フランチャイズタグ

 Covid-19は米国で再び拡大基調にある。新規感染者数は1日あたり7万人単位にまで達し、新規の死者数もなかなか減らなくなっている。各チームもシーズンチケット所有者への対応に追われており、例えばPatriotsはスタジアムに入る客数を約20%に絞り込むことを連絡している。ソーシャルディスタンスを確保するとともに、スタジアム内部にいる時は顔をカバーすることも求めているそうだ。
 こうした動きが出ている以上、今年のリーグ全体の収入が減るのは避けられないだろう。ということは2021年のサラリーキャップが減るわけで、前から指摘しているように早めに対応を取る必要がある。前にリーグは35%のサラリーを預託する案を出していたが、これはNFLPAから反対され、逆に後者は2021年のサラリーキャップを2020年と同額にする「フラットサラリーキャップ」を提案した。足りない分は2022-2030年のサラリーキャップで穴埋めする、という方法だ。
 だが両者の話し合いはまだ決着していない。リーグ側は35%の預託は諦めたようだが、今度は今シーズンに各チームが40ミリオンのサラリーキャップを削るという案を出してきた。現時点でキャップスペースに40ミリオン以上の余裕があるチームは1つも存在せず、この案が通る場合は当然ながら各チームは選手を減らすことになる。最もキャップスペースの少ないBuccaneersの場合は35ミリオン以上のキャップを空けなければならない計算だ。
 もちろんNFLPA側は相当に抵抗している模様。選手側のスタンスは明確で、要するに今年のサラリーには手を付けず、来年以降で調整しろ、あと保証分を削る真似はするな、という話だ。一方のオーナー側も選手側の反発を知りながらしつこく今年中のサラリー削減を提案してくるあたり、先行きを相当不安視しているのではないかと思いたくなる。ちなみに両者の話し合いが合意に至らない場合、2021年のサラリーキャップはチーム当たり50~70ミリオン減るという。現時点で2021年に70ミリオン以上の枠を余らせているチームは6チームのみであり、これまた影響は大きい。
 既にキャンプが始まる数日前まで迫ったタイミングでいまだにこうした問題に解決の兆しが見えない点について、Jason Fitzgeraldは「NFLの仕事のやり方がいかにまずいかを示している」と手厳しい。シーズンが近づいても結論が出てこない場合、チームによっては来年にロールオーバーするキャップを生み出すために夏の間に選手のカットに踏み切るところも出てきかねない。一体どうするつもりだろうか。
 Covid-19の影響はもちろん他にもある。例えばNFLはCovid-19を懸念する選手に対してオプトアウトの機会を与えることも提案している。8月1日までに書面を出せば認めるというスタンスのようだが、何人くらいが実際に出場を取りやめるかは現時点では不明。既に72人の選手の感染が判明している状態だけに、嫌がって出場しない選手が出てくること自体は避けられないだろう。
 Covid-19への感染が増える可能性をにらみ、IRから早期に復帰できるようなルール変更も検討されているという。シーズン中にIRから戻ってこられる人数については制限がかかっているが、その制限を取り払うのに加え、通常は8試合の欠場が必要なところを3試合まで減らすというものだ。疫病に応じた対策にリーグが追われていることが分かる。
 それにプレシーズンをどうするかという問題もまだ結論が出ていないようだ。Covid-19の流行が最初に本格化した時期は、NFLがちょうどオフに入ったばかりだったために他人事感もあったのだろうが、実際に開幕が迫り、でもCovid-19は落ち着くどころかむしろ感染を増やしているという状況になって、やっと慌てだしたという印象だ。
 そう考えると、米国が時期尚早と言われながら経済活動再開へ向かったことがNFLにとっては不運だった、という結論になる。もちろん経済全体を考えればいつまでもロックダウンしていられないという見方だってあるだろうし、スポーツ興行のようなエンターテインメントは経済全体がうまく回っているからこそ存在が認められている面もある。日本国内でも演劇関係者の悲鳴やそれへの批判などが一時期ネットを賑わせていたが、あれをより大規模に繰り返している格好なんだろう。

