ホワイトハウス争奪戦

 バウツェンの話は1回休み。予想通り米大統領選が簡単には決着していない。開票後にオッズがこれだけ変動した大統領選は記憶にないが、正直、一部で報じられている「世論調査が当てにならない」という言説は、あまり当てにならないと思う。
 世論調査を基に予想を出しているFiveThirtyEightの最終的なforecastを見ると、そもそもどちらかが地滑り的に勝利する確率は3割未満だったことがわかる。世論調査に従えば、7割の確率であまり差がつかない状態で勝負が決まると予測できたわけであり、現在のところ選挙結果はその「7割」の方に向かっている状態。少なくともこの点については世論調査が間違えているとは言いがたい。
 投票当日の未明に出た記事を見ても、「地滑り的勝利と、ハラハラドキドキの展開との間には、紙一重の差しかない」と見出しで告げており、今回の展開は決して予想外ではないといえる。にもかかわらず今回も世論調査が批判を浴びているのは、単に全国レベルの支持率だけを見て地滑りを予想するという「手抜き予測」をしていた連中が外したからではなかろうか。問題があるとしたら世論調査ではなく、世論調査を解釈してその意味を伝える作業にあたった人々の方だろう。
 開票作業開始後のオッズの変動も、事前に言われていた「開票当初は当日投票が多いトランプ氏の得票が先行し、時間を追ってバイデン氏の票が増える展開」通り。いわゆる「赤い蜃気楼」であり、むしろその程度の展開であそこまでオッズが変わったことに驚くべきかもしれない。賭けに携わっている者たちにとっては4年前のトランプ勝利の印象がいまだに強いのだと思われる。
 ちなみにこの勝率の変動に関連して「2013年のRavens @ BearsのWPAの推移と似ている」という指摘があった。もちろん何の意味もない単なる偶然の一致だが、この試合が最終的にOTにもつれ込んだというのは何とも暗示的である。
 閑話休題。もちろん、個々に見れば世論調査とのずれが生じている事例はある。よく取り上げられているのがフロリダ州で、バイデンが0.9%ポイントのリードだったのが、実際には3%ポイント以上のリードをトランプが奪っている。またウィスコンシンが事前予想に比べてかなりの接戦になったのも目立った事例だ。一方、ミシガンのように直前でトランプが追い上げた州では、接戦という結果もそれほどおかしくはない。
 FiveThirtyEightの最終的な予想を見ても、3%ポイントのずれがあればフロリダがトランプ側に転ぶ可能性は指摘されている。オハイオやテキサスは元々トランプ優位の予想であり、これらの州が赤く染まったこともそれほど意外感はない。全体として世論調査に基づく予想よりトランプ側に偏っているのは間違いないが、それが予想される誤差の範囲を超えているかどうかについては、全体の数字が固まったところできちんと分析する必要があるだろう。世論調査が今回も当てにならなかったかどうかを判断するのは、それからでも遅くない。
 他にこちらの予測を見ても、未確定の州を除くと予想から外れたのはフロリダとアリゾナの2州のみ。世論調査も含め、今回の選挙は「大統領選前に専門家が言及してた」範囲内で推移していると思う。

 ちなみにTurchinはFiveThirtyEightの予想に対して「直感」から疑問を呈していた。この疑問自体は論拠に乏しいため個人的にはあまり評価しないし、「隠れトランプ支持者」に対する彼の見方についても、世論調査における補正ミスという説の方が論拠がはっきりしている。歴史を調べるためにデータを積極的に使っているのだから、今回の選挙についても同じスタンスで臨んでほしかったという気持ちはある。
 しかしながら一方で、選挙結果自体が彼が述べてきた革命とか内戦という可能性の高くなりそうな方向に進んでいるのは、それはそれで興味深い。一時的な混乱は避けられるが問題自体は2024年に先送りされる地滑り的な勝利の可能性はほぼ消えている。残るのは「高い正のリアプノフ指数の頂点」から「あらゆる種類の結果」が起こりうる展開だ。そのあらゆる種類の中には内戦も含まれているという。
 何度も繰り返すが私は内戦に至る可能性は低いと思っている。それでも今回の大統領選の流れが、米国の分断をさらに激化するような展開になってしまっていることは否定できない。一部でバイデン圧勝との言説が出回り、それが開票後にひっくり返ってトランプ勝利の芽が生まれ、そこからさらにバイデンの逆転という展開が見えつつある。日本国内で不正選挙だと騒いでいる人たちについては理解不能だが、米国内で騒ぐ人間が出てくるのは謎でも何でもないし、特にトランプ支持者についてはミリシャのような存在がいるため、最悪の事態について懸念するのもおかしくはない。
 それに、足元で起きている現象が、結局のところ大衆を置き去りにしたエリート内対立であることは、米国の有権者にも見透かされているように感じる。今回の選挙ではトランプが白人の票を減らしている一方、ラティーノをはじめとした有色人種の票を増やしているとの話がある。テキサスやフロリダがあっさり赤くなったのも、この地域に住む彼らがむしろトランプを応援したためだそうだ。BLMで左翼的な活動をする人がバイデンを支持していることに、キューバやベネズエラからの亡命者が危機感を抱いたという指摘は、見過ごすわけにはいかないだろう。
 この記事の中で指摘されている「党派対立が優先事項になる白人活動家と、生活が優先される黒人層」という指摘は、そのままエリートと大衆と読み替えても通じるかもしれない。そして今回、大衆層が共和党に流れ始めたのだとしたら、それはPickettyが指摘していた「複数エリート政党」制から、「エリートこそ左翼政党を、大衆が右翼政党を支持する時代」へと移りつつあることを示しているのではなかろうか。トランプ以前の共和党は徹底した自由主義を表看板にしていたが、彼の登場によって必要なら保護貿易に舵を切る政党になっている。現在の共和党はかつての民主党化しつつあるのではなかろうか。
 そもそも共和党と民主党は歴史の過程で支持層をほぼそっくり入れ替えている。かつては圧倒的に北部の党だった共和党が今では南部で強く、逆に南部で強みを持っていた民主党は北部や太平洋岸に基盤を置くようになっている。選挙に勝つために相手の支持基盤に手を伸ばし、それに対抗して相手も自分の支持基盤を奪おうとする、といった展開を繰り返した結果、このような流れができあがった。だとすれば今後も同じことが起きても不思議はない。
 問題は、そういった陣取り合戦を平和裏に続けられるか、それとも暴力を伴う事態になるかどうかだ。まずは法的措置に訴えるところからスタートしたようだが、それがどこまでエスカレートするかは現時点では不透明。サイバーパンク・ディストピアになりつつある米国の明日はどっちだ。
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