不和のグラフ

 前回取り上げた政治ストレス指数(Political Stress Indicator)の3要素、即ち潜在大衆動員力(Mass Mobilization Potential)、潜在エリート動員力(Elite Mobilization Potential)、そして国家財政難(State Fiscal Distress)のそれぞれについて、さらにその中身を構成する要素がどう変化してきたか、Turchinのプレプリント補足資料をグラフ化して見ておこう。戦後米国の流れが概括できる。

 まずはMMPのうちの相対賃金だ。PSI算出のためにはその逆数を使っているので、グラフも逆数の推移を示す。

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 1960年前後を底にグラフは上昇(相対賃金は低下)している。利益の分け前という意味では米国の大衆はこの60年ほどずっと割を食ってきたわけだ。ただし、見ての通りところどころ逆行している局面もある。ITバブル崩壊やリーマン・ショックなどの景気後退期には相対賃金が上昇しているわけで、解雇規制の緩い米国でも不景気時には利益の低下の方が人件費圧縮より先行して進んでいることが分かる。あくまで景気後退期だけの現象ではあるが。
 次は都市化の進行。

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 米国は終戦時点で既に都市人口が6割に達していた。この数値は1970年代まで急激に伸び、その後しばらく勢いは衰え、1990年代半ばからまた少し加速し、足元は再び減速している。既に8割を超えている都市人口割合がかつてのように急激に伸びることはもうないだろう。もしかしたら高い都市化が成長減速の原因かもしれないという見解については前に書いたことがある
 次はユースバルジ。

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 ベビーブーマーの存在がこのユースバルジにも明確に表れている。終戦前後の山は第一次大戦後のベビーブームによるものであり、1980年代にピークを迎えたのは第二次大戦後のベビーブーム(今現在、ベビーブーマーと呼ばれている世代)を示している。21世紀に入ってからも少し山ができているが、これはいわゆるエコー・ベビーブーム世代、つまりミレニアル世代によるもの。基本的に今後は低下していきそうな数字である。
 続いてEMPのうちのエリート人口割合。

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 見ての通り、ベビーブーマーが若者の数を増やしていた時期が最も低くなっている。基本的に若者は地位も低く金もないので、その世代が増えればエリートは減るのだろう。だがその後の急増ぶりは単に「ベビーブーマーが年を食った」だけで説明できる水準を超えている。間違いなくエリート過剰生産が生じている、とTurchinはこのデータを見て考えたのだろう。
 続いてそのエリートたちの収入だ。PSIの計算法に合わせ、グラフは逆数で見ている。

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 エリートの比率が増え始めたころから、彼らの収入はむしろ悪化し始めている。戦後すぐの、エリートがあまり報われなかった時期よりも、足元ではさらに収入が悪くなっている。メリトクラシーが彼らの競争を激化させて、さらに敗者も多数生まれている、ということを意味しているのだろう。
 最後にSFD関連。まずは政府の負債だ。

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 戦争の影響もあって戦後すぐは高い水準にあった負債はいったん減少。しかし1980年代(双子の赤字が問題になり始めた時期)から上向いている。面白いのは1990年代後半から00年代後半まで、負債を抑制する動きが見られたこと。リーマン・ショックでその箍も外れてしまっているが、この時期はSFD全体も増加を抑制されていた。PSI全体でも伸びが加速したのはリーマン以降だ。
 最後に政府への不信度。

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 最初に不信度の上昇が始まったのは1960年代。足元同様、米国で暴動が色々と起きていた時期だ。問題はそれ以降、不信度が上がりっぱなしになっていること。1970年代以降、米国における政府不信は高水準のままじわじわと上がり続けている。他の要素が悪化した時に、このデータが持つ不吉な意味が表に出てくる、という流れだろう。
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