労使協定修正

 ここしばらく、ずっと課題だと言われていた件についてようやく決着がついた。NFLとNFLPAはCovid-19に関連した労使協定の修正で合意。ベテランの多くがキャンプに参加するより前にどうにかこぎつけた格好だが、最も気になるサラリーキャップについては妥協の産物のような結果になった。
 前倒しで選手側にも負担を求めるリーグと、できるだけ先送りしようとしたNFLPAの間で交渉が続いていたが、最終的には(1)2020シーズンのキャップは198.2ミリオンから変化なし(2)今シーズンの収入減は2021シーズンから4年の期間に分散して吸収する(3)2021シーズンのキャップは少なくとも175ミリオンは確保する――という形で決着した。
 これを受けて早速Over The Capでは2021年のサラリーキャップが175ミリオンになった場合の各チームのキャップスペースを計算した。キャップスペースに最も余裕があるColtsは、これだけキャップが減ってもなお91ミリオンを余らせている状態であり、以下Chargers、愛称決定を延期したWashington、Jaguars、Patriots、Bengalsの計6チームが50ミリオン以上のキャップを確保している。
 逆に現時点で赤字予想となっているのはVikings、Raiders、Bears、Steelers、Chiefs、Falcons、Saints、Eaglesの8チーム。ただしこの一覧に載っている数字はルーキー用のキャップなどを計算に入れていないため、その分を入れれば赤字は13チームに膨れ上がるという。翌シーズンのキャップスペースの平均額は現時点で1チームあたり15ミリオン。この時期の平均は30~40ミリオンだそうで、これだけ少ない金額は「聞いたことがない」としている。
 もし収入が減り、来シーズンのキャップが175ミリオン(今年に比べて23.2ミリオンの減)になるのであれば、それに向けた対応は早ければこの夏から始まるだろう。今のうちにキャップヒットを減らし、来シーズンへキャリーオーバーできる額を少しでも増やそうと考えるチームは、そのために前倒しで選手をカットする可能性がある。
 ターゲットになる選手はサラリー面で「中間レベルのベテラン」であろうとFitzgeraldは予想している。スーパースターはうっかりカットすると多額のデッドマネーが出るためカットしづらいし、ルーキー契約の選手たちはそもそも金額が低くあまりカットのメリットがない。ベテランミニマムの選手も同じ。カットするか、あるいは契約を見直して安くできるのはそれらのカテゴリーに入らない選手たちで、そうした条件に当てはまるのは選手全体のうちの10-15%くらいだろうと、Fitzgeraldは指摘している。この一握りの選手に負担の大半を押し付けるのはフェアではない、というのが彼の意見だ。
 他にも起こり得る問題として、ルーキーたちの長期契約が先送りにされる可能性が存在する。先日、Mahomesが10年契約を締結したばかりだが、同期のWatsonとの長期契約は少し面倒なことになるかもしれない(Trubiskyはよほど活躍しないと長期契約自体がないと思われる)。次に悩ましいのはLamar Jacksonあたりだが、今シーズンに活躍すれば普通に5年目オプションを使い、長期契約の締結時期は2022年に延ばすという手が使えるだけWatsonよりは楽かもしれない。
 あともちろん、契約のリストラが増えるだろう。キャップヒットを先送りする手法として契約額が多い選手はしばしばリストラ対象となるが、やりすぎると後でキャップ地獄が待っていることになりかねない面もあるので注意は必要。また来年のFAはかなり買い手市場になる可能性が高く、今シーズンいっぱいで契約が切れる選手にとっては極めて不運と言える。ちなみに2021年にFAとなる、現在の契約額が年平均1ミリオン以上の選手の数を見ると、Raidersが24人で最多、以下PatriotsとSeahawksが23人、Saintsが22人と続く。これらのチームはどちらにせよ来年のFAで大きく動く必要性が高そうで、買い手市場になることで有利になりそうなチームということになる。
 キャップが低下すれば、ただでさえキャップヒットの大きいQBたちの契約がさらに大きなインパクトを及ぼすことになる。実際、来シーズンのキャップが175ミリオンになれば、Ryanのキャップヒットはチーム全体の23.4%にRoethlisbergerは23.6%に達する見通しだそうだ。彼ら以外にもRodgersとBreesが20%を超え、Wentz、Goff、Stafford、Wilson、Cousins及びTannehillが16.5%を超える。ちなみに2020シーズンで最も高いのはPrescottの15.9%だそうで、多くのチームがバランスの欠いたロースターになるわけだ。
 ちなみに現時点で来シーズンのキャップの赤字予想額が最も大きいのはEaglesで、その金額は実に71.5ミリオン。続くSaintsの66ミリオンも含めてこの2チームが突出しており、以下はFalconsが39ミリオン、Chiefsが25.7ミリオン、Steelersが15.8ミリオンとなっている。例えばSteelersは、極論を言えばRoethlisbergerのカットだけでこの赤字を消すことは可能であり、それほど対応が難しいようには見えない。
 しかしEaglesのレベルになると簡単ではない。今シーズンに何の対策もしない場合、来シーズンにCox(2019年のスナップカウント78.7%)、Jeffery(42.6%)、Ertz(80.5%)、Jackson(5.7%)、Brooks(89.9%)、Barnett(69.1%)、Goedert(66.0%)の7人をカットしても、キャップヒットは38.5ミリオンしか減らない計算だ。彼ら以外はカットしても1ミリオン未満のキャップヒット削減効果しかなく、つまりどう見てもこの夏のうちに来シーズン以降を見据えたカットなりリストラなりを大胆に進めなければ間に合わない計算となる。
 実際に収入減がいくらになるかは現時点では見通せない。以前こちらで紹介した50~70ミリオン減るという計算が成り立つなら、それを4年で均等配分するとして、2021年のサラリーキャップは12.5~17.5ミリオン減ることになる。サラリーキャップは180~185ミリオン程度と、最悪のケースよりはマシになるのだが、この計算通りになるという保証はない。赤字予想のチームのGMは、これからさぞや頭の痛い日々が続くことになるだろう。

