前に推定ANY/Aを算出した時と同じようにこのデータから彼のANY/Aを推計するとどうなるか。実は5.357にとどまる。絶対値ではVan Brocklinより0.7近くも少ない。それでもRANY/Aは+2.638というかなり恐ろしい数字にはなるんだが、Van BrocklinのキャリアRANY/A+2.820に比べればわずかに劣る。
同じ1950-55シーズンに1000試投以上を記録した8人のQBで見ても、実はGrahamのANY/Aはリーグトップではない。同期間のVan BrocklinはANY/Aが6.310、RANY/Aは+3.511ととんでもない数字を出しているし、
Bobby Thomason はGrahamには及ばないもののANY/Aで4.820、RANY/Aで+2.035とかなり高めの数字を記録している。AY/AならGrahamの7.05はVan Brocklin(6.90)もThomason(5.82)も上回っているが、サックを含めて計算するなら必ずしもそれほど圧倒的ではないことになる。
もちろんGrahamはキャリア後半、Van Brocklinは前半という違いはある。AAFC時代のサック記録が残っていればGrahamがより高いANY/Aを残していた可能性はあるのだ。一方でAAFCはおそらくNFLよりプレイの質が低かった可能性もあり、その場合GrahamのAAFC時代の数字は額面通りには受け取れなくなる。いずれにせよANY/Aという切り口で見る限り、GrahamではなくVan Brocklinの方こそこの時代を代表するQBだったことになる。
だが彼らと同時代の人々がそう思っていたかというと、そこは疑問だ。
Graham は1951、53、55年にUPIのMVPに、1947-49と51、53-55の計7回1st Team All-Proに、そして1950-54と5年連続でPro Bowlに選出されているのに対し、
Van Brocklin は1960年にAPやUPIなど4つのMVPと1TAPに選ばれているものの、他の年にはそうした選出対象にはなっていない。Pro Bowlには計9回選ばれているものの、トータルとして見ればGrahamの方がトップクラスのQBと評価された時期が多く、ピークが長かったと言える。
推定ANY/Aで劣っているGrahamがVan Brocklinよりいい選手だと思われてきた理由は何だろうか。当時は
サックがQBのスタッツ ではなくチームのスタッツと思われていたことも一因だろう。要するにVan Brocklinのサックの少なさは彼自身の能力ではなくOLのおかげと評価されていたわけだ。サックを考慮しないのであれば単純にAY/Aで勝るGraham(7.05)がVan Brocklin(6.58)より上に来るのは当然だろう。
ご存知の通り、single-wingはランに重点を置いたオフェンスである。当時のTailbackはtriple threat、即ち
ラン、パス、キックの3種類を使いこなす選手 だと言われていた。そのTailbackがT-formationの時代になるとQBに変わり、パスを主に担うようになったが、それでも彼らを評価する側の脳裏にまだtriple threatの印象が残っていたとしても不思議ではない。
そして、ランを含めて評価をするとGrahamはかなりいい数字が出てくる選手である。1950年代のQBたちのラン記録を見ると、GrahamのランTD33回という数字はTobin Roteの35回に次いで2番目に多い。当時はランの記録にサックも含まれていたためGrahamのランは306回の682ヤードにとどまっているが、サックヤード分を計算に入れるならNFL時代の彼は1試合当たり31.5ヤードのランを記録していたことになる。2010年代で言えばRussell Wilson(31.2ヤード)並みの機動力があったわけだ。
別の切り口でいうと、Grahamは1950-55年にかけてBrownsのトータルヤード(24830)の57.1%に相当する14181ヤードを自らのパスとランで稼いでいたことになる。一方、同期間のVan BrocklinはRamsのトータルヤード(28769)の43.4%を稼いでいただけであり、Grahamに比べればその存在感は薄かった、とも考えられる。パスだけに絞ればVan Brocklinもかなり凄い選手なのだが、当時の観客にとっては彼よりもGrahamの方が素晴らしく見えた可能性は高い。
いや、単に当時だけではない。現代のQBたちと並べても「ランとパスの両方を含めた評価」で見た場合のGrahamの評価はかなり高い水準となる。ANY/Aの計算に、ランの数値(ランTDは20倍)を含めて計算したデータをTotal Adjusted Net Yards per Attempt(TANY/A)としよう。NFL時代のGrahamのTANY/Aを見ると、その数字は6.612となり、現役QBたちの中ではRoethlisberger(6.537)やRyan(6.578)を上回り、Rivers(6.696)に近い数字となる。
パス試投1000回以上の選手たちのTANY/Aを見ると上位の大半は現役QBたち(トップはMahomesの8.285)で、例外もPeyton Manning(3位で6.970)やSteve Young(5位で6.883)、Tony Romo(6.830)と最近の選手が多い。Grahamほど古い時代の選手は彼より上位には存在せず、Van Brocklinがかろうじて6.447(20位)にとどまっている程度だ。パス効率がそれほど高くない時代の選手としては、Van Brocklinもそうだが、Grahamの突出ぶりは異様に目立っている。
もしこれにAAFC時代の数字まで加えるなら、Grahamの記録はもはや異常値の世界に突入する。彼のTANY/Aは驚異の7.506。現役選手でもMahomes以外にこれに勝る数字を残している選手はいない。もちろんAAFCのディフェンスはおそらくNFLよりレベルが低く、それだけGrahamの数字はかさ上げされていた可能性が高い。だとしても当時のプレイレベルに比べ、Grahamが傑出していたのは間違いないだろう。
要するにGrahamはパスと同時にランも極めて高いレベルでプレイしていた選手だと考えられる。2019シーズンを席巻したモバイルQBたちと同じようなプレイスタイルだったわけだ。一方Van Brocklinは典型的なポケットパッサー。そうしたプレイスタイルの違いは昔から存在していたことが分かる。
ちなみにTANY/Aで見ると意外な選手が上位に出てくる。例えば1960年代にプレイしていたDon Meredithの数値は6.447とVan Brocklinとほとんど変わらない水準だ。あるいは同じ頃にプレイしていたFrank Ryanは6.322と、こちらはUnitasとほぼ同じ数値になっている。
最近の選手で思ったより高いポジションにいるのは、例えばKirk Cousinsがいる。彼のTANY/Aは6.698とRivers(6.696)とあまり変わらないところだ。またJared Goffは6.525と、Kurt Warner(6.534)並みの成績を今の時点では保持している。そしてMatt Schaub(6.257)、Jameis Winston(6.194)、Colin Kaepernick(6.193)、Marcus Mariota(6.186)といった面々が、例えばBrett Favre(5.800)やJim Kelly(5.752)よりいい成績を残していたりする。足元でQBの成績が大きく向上していることを表す一例であり、Grahamがいかに例外的な存在であるかも分かる。
逆にHOFerでも低い選手はかなり低い。Arnie Herber(3.556)は時代も古いし仕方ない感じもあるが、Ken Stabler(4.649)、Terry Bradshaw(4.940)、Bob Griese(5.056)など1970年代の選手たちが下の方に顔を出すのは、この時代がいかにパスにとって不遇であったかを示すものと言えよう。
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