妄言続き。Turchinの
Ages of Discord によると、米国は1820年代(
好感情の時代 )に統合局面Integrative Phaseから解体局面Disintegrative Phaseへのシフトを経験し、1910年頃(
進歩主義時代 )に解体局面から統合局面へと移り、そして1960年頃に再び統合局面から解体局面へ移行したことになる(Ages of Discord,
Figure 4.10 )。現在は2度目の解体局面が続いている最中であり、その中で政治ストレス指数PSIが上昇し、危機が迫っている状態だ。
解体局面がどのくらい続くかは分からない。Turchin自身が
「銀杏モデル」 と称している危機局面の理論によると、「構造人口的な危機へと入る軌跡は極めて狭い範囲で方向づけられている。だがひとたび危機が勃発すると、突如としてより広い扇状の可能性が広がる」と言う。危機がどのような道筋をたどるか、だけでなく、それがどのくらい続くかも含めて、明確な予測は難しいということだろう。つまり、
Turchinが2020年に来ると予想した西欧や米国の危機 も、いつ来るかはともかく「いつ終わるか」は簡単には分からないことになる。
英国革命と同時期の
明清交替 だと、台湾など一部の地域を除けば李自成の乱から数えて20年強で清は中国の大半を押さえている。オスマン帝国で起きた
ジェラーリの反乱 はもっと長く続いているが、一方でこちらはかなり断続的で具体的な危機が起きていた期間はそれほど長くなかった。そして米国では
南北戦争 がたったの足かけ5年だ。
つまり、足元で起きていると思われる危機局面についても、長引いてせいぜい1世代以内の期間で収まる可能性がある。今から数えれば2050年頃には収まっているという計算だ。そして、これが収まると、その後に再び統合局面が訪れることも考えられる。前回の米国の解体局面は1820年から1910年までのおよそ90年続いた。足元の解体局面が始まったのは1960年頃であり、それから90年が経過すると2050年となる。21世紀半ばは、現在の解体局面が一巡するのにちょうどいいタイミングに見えるのだ。
一方でこの21世紀半ばという時期は、
「2050年 世界人口大減少」 によれば人口減少が始まるタイミングとなる。正直、この時点で人口減が始まると言う説はかなり極端な説であることは否定できない(
国連の中位予測 だとその時期は2100年)。それでも最も早いタイミングとしてこの時期に人口減が始まるという説があるのは間違いない。
そして
以前にも指摘した が、統合局面というのは新規参入に障害を設ける時代でもある。世界的に人口が減る時代になれば移民獲得も難しくなっているだろう。かつて米国は移民を制限することで解体局面から統合局面にシフトすることができたが、21世紀後半には移民が自然に減少することによってこの移行を成し遂げる可能性は十分にありそうだ。
では「崩壊」はいつ訪れるのだろうか。Ages of Discordを見ても、米国の最初の統合局面がどのくらいの期間続いたのかは不明だ。おそらく独立戦争から1820年代までの40~50年ほどだと思われるが、18世紀まで遡ったデータはさすがのTurchinも示していない。一方、2回目の統合局面は1910年頃から1960年頃までの約半世紀にわたって続いたことが判明している。だとすれば次の統合局面は21世紀半ばから50年ほど、22世紀との世紀の境目あたりまでは続くと予想できる。
この統合局面は、ローマ帝国で言えば専制政治と似たような形での統合が進むと思われる。それは複雑な社会を回すために社会や成員が持つ資源をとことんまで使い倒そうとするような社会政治体制だ。何しろそうしなければ複雑な社会はそもそも回らない。減少を続ける限界収益を少しでも増やすには投資額そのものを増やすしかない。しかもそれを少なくなっていく成員から搾り取る必要が出てくるのである。いわば「世界のブラック企業化」だ。成員にとっては一向にありがたくない社会であり、そのような社会に対する彼らの忠誠心は当然ながら薄れていくだろう。ソーシャル・キャピタルは失われ、アサビーヤは衰えていく。
もちろん統合局面においては成長も期待できる。だがそれはおそらく限られた規模・期間の成長だろう。21世紀前半の混乱が収まる過程で将来への期待が少し上向き、それが特殊合計出生率を一時期は引き上げる。だが複雑な社会が成員に多大な負荷を強いる流れは変わらないし、出生率はいずれまた低下していくだろう。社会を回すためだけに彼らの負担はさらに増え、政治体制はinclusiveではなくextractiveなものへと変わっていく。
そして、このサイクルにおいてもいずれは統合局面から解体局面への移行が生じる。大衆が困窮化し、エリートの過剰生産が進み、また新しい不和の時代が訪れる。だが今度は不和の時代を乗り越えてまた同じ枠組みでやり直そうとするものはほとんどいない。アサビーヤやソーシャル・キャピタルが、というよりそうした社会への忠誠心を支える限界収益が、もはや失われてしまうからだ。人々はより低コストで運営できる新しい社会を望み、古い複雑になりすぎた社会から逃げ出す。22世紀に入ったどこかで崩壊が起きると予測するのは、それが理由だ。おそらくは22世紀前半あたりが候補になるだろう。
ただしこれは21世紀半ばに人口が減り始めるという前提での計算になる。もしそうではなく2100年まで人口が増えるとしたらどうだろうか。この時期は次の解体局面が始まる時期と重なる。世界はそこから永年サイクル1回分、つまり解体局面プラス統合局面を経てようやく崩壊することになる。この場合はおそらく23世紀まで崩壊時期は延びるだろう。永年サイクルとの絡みで言うなら、むしろ国連の中位予想が当たることを願うべき、という結論になる。
ここまでの議論で一つ問題なのは、Turchinが足元での危機到来を予測しているのがあくまで米国と西欧である点だろう。世界の他の国は違うサイクルで動いているかもしれない。例えば中国はどうか、彼らはむしろ統合局面にあり、米国の没落を利用して覇権を握るのではないか、といった疑問も出てくるかもしれない。
だが中国が難しいのは、彼らが明白に年老い、人口減を間近に控えている点だ。既に
中国の生産年齢人口は2014年にピークを迎えて減少に転じており 、これから急速に進む高齢化と人口減という課題を抱えながら世界の覇権を目指すのはかなり難しい。世界の波乱要因にはなり得ても、米国に取って代わろうとするにはタイミングが悪すぎるのは確かだ。
逆に米国は移民のおかげもあって中国より人口減に移行する時期は遅くなると見られる。国連の低位予想でも米国の人口減は世界の人口減と歩調を合わせて起きると見ており、それまでの時期においてはむしろ中国との人口差を詰めることができる。
何よりどちらの国も世界経済にガッツリ組み込まれていることが大きい。TurchinやGoldstoneもそうだし、あるいは
Lieberman も似たような指摘をしているが、永年サイクルは各国で連動することが多い。かつては旧大陸単位での連動だったが、近代以降はいわゆる
大西洋革命 のように新大陸も巻き込んで連動するようになった。世界最大の経済力と事実上の覇権を握る米国で起きるサイクルに対し、他国が完全に無縁でいられる可能性はあまりないだろう。
もちろん厳密に米国と連動するとは限らない。時期的なずれが多少はあると考えられる。それでも21世紀の中頃までは世界的に解体局面が続き、それが世紀の後半になると統合局面に向かうという流れが生じると予測することはできる。ただし、その際に生まれる新しいサイクルの諸国は、現代の米国的な自由主義より、中国やロシアのような権威主義を志向するようになるのではなかろうか。
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