雑談をいくつか。まずLiar Gameのドラマ"http://www.fujitv.co.jp/liargame/index3.html"だが、第8回のオチに少々疑問が。エトウは借金を全て返済するには3億円貰わないといけないのでは? リストラ対象になったことに伴うペナルティ1億円(これは他のプレイヤーに分配する)、Mチケットの返済1億円、そして2回戦での借金1億円の合計だ。本来、ナオはエトウに3億円、他のプレイヤー(含む自分)に8750万円ずつ渡すべき。そうすればエトウは借金を全て返済できるし、他のプレイヤーもエトウから1億円÷8人の1250万円をもらって計1億円となり、敗者復活戦のMチケット分を返済できる(2回戦の借金は残る)。そこまでやると視聴者にとって話がややこしくなりすぎるので、敢えて省略したのかもしれないが。
ついでに最終局面で急上昇していった1票当たりの価格は果たして妥当な額なのかも確認しよう。まずキダやオオノの立場になった時、2票で7000万円は高いだろうか。2人ともこの時点で手元資金9500万円とナオから貰う筈の7000万円を確保している。票の購入をせず最下位になればペナルティ1億円。Mチケット返済必要額も1億円。ナオから順調に7000万円の債権を回収できたとすれば手元総額1億6500万円。差し引き3500万円の赤字だ。逆に票を購入すれば手元資金は9500万円になるが、最下位のペナルティ1億円がなくなるうえリストラ対象者から1250万円も入手できる。Mチケット返済分を引いても750万円プラス。
もちろん、2票だけの購入では最下位脱出が確定しない(50票を確保できない)ため、実際にドラマであったように後で追加の票購入を強いられる可能性がある。一方、票の購入を拒否して最下位を覚悟した場合、同じような戦略を取るプレイヤーが多ければナオが債務の支払い不能に陥る可能性がある。そうなるとキダやオオノの赤字は3500万円ではなく1億500万円まで拡大。とりあえず、この局面では2票を7000万円で購入するのも判断としてはそう悪くないように思える。
問題は、彼らがまた票数で最下位になった時に2票を9500万円で購入したのが妥当だったかどうか。リストラを逃れたとしても手元資金はゼロ。リストラ対象者からの1250万円が入ってもMチケットの返済を考えれば8750万円の赤字だ。かといって票購入を拒否すれば手元資金9500万円に対して損失は最下位ペナルティの1億円とMチケットの返済1億円で差し引き1億500万円の赤字。さらに悩ましいのは、キダやオオノは再度2票購入してもなおリストラ対象になる可能性を残していることである。彼らにとって最悪の事態は、2票購入したにもかかわらずリストラされた場合。こうなると赤字額は計2億円にまで膨らむ。もし「最悪の事態を避ける」ことを重視するプレイヤーなら、あの時点で票の購入を拒否する可能性もあるのだ。どちらにしても借金が1億円前後増えるなら、2億円増加するリスクを避ける、というのも選択肢としてはアリだろう。
アソウ、オカノ、エトウ、ノゾエの立場になるとどうか。彼らは2票で1億円をふっかけられている。これを受け入れてリストラを免れたなら、手元資金6500万円プラス最下位からの1250万円マイナスMチケット返済1億円で2250万円の赤字。この取引を拒否してリストラされることを選べば(ナオが債務を支払うとして)手元資金9500万円プラス債権7000万円マイナスMチケット返済1億円マイナス最下位ペナルティ1億円で3500万円の赤字となる。これでもなお購入した方がマシだが、それほどの差はない。もう一度、票の購入を吹っかけられるリスクを踏まえた場合、キダやオオノが選んだほど簡単に「票の購入」を決断できるかどうかは微妙な水準である。
誰が最下位か分からなくなった局面で、アソウ、オカノ、エトウは手元全額で票を買った。リストラを逃れられれば赤字は8750万円。逆にリストラの道を選べば赤字1億3500万円。普通に考えれば購入すべきである。とはいえ彼らのうち少なくともアソウとエトウはリストラ回避確定分の票を貰っていない。ここでも上に述べた「最悪の事態を避ける」選択が出てくる可能性が、僅かではあるが残る。
次に、キダとオオノが最初に2票購入した後で、2票8000万円を持ちかけられたフクナガのケースだ。彼は他のプレイヤーと異なり、Mチケットで1億6500万円を所有している。取引を拒否してリストラされた場合、3500万円の赤字となる。一方、8000万円で最下位を脱したとすれば、手元資金8500万円プラス最下位からの1250万円マイナスMチケット返済1億円で250万円の赤字。これはまあ納得がいく。問題は、その後に手元資金全額でおそらく2票を再度購入したこと。購入によってリストラを避けられれば赤字は8750万円、購入せずリストラされれば赤字1億1500万円、購入しても結局リストラされれば赤字2億円。またも「最悪の事態回避」選択がありうる局面である。
一方、ツチダから票を買ったノゾエの場合だが、彼女はあの時点で2票買えば最下位にならないことが確定する。その意味でキダやオオノ、フクナガとは立場が異なる。票を買えば最終的に8750万円の赤字、買わなければ1億3500万円の赤字。購入は妥当な判断だろう。
ノゾエに票を売ったツチダの場合はどうだろうか。そもそも彼は計算を間違えている。2億6000万円では負け抜けには足りないのだ。最低でも4人に票を売って3億2500万円儲けておかなければならない(理由はエトウに関して述べたのと同じ)。また、実際には1人に売った段階で誰も彼から票を買わなくなってしまった。彼の手元資金は1億3000万円。このまま最下位になってリストラされれば7000万円の赤字だ。逆に1億3000万円を全て使って票を買った場合、リストラを回避したとして赤字は8750万円。そう、今回のドラマの最大の問題はここにある。確かにリストラされなければ3回戦で儲けてこれまでの赤字を減らす可能性が残るが、少なくともあの局面だけで見れば彼は自ら損失が膨らむ行動を取っているのだ。実に非合理的である。
ついでに全然別の話。ESPNの記事"http://sports.espn.go.com/nfl/columns/story?columnist=clayton_john&id=2881407"で、過去4年分のデータを元にしながら「QBのパス成功率が勝利につながる」と解説している文章があった。その中で「スタッツ好きの間ではYPAが重視されているが、YPAはディフェンスをストレッチする能力は示してもパスの効率性までは示さない」云々という台詞がある。
これは間違い。YPAはパス成功率×yard per pass completion、つまり「パスの効率性」に「ディフェンスをストレッチする能力」を掛け合わせたものだ。指標の中にパスの効率性も含まれているのである。そもそもパス成功率だけで勝率が決まってくるのならDavid Carr率いるHoustonが優勝していなければおかしい。
実際に著者が書いている「過去4年分」のオフェンスのパス成功率とYPAがどれだけ勝率と関連しているか、相関性を調べてみた。データは以下の通りで、左からシーズン、勝率とパス成功率の相関性、勝率とYPAの相関性だ。
2003年 0.50 0.66
2004年 0.39 0.56
2005年 0.31 0.59
2006年 0.19 0.45
どの年を取ってみてもYPAの方が勝利との関連が高いことが一目瞭然である。もちろんパス成功率も勝率と正の相関があるからパス成功率が勝利につながるといっても大間違いとまでは言えない。しかし、それより相関性の高い指標があるのなら、敢えて相関性の低い指標に注目する必要はどこにもない。
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