世界人口

 こちらの最後の方で触れた「2050年 世界人口大減少」を読了。国連が出している「世界人口は2100年まで増加し、110億人に達してピークを迎える」という推計に対する異論を唱える本だ。人口増はそこまで続くことなく、21世紀半ばには世界人口は減少へと向かうというのがこの本の主張である。
 別にこの本独自の主張というわけではない。例えば最近も、世界人口は2064年に97億人でピークを迎え、2100年には87億人まで減るという研究が出されていた。2100年時点における国別人口ランキングを見るとトップはインド(10億9000万人)で、以下ナイジェリア(7億9100万人)、中国(7億3200万人)、米国(3億3600万人)、パキスタン(2億4800万人)と続くそうだ。
 なぜ国連のデータに対するそうしたツッコミが目立つのだろうか。一因は特殊合計出生率の計算にあるのだと思う。例えばその推計によると日本の特殊合計出生率は2000-2005年の1.30を底に回復へ向かい、21世紀末には1.67まで戻ると推測している。あるいは日本よりさらに低い出生率の韓国(足元では1を割り込んでいる)でも、21世紀末には1.67に戻ると推計している。これまで出生率の長期低落を経験したこれらの国が、今後50年以上にわたって着実に出生率を上向かせる論拠がどこにあるのか、国連のデータを見るだけでははっきりしない。
 出生率が上向く場面が歴史上でなかったわけではない。この本でも紹介されているが、欧米諸国は20世紀初頭にかなり出生率が低下し、しかし戦後(一部では戦中から)のベビーブームでその水準が回復した事例がある。ただし、その傾向は続いたとしてもせいぜい1世代分。TurchinのAges of Discordに載っているFigure 3.1を見ると、1930年代半ばにいちど上向いた出生率は、1960年代には再び過去最低水準を割り込むに至っている。
 何より問題なのが、世界でも最も多くの人口を抱える中国とインドの推計だ。国連によると中国の特殊合計出生率は2010-2015年時点で1.64であり、この数字は21世紀末には1.77まで戻るとしている。その中国を追い抜いていずれは世界最大の人口を抱えることになるであろうインドは、2.40の出生率が1.71へと低下する見通しになっている。
 だがこの本では中国の出生率がもっと低い水準(1.2とか1.05など)にとどまる可能性を指摘しているし、インドについても実際は既に人口置換水準とされる2.1を下回っているのではないかとの見解を紹介している。こうした論拠から、この本では国連の中位予想ではなく低位予想(95%信頼区間の下限)の方がより現実的な予想ではないかと見ている。この場合、インドの特殊合計出生率は21世紀末には1.01まで低下するし、中国も1.36にとどまる。
 そして国連予想でもこの低位予想であれば世界人口は2070年の97億人をピークにその後は少しずつ低下を始めることになる。中国の人口は2030年までには減少に転じることになるし、インドでも2040年のピーク後は人口減に進んでいくことになる。ちなみに低位予想だと2100年の日本の人口は2020年に比べて55%の減少、韓国は63%減、中国は43%減、台湾は51%減と、北東アジアは壊滅的だ。低位予想だと世界の特殊合計出生率は早くも2035-2040年には人口置換水準を下回ることになる。

