「今後」の予想

 抗議活動だけでなくCovid-19問題も引き続いている米国。先だっても今年のNFL開催は難しいという話を専門家が発言し色々と波紋を呼んでいた。NFLPAがグループワークアウトを控えるよう推奨するなど、まだ収束したとは言い切れない状況が続いている。
 不安なオフシーズンの中でも、予定通りに進んだ場合に「今後」がどうなるかについて述べているサイトはある。一例がOver The Cap。ドラフトやFAの流れがほぼ一巡したところで、2021年のキャップ状況がどうなりそうかについて分析をしている。サラリーキャップの視点で見て、どのチームが「健康」であり、どのチームがそうでないかを調べたものである。
 分析に際して取り上げている要素は、まず現時点で予想される2021年のキャップスペース。選手の動きが全くないことを前提とした計算だが、それでいくとキャップに余裕があるのはColts、Jaguars、Chargers、Patriotsあたりで、ないのがFalcons、Eagles、Saintsとなる。次はカットによって50万ドル以上のキャップスペースを生み出すことができる選手を全員切った場合のキャップスペースの余裕だ。こちらではColts、Chargers、Browns、Billsなどに余裕があり、Eagles、Falcons、Saintsがやはり厳しい。
 3番目は今度はリストラを通じたキャップスペースの余地がどのくらいあるか。Eaglesはこの方法でキャップスペースを広げる余地が最も大きく、その後を追うのがCowboysとSaintsとなる。逆にその余地が小さいのがChargers、Steelers、Patriotsとなる。リストラ後のキャップスペースが最も大きくなるのはColts、Jaguars、Redskins、Dolphinsで、逆にSteelers、Saints、Chiefs、Falconsは小さい。
 4つ目は2021年のFAだ。手元にいる選手のうちFAとなる選手たちがどのくらいいるかについて、スナップカウントの多い選手、重要なポジションの選手、若い選手などを大きく評価した数字を足し合わせたもので、数字が大きいほどこれらの選手のためにタグや新しい契約を使う必要性が増えてくる。キャップの「健康」度合いを見るならこうした選手が少ないGiants、Eagles、Brownsあたりが余裕を持っており、逆の側にはCowboys、Colts、Jaguarsあたりがいる。
 以上の4種類の指標について各チームがそれぞれリーグ内で何番手に位置しているかを算出し、その順位の平均を並べたのが記事中にある表だ。この表に基づき、記事ではチームを4つのカテゴリーに分けている。
 まずは最も余裕のあるBrowns、Patriots、Bengals、Colts、Redskins、Dolphins、Jaguars、Chargers。このうち最も望ましい立場にいるのはColtsだそうで、最もフレキシブルなのはBrownsだそうだ。2021年に新たな契約や契約延長をする場合、これらのチームはほとんど悩まずに済むという。
 次のカテゴリーはTitans、Seahawks、Ravens、Cardinals、Bills、Buccaneers、Jets、Broncosで、彼らは契約延長によってキャップを食ってしまわない限り、上のカテゴリーに入り込む潜在力が最も高いチームたちだ。中でもこれらのチームのうち、まだ発展途上のQBを抱えているところ(Cardinals、Bills、Jets、Broncos)は、もしそのQBが今シーズンに大きな成長を遂げれば、次のオフはかなり期待が高まると見られる。
 3つ目は49ers、Giants、Panthers、Vikings、Texans、Packers、Lions、Rams。行き当たりばったりなグループと言われており、カットかリストラを使えばキャップスペースを増やすことはできるが、上2つのカテゴリーほどの柔軟性はない。また大型の契約延長を1つやってしまうとそれだけでさらにキャップ状況は厳しくなるという立場にあるそうで、GMが苦労しそうなグループだ。
 そして最もキャップの辛いところがCowboys、Falcons、Eagles、Bears、Raiders、Steelers、Chiefs、Saintsとなる。それぞれ異なる理由ではあるがキャップに関してトラブルに巻き込まれそうなチームと言える。これらの中ではCowboysが最もフレキシブルであり、逆に最も柔軟性に欠けているのがSaints。ルーキー契約QBの延長を控えているChiefsはカットを使わなければその余地がないそうだ。EaglesとFalconsはリストラの余地が大きく、重要なFA選手がいないという点で、少しは楽かもしれない。
 興味深いのは、2020年のキャップスペースはかつかつのPatriotsが妙に余裕があること。個人的にキャップを余らせすぎるのはあまりいい戦略ではないと思っているし、少なくともこの数年、Patriotsはキャップスペースに余裕を持たせるような行動をほとんど取ってこなかった。それがなぜ2021年にはこんなに余裕があるのだろうか。もしかしたらBelichickはそろそろ引退を考えており、後任が自分の作りたいチームを作れるようキャップを余らせているのではないか、などと妄想してしまったくらいだ。
 もちろん現時点でのキャップ予想などこの後いくらでも変わる。Patriotsはオフだけでなくあらゆるタイミングでロースターを積極的に入れ替えるチームであり、だから来年のオフになるとこの情勢が全く変わっていても不思議はない。そもそもサラリーキャップ自体に深刻な影響が出てくる可能性もある。この記事に出てくるランキングも、その意味ではあくまで予想でしかないと見ておくべきだろう。