 他にも決まった事項はいくつかある。詳細は最初に紹介した記事を見てもらいたいところだが、まずプレシーズンゲームはゼロになった。これについては以前にも少し記している通り、ロースターに残れるかどうかの境界線上にいる選手たちがまず最大の影響を受けると思われる。またプレシーズンゲームを使って選手の見極めをしようとしているコーチ陣にとってもマイナスだ。もちろん興行面のマイナスもあるが、正直レギュラーシーズンのゲームがきちんとできるかどうかが最優先となっている中では問題としては小さい部類だろう。
 プラクティススクワッドの数は16人に増えた。オプトアウトは認められ、その際にはサラリーが支払われるが、契約自体は停止される。オプトアウトの申請は労使協定が最終的に締結されてから7日以内に受け付ける。キャンプについては20日間の準備期間が設けられるなど、かなりゆっくりとしたペースで進んでいくと思われる。ロースターは8月16日に80人にカットされるほか、1度に練習施設に入れるのも80人が上限となるそうだ。
 とにかくこれでリーグの方針が決まり、これから各チーム、選手たちは未曾有の対応を求められることになる。例年ならのんびりとプレシーズンの動向を見ながらロースターがどうなっていくかを見定めるタイミングなのだが、今年はかなり違った様相になりそうだ。

 あとControversiesの新しい愛称が発表された。Washington Football Teamで行くそうだ……しばらくは。さすがにシーズン前の短期間で一気に決定するのは難しかったのだろう。まあ焦らずじっくりと決めればいいんじゃないかと思う。
 ただ個人的にはこのWashington Football Teamってのも意外に格好いいと思う。それにNFLで唯一愛称を持たず、単にFootball Teamと名乗るだけってのも、何か特別感があるように見えなくもない。私がWashingtonのファンなら、これでもいいかなと思ってしまいそうだ。まあHail to the Redskinsは歌えなくなってしまうけど。
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