QB契約

 例年この時期はあまりNFLでニュースは多くないのだが、久しぶりに世間の注目を集める動きが発生。Cam NewtonがPatriotsと1年契約を結んだ。金額ははっきりしていないが、インセンティブが全て達成された場合で7.5ミリオンだそうだ。インセンティブを除いた額についてはまだ報じられていないが、ベテランミニマムだとの指摘もある。
 年7.5ミリオンはベテランのスターターの契約額ではない。あくまで控えQBの金額である。具体的にはDarnoldとTrubiskyの中間であり、ベテランであればFolesより安くKeenumより高いくらい。要はルーキー契約並みってことで、確かにかつてのMVPがもらうには安すぎるという意見も分からなくはない。逆にチームから見れば格安な掘り出し物、っていう扱いになるのだろう。
 実際、この契約についてPatriotsに対する評価は高い。例えばOvet The Capでは「このような契約はNew Englandにとってノーリスクである」と書いている。彼がもし健康ならAFC東で最良のQBとなり、Patriotsにプレイオフ出場のチャンスを与えてくれるだろうし、そうでなえれば単に今までの想定通り、Jarrett StidhamかBrian Hoyerを先発に回せばいいだけだ。その際に失う金額は高が知れている。
 Newtonが加わった後のAFC東のQBたちを並べて見ると、Patriotsの状況は4チームの中で一番いいものとなる。AFC東に所属するQBたちのうち、キャリアで1シーズン分の規定試投数に達しているQBは8人(各チーム2人)いるのだが、彼らのうちANY/A+が100、つまりリーグ平均に達しているQBはたった1人、Hoyerしかいない。それも100ギリギリだ。そして今回のNewtonは彼に次いで高い99となる。そう、この2人はどちらもPatriotsの所属だ。
 彼らの次に高いのはJetsのFlaccoとDolphinsのFitzpatrickで、どちらも95。彼らの次に3年目を迎えるDarnold(89)、Allen(86)が続き、後はBillsのBarkley(81)、DolphinsのRosen(61)となる。彼ら以外に先発に行く可能性があるのはStidhamとTagovailoaだが、前者はこれまでたったの4試投、後者は新人と、頼れるデータは無い状態であり、どこまで活躍できるかは神のみぞ知るだ。
 ドロップバック数で見ると多いのはFlacco(6291)、Fitzpatrick(5072)、Newton(4271)、Hoyer(1563)であり、後はDarnold(918)、Allen(847)がもう少しで1000ドロップバックに到達する。Rosenは563、Barkleyは354だ。Newtonはかなり経験が豊富であり、それだけ彼の実績は彼の実力を示している可能性が高い。これらのデータを見る限り、AFC東のQB情勢においてPatriotsが一歩前に出たと考えるのは確かにおかしくないのだ。
 同様の指摘をしているのがPatriotsのキャップ専門家。彼は「アップサイドがリスクよりはるかに大きい」「もしNewtonが2020年にいいプレイをすれば、Patriotsは2021年に(1)契約延長(2)タグを貼る(3)タグを貼ってトレードする、のいずれかが可能」という2つの理由を挙げて評価している。もちろんNewtonがStidhamとの競争に負けることもあり得るのだが、その場合でも「最良の選手が勝てばいい」という考えのようだ。
 ちなみに今回の契約ではNewtonにタグを貼ることを禁止する条項はないという。もしタグが使えないのならFAで出て行った場合に補償ドラフト権を受け取る方法しかなくなるが、タグが使えるなら上で書いているように色々とできることが増える。
 Bill Barnwellに至っては、今回の契約をこのオフのFA契約でベストではないか、とまで言っている。彼によればNewtonに期待されているのはGronkowskiの役割、つまり多才な能力の発揮であり、Gronkがランのpersonnelに見せてパスに、パスのpersonnelに見せてランに活躍したように、Newtonにも相手の裏をかく役割が求められるのだそうだ。もちろんリスクはあるが、それでもA-のグレードをつけているあたり、素直に評価しているのは間違いない。
 Pro Football Focusも、How the 2015 MVP makes the Patriots AFC East favoritesという記事でこの契約を評価している。こちらはそもそもStidhamとNewtonでは勝負にもならないほど後者が圧倒的と見ており、Newtonがプレイすることでチーム力が明白に上向くと予想している。
 そして、この契約を機に2020シーズンの見通しを修正する動きが早くも出ている。2020年のAFC優勝オッズを見ると、Newtonを入れたことによりPatriotsはChiefs、Ravensに次ぐ3番手に浮上。気が付くと昨シーズンのプレイオフシード順と同じ位置に戻っている。GOATと呼ばれたQBを失った後でこのポジションというのは、かなり凄いと見ていいだろう。同地区のBillsの倍近い評価というあたりも重要だ。
 ESPNのFPIについても修正がなされた。こちらによると順位は1つアップし、Bradyの移籍先であるBuccaneersを抜いてリーグ8位に浮上。前にAFC東のfavoriteをBillsに譲った話をしたが、修正後はPatriotsの地区優勝確率44.2%に対してBillsは39.3%と、再び定位置の地区トップに来ている。
 といってもFPIの数値そのものはそれほど高いわけではない。全体で2.6というのはトップのChiefs(7.4)の3分の1強でしかないし、Newtonが入ったオフェンスは-1.5とリーグ平均より悪い予想だ。おまけにスケジュール強度はリーグで6位とかなり高く、だからこそ予想勝ち星は9勝弱にとどまっている。実態としては12年連続プレイオフの可能性が少し上がった、というくらいの評価だろう。

 というわけで賛美一色に近い状況だが、気になるのは具体的な契約内容がまだ分からないこと。もし本当にベテランミニマムの契約ならPatriotsのキャップにはほとんど影響がないことになり、本気で「ほぼノーリスク」の契約となる。実際、ミニマムとされる1.05ミリオンは実はHoyerと同じ金額であり、去年はスターターだったのに今年は控えになった選手たち、つまりMariota(年平均8.85ミリオン)、Dalton(同3ミリオン)、Flacco(同1.5ミリオン)、Winston(同1.1ミリオン)と比べてもさらに安い。
 キャリアの実績で見れば上記の選手たちと比べてNewtonがそれほど魅力的なわけではない、と思う。ANY/A+でNewton(99)より低いのはFlacco(95)だけだし、将来の予想に役立つCmp%+だとNewtonは90と誰よりも低い(Hoyerの87よりは高いが)。とはいえANY/A+は彼らの中で最も高いWinstonでも102にすぎず、要するにドングリの背比べである。だとすれば、彼らの中からQBを選ぶ場合、何よりコストを最優先で考えるのは妥当だろう。逆にNewtonの契約が例えばDalton並みだとしたら、むしろ後者を選んだ方がよかったとの結論になりそうだ。
 とはいえDaltonにしても他チームと競争してまで取りに行きたい人材ではなかったのだろう。だとすれば無理をせず、じっくり待ってNewtonを手に入れたのは悪い選択ではない。これでも一応リーグ平均並みのQBは手に入れた計算だし、もしStidhamがNewtonとの先発争いに勝てるのなら、それは即ちStidhamがリーグ平均より上の選手である可能性が高いことを意味するわけで、チームにとってはむしろありがたい。
 それに、Patriotsの動きがこれで終わるわけでもない。こちらのツイートにもあるように、彼らはこの時期からシーズン開始までに少なくともロースターを40人は動かすのが通例だ。その中にQBが含まれていても全然おかしくはないだろう。要するに話はこれから、なのである。
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