 もう一つ、早くもESPNが2020シーズンの最初のFPIを出した。ドラフトとFAの一巡でそれなりに戦力が見えてきたのが、このタイミングでデータを出した理由だろうが、実際のところ上位陣は昨シーズンの実績と比べてそう違いがあるわけではない。
 トップはSuper Bowlに勝ったChiefsであり、2番手はAFCのプレイオフでトップシードにいたRavensだ。3番目はSaints、4番目は49ersというNFCの強力チームが名を連ねており、個人的に全く違和感のない、というか変わり映えのしない名前が並んでいる。一般的に見ればNFC決勝まで進んだPackersの不在に異論を持つ人もいるだろうが、こちらで指摘した通り、昨シーズンの彼らは最も幸運だったチームなのであり、実力ではそれほど上位のチームではなかった。逆に最も不幸だったCowboysはFPIで5番手に顔を出している。
 新しいプレイオフの仕組みで、今までだったらシーズンエンドになっていた第7シードになる可能性が最も高いのはAFCではBrowns、NFCではSeahawksあたりのようだ。もちろんこのあたりのシード順はちょっとした結果の違いでずれることがしばしばあるため、実際にどのチームがラッキー7を引き当てるかはやってみないと分からないだろう。
 FPIの細かい数字はこちらのページに載っている。例えばChiefsの数字が7.4と2番手にいるRavens(6.1)を大きく引き離していること、特にオフェンスのFPIは8.2とリーグ内でも突出していること(2番手のSaintsでも4.9)などが分かる。おまけにスケジュール強度は全体20位と相当に楽ができそうなポジションだ。そりゃ評価も高くなるだろう。Mahomesが怪我しなければ連覇の確率はかなり高いと考えたくもなる。
 Patriotsを見るとディフェンスのFPIはリーグトップだが、オフェンスが-1.9とリーグで23番目まで落ち込むと予想されている。実績のないQBに委ねる以上は仕方ないのだが、それでもドラフト1巡指名QBを抱えているPanthers、Haskins、Jets、Bears、Lionsあたりよりオフェンス評価が高いのはコーチングスタッフのおかげかもしれない。現時点で彼らの今シーズンはオフェンス(QBの実力不明)、ディフェンス(もともと予想が困難)のどちらもどう転ぶか分からない状態と見た方がいいんだろう。ただスケジュールは厳しそうだ。
 Projectionsを見るとBillsの地区優勝確率が41.0%なのに対しPatriotsは40.9%と、極めて僅かながらBillsがPatriotsより上に来ている。もしBillsが地区優勝を手に入れれば2008シーズンのDolphins以来実に12年ぶりにPatriots以外の優勝となるし、Bills自身の優勝は1995シーズン以来、つまり21世紀に入って初の優勝となる。正直言って現時点での0.1%の差はないに等しいし、あと個人的に私はJosh Allenを信用していない。何しろこの2年間の彼のANY/A+は86でComp%+はたったの72。前者が90未満、後者が70台の選手はJoey Harrington、Mark Sanchez、Blaine Gabbertなどである。それでも長年艱難辛苦を耐えてきていたBillsファンにとっては、このFPIはうれしい予想だろう。

 あと足元ではPrescottのフランチャイズテンダーへのサインや、JetsのAdamsがトレードを要求したという話が出ている。まだまだオフ感満載の時期だが、今年の場合はオンへ移行できるかどうかが最大の課題かもしれない。
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コメント

brkn
お邪魔します。
記事中の「カット」と「リストラ」の、リストラって何を指しているのでしょうか?
契約満了...とも違いそうですし、トレード?も相手あってですから確実ではないし、考えてもわかりませんでした。

desaixjp
NFLでリストラと言えば、一般的には選手が毎年もらうことになっているサラリーをサイニングボーナスに変更することを意味します。
例えばPatriotsのGilmoreは2019年に、その年にもらうはずだったサラリーのうち8.5ミリオンをサイニングボーナスに変更しました。
https://overthecap.com/player/stephon-gilmore/255/
もしこれがサラリーのままだったら、Patriotsはこの8.5ミリオンを2019年のサラリーキャップに計上することになります。しかしサイニングボーナスに変えたことで、チームはこの8.5ミリオンを契約の残り期間(この時は3年)に均等配分できるようになりました。
結果、2019年のキャップヒットが減少し、代わりに2020年と21年のキャップヒットが増えることになりました。リストラによってチームはその年のキャップヒットを翌年以降に繰り延べすることができるわけです。
選手にとってリストラは損にも得にもなりません。もらう金額は結局同じです。チームにとっても長い目で見れば支払額は同じです。ただキャップヒットだけが変化します。

ただしサイニングボーナスへの変更以外にも「リストラ」という言葉が使われることがあります。例えばBillsは2017年にTyrod Taylorの契約を「リストラ」し、彼への支払額そのものを減らしました。
https://www.espn.com/nfl/story/_/id/18905240/
でもこうしたケースはそれほど多くありませんし、記事中で紹介している「リストラ」はこうした事態を想定しているものではないはずです。あくまでサイニングボーナスへの変更余地がどのくらいあるかを示した計算だと思われます。

brkn
ご回答ありがとうございます(^^)/

サラリーの先延ばしは、Rosemanの得意とするところですね。
その先延ばしが今の苦境を招いたように感じてますが、先延ばしを繰り返しても、まだ先延ばしの原資がたっぷりあるとなると、契約の時から全て計算ずくなのだろうなと思わされます。

「キャップカツカツのチーム」だとEagles、Saints、Falconsあたりは毎年常連のイメージですが、キャップコントロールできなくて泣く泣く放出も聞かないので、傍目には危機的状況でも、それぞれ「奥の手」を隠して乗り越えてるのかなと思います(^-^)

ありがとうございました(^^)/

desaixjp
個人的にキャップは余らせるより使い切る方が正しいのではないかと思っています。
ただし「来年以降もキャップが増える」ことが大前提です。もしキャップが減るような事態になれば、状況は変わります。
その意味で、2021年は各チームのサラリーキャップ対策の本領が問われる年になると思います。
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