 その一方で7月15日にフランチャイズタグを貼られた選手との長期契約が可能な期限が訪れた。こちらにタグを貼られた選手たちの契約動向が載っている。大半はそのままフランチャイズテンダーに署名しているが、TitansのDerrick HenryやChiefsのChris Jonesあたりは長期契約に合意している。一方、Yannick Ngakoueのようにいまだにテンダーに署名していない選手もいる。
 興味深いのはCowboysのPrescottが長期契約に至らず、タグのままプレイすることが決まった点だろう。同期のWentzとGoffが去年のうちに長期契約を結んでいたのに対し、同期の中でもキャリアANY/Aが最も高いPrescottがタグを貼った状態でプレイすることになっている。Bill BarnwellはPrescottのパス成績がリーグの中でも上位にあることを指摘。同じようにCousinsにタグを貼りながら長期契約を結べなかったRedskinsが、その後でSmithのトレード、Haskinsのドラフトと立て続けにドラフト上位指名権を使う羽目に陥ったことを指摘し、Cowboysが同じミスをする余裕はないとしている。
 Jason Fitzgeraldは少しばかりCowboysに同情的だ。もちろん彼もCowboysの判断に疑問を呈してはいる。伝えられる2年70ミリオンという金額をCowboysが提示したのだとすれば、2年連続のタグで69.1ミリオンを手に入れることができる選手に対する提示としてはむしろ低すぎると指摘。普通に1割くらいの上乗せ、つまり2年76ミリオン程度は出さなければ、選手側から見ればトップレベルのQBと評価していないように見えてしまう。保証額の提示にしても決して高くはない、と述べている。
 Cousinsは2回のタグを経たうえでFAとなったが、彼はタグを貼られて以降、NFLで最も多額のサラリーを受け取った選手となっているらしい。であればPrescottが今回、低すぎる提示を受け入れずにタグを貼られた状態でプレイすることを選んだのは正しい選択になる。また2021年か22年に、NFLは試合数を17試合に増やす可能性がある。そうなれば試合数の増加を前提とした契約交渉が行われるようになるわけで、より高い金額での長期契約が期待できる。足元の市場はQBがだぶつき気味だが、来年以降は需給がタイトになるとの意見もある
 逆にCowboysにとっては、長期的に見てタグを使うことにメリットはほとんどない。それはCousinsに対するRedskinsの対応ミスを見ても分かる(FitzgeraldはCousinsに対する2度目のタグをbad managementだとしている)。Cowboysの対応に理屈が成り立つとしたら、彼らがPrescottについて、いい選手が周囲にいないと活躍できないQBだと見ている場合だ。現在のロースター状況を見るなら、早ければ2年後にCowboysは高価な選手たちの見直しを強いられる。Prescottを保持しておくのはあくまでそれまで、と割り切るのであれば、タグを使うのは効率的なんだろう。
 もちろん、最も予想されるのはCowboysが敗者となり、Prescottは最悪でもトントンで済む展開だ、とFitzgeraldも認めている。だが一方で彼は、Prescottが本当にMahomesのような選手なのか、とも疑問を呈している。RamsがGoffと、VikingsがCousinsと、RavensがFlaccoと結んだ長期契約はそれぞれ何度も批判されてきた。単にスターターとして合格というだけで超一流選手並みの契約を手に入れるQBが数多く存在するのがNFLの契約スタイルだが、それ以外に道があるのではないか、そしてCowboysはその道を進もうとしているのではないか、というわけだ。
 確かにPrescottがMahomes並みの選手かと言われれば、それは違う。Prescottのデビュー以降の期間において、ANY/A+でリーグ平均を1標準偏差以上上回っている選手はRyan、Brady、Brees、Mahomes、そしてLamar Jacksonくらいしかいない。Prescottの数字は111で、これはまさにCousinsと同じだ。リーグにおいて希少な選手であることは間違いないが、彼に任せればどんな試合でも勝ってくれるというほど頼れるかどうかは微妙。Cowboysがそこまで考えて今回のような対応を取ったかどうかまでは分からないが、これはこれで一つの見方だと思う。
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