 なぜそこまで低い予想を強調するのか。この本は人口減をもたらす要因を大きく2つ挙げており、うち1つが都市化だ。農村では働き手、資産になる子供が、都市では負債となる。子育ての負担が増えるわけだ。加えて都市に移動した人々は、親族の監視から離れた暮らしをするようになる。若者に結婚や出産を促すのは主に親や親族たちであり、同僚や友人たちではない。都市化が進むほど若者は結婚を急がなくなり、結婚しても子供を持つのを焦らなくなる。
 だがこの本がそれよりはるかに強調しているのは、女性の教育の拡大だ。知識を多く身に着けた女性たちは、親族や男性の支配下に置かれるよりも自立して生きていくことを志向するようになる。結果、彼女たちは出産の判断をより自分たちで下すようになるし、その際にはあまり多くの子供は欲しがらなくなる。2人かそれ以下だ。地方人口が多い時はまだ親族たちの目が厳しく、彼女たちの自由に決められないことも多いが、都市化が進み女性の学歴が上がると、それだけ彼女たちの意思が出産に反映されるようになる。
 都市化も女性の学歴向上も世界的に止まらない流れとなっているし、おそらくその流れは国連の中位予想より早い。一方で人口減は問題も引き起こす。高齢化による生産人口への負担増や消費の減退、そして何よりイノベーションの停滞をもたらす。イノベーションこそ経済成長の種であり、それが減っていくことは経済そのものの停滞につながるわけで、人口が減り高齢化した社会は経済的にかなり苦しい立場に置かれるのではないか、という理屈だ。
 そしてその解決策は移民しかない、とこの本は主張する。移民は経済にとってはプラスであり、今後も長期にわたって成長を続けるうえでの唯一可能な手段になる。保守的な国民や政治家が移民に反対するとしたら、それはむしろその国にとって自殺行為。多様性を受け入れる社会を築き上げ、移民を入れて常に人口を若くし続け、増加させ続けることこそ、これからの各国に求められる政策である、というのがこの本の結論になっている。

 ここまでのざっくりとした説明で分かると思うが、欧米リベラル的な価値観が強く表に出ている本だ。人口動態についての分析にはそれほど異論はないが、その論拠として女性の地位向上を極端なほど強調している点、また移民のメリットのみを強く主張している部分には違和感も覚える。例えば著者らが移民がらみでひたすら称賛しまくっているカナダでは、米国同様に格差が拡大し戦前の水準に近づいている。そしてこの高水準の移民の継続に反対している人もいる。
 以前にも紹介したが、非熟練移民の大量流入は自国の非熟練労働者にとってマイナスであるという見解を持つ経済学者は多い。カナダでは1970年代から実質賃金の伸びが止まっており、その要因の一つとして戦後に彼らが積極的に行ってきた移民の受け入れがあるとは考えられないだろうか。移民受け入れに反対する国民や政治家は、単なる偏見ではなくそうした事実を踏まえたうえで自分たちの利益に反するという判断から行動しているのではないか。
 人口減について女性の役割ばかりを強調する部分にも異論はある。少なくとも日本では所得の少ない男性ほど結婚や子供を持つ機会を奪われていることは間違いない。所得が確保できなければ子育ての負担を賄うことができず、結果として結婚からも縁遠くなる、という男性側の事情について、この本はほとんど触れていない。世界的に見ればまだ女性の地位や学歴向上が課題になる地域が多いためそちらに焦点が当たってしまったという面はあるかもしれないが、その代わりに男性側の事情があまりに抜け落ちすぎているように思える。
 ただし、そうした価値観が絡む主張の部分を除けば、読んでいて面白い本ではある。指摘されている通り、中国が世界の覇権を握るうえで最大の障害になるのが人口減のリスクであることは間違いないだろう。この本の主張通りなら彼らの人口は近い将来に減少に転じることになるし、そうなると米国に取って代わるどころではなくなるだろう。一方、米国はよほど極端な政策を取らない限り、引き続き移民流入による人口増の恩恵を受けられることも確かだ。
 もし米国が没落する場合、むしろインドが覇権を握るのではという主張に対しては、ちょっと判断に困る。確かに中国の方が先に高齢化が進み、インドは国連の中位予想で21世紀半ばに生産年齢人口がピークを迎える。購買力平価で見たGDPに至っては日本を抜いて世界3位だ。ただし中国が行っているような世界でも上位に入るような対外支援策をインドが行っているという話は聞かない。
 むしろ米国がコケた場合はいわゆる「G0」状態、つまり覇権国がない状態が生まれるのではないかと個人的には思っている。世界的な超大国はないが、地域における大国がいくつか併存する状況になるんじゃなかろうか。知らんけど。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント