との誤差が「歴史的な基準でみてかなり平常であった」と結論付けている。もちろん、前にも指摘した通り、いくつかの州で世論調査が2回連続でトランプを過小評価したことは確かであり、その部分については見直しが必要だろう。最終的には全ての投票が確定するのを見たうえでの判断になる。

 今回の大統領選では、複雑な社会の崩壊について触れた記事も出てきた。目立ったのはNew York Timesに載ったHow Do You Know When Society Is About to Fall Apart?というやつだ。前に紹介したTainterに加え、崩壊論に対して批判的なMcAnany、青銅器時代末の東地中海における社会の崩壊について本を記しているCline、そしてTurchinなどにインタビューした内容が記されている。
 基本的にこれらの学者たちが現在の社会に対して懸念を抱いていることを紹介したものであり、全体として悲観的なトーンで書かれている。一応最後の部分に楽観的な表現も含まれているものの、この文章を読むと、今すぐにでも崩壊が訪れるのではないかという気がしてくる人もいるかもしれない。
 この記事に比べるとほとんど読まれている様子はないが、同じようにTainterに触れているのがNo Matter Who Winsという記事だ。こちらはより大統領選に話を近づけつつ、一方で今年に入ってからの米国での原油生産量の減少といった問題にも触れながら、誰が勝つとしても選挙後にこうした課題にどう対応するかが重要だと指摘している。
 どちらの文章も、眉を顰めつつ悲観論を嗜むインテリに受けそうな文章ではあるが、足元の状況がそれほど悪いかと言われると個人的には疑問がある。例えば後者の記事では、化石燃料について市民が購入できる金額が下がる一方、企業が収益のために必要とする価格が上昇していると述べている。米国で生産の多いシェールオイルに関して言えばそうした理屈も成り立つと思うが、それ以外も含めた原油価格自体は足元で40ドル前後と、インフレ調整後の過去の価格と比べて極端に高い水準とまでは言い難い。崩壊があるとしてもあくまで「米油田」に限った話にしかならないように見える。
 前にも書いているが、足元で先進国が収穫逓減に見舞われているのが事実だとしても、崩壊に至るのはもっと先の出来事のように思える。複雑な社会はそこまで極端に脆弱ではなく、もっとレジリエンスに富んでいるのではなかろうか。崩壊ネタを読むこと自体を楽しむのは個人の趣味だが、あまりハマりすぎ、本気で崩壊が迫っているのになぜお前らは理解できんのだなどと主張しはじめると、不正選挙があったと騒ぐ陰謀論者と同じカテゴリーに落ちてしまうように思う。剣呑剣呑。
 とはいえこの2つの記事が指摘している「問題はこれからだ」という点はおそらく正しい。バイデンは当選確実の報道を受けた演説で「分断するのではなく団結させる大統領になる」と述べ、国民の融和を訴えた。
 だが現実は厳しい。選挙終了を受けてトランプ支持者に共感することが大切だというツイートに対し、「過去にそのやり方は通じなかった」という冷めた指摘がなされている。むしろバイデン支持者の感情はこちらの風刺画の方が近そうだ。それにトランプ自身は表立って諦めている様子はない。一応、周囲が説得しているという話が報じられているほか、現ホワイトハウスのスタッフが既に就職活動を始めているとの話もあるが、もし引き続き本尊が抵抗を続けるのであれば、それに便乗する人間が出てきても不思議はない。
 すでに投票直後から各地で抗議活動が起きていた。一部では暴徒化した例もあるし、フィラデルフィアでは開票作業をしている会場の襲撃計画があったと言われている。右も左も暴力に訴えようとする過激派に事欠くことはなさそうだ。Turchinの言う通り「リンカーンは1860年11月6日に大統領に選出されたが、南北戦争の最初の本当の戦いが行われたのは1861年7月だった」わけで、足元で落ち着いているからといって問題が解決したとみなすのはまだ尚早だ。

 それでも、この時点でトランプ政権の総括に入っている人もいる。Milanovicは「ドナルド・トランプのおかげ」と言える2つの点を指摘している。1つは彼の唱えたアメリカ第一主義への評価。米国のことを第一に考えるというのは、裏返せば米国以外を全て傘下に収めるような覇権を目指すつもりがないことを示していたわけで、これは「恒久平和のための終わりなき戦争」を終わらせることにつながる、という理屈だ。実際、トランプは戦争をしていない珍しい大統領だという指摘はツイッター上でもしばしば見られた。
 もう一つは評価点というよりはトランプによって知られたことだが、「政治と経済の中核における腐敗の深さ」が彼の政権によってあからさまになった点がある。彼以前の政権においては、そうした行為がなされていてもそれらは隠されたままだった。だがトランプ政権では、彼の友人や家族までが彼を裏切り、内幕をバラすことで「多くの強力なビジネスの中核に腐敗、堕落、にもかかわらずそこからの無罪放免があった」ことを白日の下に晒した。「秘密裏に享受される罪は容認されるか見過ごされる。だが誇示された罪はそうはいかない」。エリートの腐敗を知らしめたことがトランプの功績、というわけだ。
 確かにそうした面はある。でも後者の点は、一方で今の政治制度に対する人々の不信をさらに高めるというマイナスの側面があることも否定できない。トランプ政権の功罪については、まだこれから確認すべきことが多々あるように思える。
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コメント

民主主義の問題点

きんのじ
今回の大統領選挙でワアワアとなって、日本から見てて感じたのは
・トランプさんは投票の結果で正々堂々と大統領になるつもりは最初から無さそう
・トランプさんを支持する人達も、そういうトランプさんだからこそ応援していたように見える
・詰まるところ、アメリカでは民主主義への不信や不満が相当に大きそう
で、アメリカは民主主義を続けられないのではないか?くらいに、今回の件で感じています。

もしアメリカ国民の半数が民主主義を嫌だとしたならば、多数決で民主主義は民主主義的に終わりを迎えるのではないのか?
という疑念と、民主主義の脆弱性(民主主義は正しいという神話の上に成り立っている?)と。

民主主義は公正・公平に施政者を選ぶシステムであっても、民主主義で選ばれた施政者が公正・公平な政治を行う保証は一切ない。

トランプさんの言った「忘れられた人々」の怒り・不満・不信は、アメリカの民主主義を破壊するほどに深いのではないか?

個人的にはトランプさんはメチャメチャだと思いますが、トランプさんがなぜ支持されているか?
ちゃんと考えないといけないと思います(^-^)

desaixjp
民主主義の問題点は前にも書いたことがあります。
https://desaixjp.blog.fc2.com/blog-entry-1482.html
今後はトランプ及びその支持者がどこまで民主的な手続きを無視するかが、これからの米政治のカギを握ると見ています。
彼らがこれまでのアメリカの民主主義におけるルールを踏みにじれば踏みにじるほど、アメリカという制度への信頼感が損なわれるのではないでしょうか。
その意味で、やはり今回の選挙はトランプとバイデンの争いというより、アメリカの政治社会制度に対する信任投票になっている、と見ることができるのでしょう。
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