Controversies再び

 スポーツといえど政治と無縁ではない、という話はオリンピック絡みでは時々見られるが、足元の米国では他のスポーツもその影響をもろに受けている。NFLではKaepernickがその直撃を食らった一例と言えるが、足元における「不和の時代」本格到来を受け、もはや限られた範囲のみがで話が収まらなくなっている。
 そう、Redskinsという愛称を変更しろという要望は昔から繰り返されていた。ネイティブアメリカンを意味する英語として18世紀に登場し、19世紀前半から広く使われるようになったこの用語は、どうやら20世紀初頭にかけて次第にネガティブな文脈の中で使われるようになっていったという。だがほんの7年前、2013年の世論調査の時点ではチームが名称を変えるべきとの見解は11%に過ぎなかった。2014年の調査では23%や26%が名称を変更すべきだと回答しているが、保守の88%が名称を維持すべきと答えたのに対しリベラルでは53%にとどまったという。
 2016年になるとさらに変更派が勢いづく。18歳から29歳に絞れば70%が名称変更を支持しているほか、白人は77%が名称維持を支持したものの、黒人のその数字は38%、ラティーノは33%しかなかったという。2019年にネイティブアメリカンを対象に実施した調査によると、Redskinsというチーム名が侮辱的と感じる人は49%に達したのだが、3年前にWashington Postが行った調査の時点でこの数字はたったの9%に過ぎなかった(Figure 2)。
 最近、Redskinsのファンサイトに挙げられた記事に載っているPollによると、名称とロゴを現在のまま残すべきだとの意見がまだ56%と過半数を占めている。だがRedskinsのファンですらかろうじて過半数しか支持していない状態というのは、考えようによっては実に凄い。23%は名前とロゴの双方を、20%は名前を変更すべきだと考えているわけで、この名称が極めてセンシティブになっているのは間違いないだろう。
 そしてついにチーム自身が愛称について「徹底的な見直し」を行うことを表明した。オーナー自身がステートメントを出し、リーグのコミッショナーもこの対応を支持すると表明している。報道でも愛称の変更が「あり得る」likelyと言われているし、HCもシーズン前には変えたいと考えているようだ。6年前にはジョークでしかなかったWashington Controversiesが、今や冗談でも何でもなくなっているわけで、Great Awokeningが歴史あるスポーツチームまで激流に巻き込んでいる様子がよく分かる。
 この流れが逆転し、昔からの愛称が生き残る可能性はどのくらいあるのだろうか。正直、今の状況だとあまり高くなさそうに思える。何しろ米国では今やアニメの黒人キャラクターの声を白人が担当するのは不適切だ、という話まで広がっている。日本から見ると違和感を覚える話ではあるが、そうした流れが急激に進んでいるのは間違いないだろう。
 NFLやチームがこの流れに素直に従っているのは、要するに「スポンサー様の意向には逆らえない」というのが背景にある。そのスポンサーは直接的には株主の意向に従っているわけだが、大きな背景としては世論の流れがあるのだろう。特に今回、株主から圧力をかけられた企業はいずれもB2C系の企業であり、アメリカで商売をやる以上、アメリカの消費者に不快に思われるような行動は慎むのが得だ。
 足元でBlack Lives Matterの運動が広がっているのも、要するにそれが幅広い世論の支持を受けているから。Pew Research Centerが行った調査によれば、BLMの支持は67%と全体の3分の2に達しており、最も低い白人ですら60%が支持する姿勢を示している。
 もちろん、ここにも分断はある。民主党支持層では実に91%がBLMを支持しているが、共和党支持層ではその数字は40%に減る。白人だけに限るのなら、民主党支持層は92%、共和党支持層は37%と、分断はより明白になる。トランプ政権が人種の関係を悪化させたかどうかでは、民主党支持層の80%が悪化させたと考えているのに対し、共和党支持層ではその数字は13%に過ぎない。もっとも共和党支持層でも32%は「改善を試みたが失敗した」という評価であり、改善したとの意見は40%と半分未満にとどまる。
 結局のところ、見解の相違があるとはいえ人種差別に対する批判的な方が多数なのは間違いないし、しかもその態度は強まっている。もちろんそれは、例えば大統領選に向けた世論調査にも表れており、FiveThirtyEightのデータによればバイデンはトランプに対して10%近くもの差をつけてリードしている。4年前、クリントンは世論調査で平均して4%ほどのリードを続けていたが、この数字は通常の誤差の範囲でしかなかった。今回の数字は、その範囲を超えているわけだ。
 スポーツ興行は人気商売だ。ファンにそっぽを向かれるリスクは極力減らすに越したことはない。加えて政治の流れが変わる場合、その影響も受けることは避けられない。実際、4年前はトランプの当選を機にKaepernickが職を失うところまで流れが変わった。逆にもし今の流れが大統領選まで続き、次の4年間がトランプではなく民主党政権になる可能性が高いとなれば、こんどはそちらに向けた対応を進める必要がある、とリーグやチームが考えるのも無理はない。彼らもまた危機フェーズへの対応に追われている、というのが実情なのだろう。

 危機は世論の変化だけではない。ある意味もっと無慈悲で厄介な相手がCovid-19だ。足元で再び感染拡大に見舞われている米国では、極めて多くの人間が集まり、また選手同士の接触もあるスポーツ興行の再開には色々と問題がつきまとう。目下のところ課題となっているのがプレシーズンゲームの開催。リーグ側は4試合を2試合に減らす格好での開催を望んでいるが、NFLPAの投票ではそもそもプレシーズンを行わないという案への支持が多かった
 プレシーズンはファン的には重要性の低いイベントであるが、チームや選手にとっては大切だ。ロースターの境界線上にいる選手にとってはアピールする最大のチャンスだし、実際にそれが仕事につながることもある。チームにとっても手に入れた選手の実力を測る大切な機会だ。でも公式戦に比べれば価値が落ちるのは間違いないし、現下の状況では消えてなくなる可能性は当然あるだろう。
 実際の運営に際して気を付けるべきことも、もちろん多い。だからリーグは各チームにCovid-19対策のプロトコルを送った。感染者が出た場合の対応などが記されているそうで、例年とは違う対応に追われながらの興行となる可能性は高い。
 そして前にも指摘した収入減と来年のサラリーキャップへの影響問題もある。シーズンが近づくほど対処が難しくなる問題だが、現時点で結果が出てきたという話は聞こえてこない。実に前途多難だ。
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