NFLのドラフトが終了。これからはUDFAとの契約などロースター作りに向けた細かい動きが続く。各チームのファンにとっては、主要メンバーの名前を見ながら捕らぬ狸の皮算用を始めるタイミングでもあり、おそらくどのチームのファンにとっても一番夢とか希望とかを抱ける時間だろう。もっとも今年はCOVID-19の動向次第でどう転ぶか分からないところが課題ではある。既に他のスポーツはその影響を受けており、
XFLに至っては破産法申請に追い込まれた 。NFLは運よくオフシーズンだったが、その幸運が今後も続くかどうかは不透明だ。
とはいえ今後どうなるかが分かるわけでもない。今のところは例年通りの動きになると考えながら過ごすより他にないだろう。で、例年通りなら今後は大きな動きがほとんど見られない時期に入ってくる。もちろん散発的にGMがクビになったり、新しい契約を結ぶ選手が出てきたり新しい契約でもめる選手が出てきたりといった動きはあるだろうが。基本的には夏のキャンプからプレシーズンへと至る季節までは暇なタイミングである。
改めて3日目も含めたドラフトについてざっくり見ておこう。2巡までに5人が指名されたQBだが、3日目にはさらに8人が追加指名された。といっても4巡以降のQBが戦力になるケースは滅多にない。今年の場合、事前に上位指名の可能性もあると見られていた選手のうち4巡以降で指名されたのはEason(Colts)、Fromm(Bills)くらいで、このうちEasonはもしかしたらRiversの後釜候補としても考えられているかもしれない。実際に去年、同じく4巡で指名されたStidhamが結果的にBradyの後釜になりそうな状況だし。
現状に関して言えば、実績よりもルーキー契約が根拠となって先発の座に収まっている選手が多いことが、QB余剰に見える理由だろう。32チームのうちルーキー契約選手が開幕先発と思われている事例を見ると、4年目のTrubisky、Mahomes、Watson、3年目のMayfield、Darnold、Allen、Jackson、2年目のMurray、Jones、Haskins、Lock、Stidham、Minshewあたりが挙げられる。これに今年の上位3選手(Burrow、Tagovailoa、Herbert)が加われば、実に半数がルーキー契約QBに占められる。
新人をのぞく13人のうち、キャリアのANY/A+が100に達していない選手は7人、100試投にすら達していない選手が1人いるわけで、経験の量も質も合格点と言えるのは正直言ってMahomesとWatsonくらいだろう(Jacksonはまだ量が足りない)。大半が実績不足なところに、さらに未知数の新人が参加するわけで、彼らをリーグ平均並みのベテランより優先する理由は、ポテンシャル以外にはコストくらいしか思い浮かばない。今や「安いルーキー契約QBを使って他のポジションを強化する」戦術が、かなりリーグで広範囲に広がっているのではなかろうか。
トレード回数でトップに立ったのがPatriots、Dolphins及び49ersの各5回だ。続く4回のチームとしてはColts、Vikings、Eaglesの名前が出ている。6チームのうち半数がBelichick及び彼の弟子のいるチームであり、師匠の薫陶が行き届いていることがよくわかる。ちなみに他のBelichick弟子関連ではTexansが3回、Lionsが2回のトレードを行っている。やりづらい環境でも積極的に打って出ているのを見る限り、やはりBelichick(とその弟子たち)はトレードにメリットがあると認識しているのだろう。
ただしPatriotsのトレード方法は例年とは違う。5回のうちChargersと行った最初の1回はいつもの彼ららしいトレードダウンだったが、2回目のRavensとのトレードはむしろトレードアップであり、以後3回目のRaiders、4回目のJets、5回目のColtsもそのすべてがトレードアップとなった。これだけトレードアップしてもなお10人とかなり多い人数を指名できている点は評価すべきかもしれないが、いつもの年とは違う行動を取っているのは間違いない。
だがもっと驚くべきは、これだけトレードアップしている割にドラフト資源のマイナスが少ないことだろうか。いつもの
Football PerspectiveのDraft Pick Value Calculator で調べると、Jetsに渡した来年6巡を除くとPatriotsが得たValueが46.2だったのに対し、失ったValueは46.4にとどまっている。翌年分は1巡低い評価になると考えれば、そのValueはほとんどないに等しい。例えばColtsが、選手を含まないトレードでアップ1回、ダウン2回を行った結果、得たValueが22.5、失ったValueが22.4となっていたのに比べれば、Patriotsの方がうまく立ち回ったように見える。
もちろんここで言うValueとはいわば期待値にすぎず、実際にドラフトが成功だったかどうかは結局のところフィールド上で出る結果を見なければ分からない。現時点での各マスコミによる評価(例えば
大本営 の場合はB、
Sports Illustrated だとC+など)などは、その意味で単なるにぎやかしくらいに見ておいた方がいいのは確かだ。敢えて言うならアナリティクス系サイトの分析、例えば
Pro Football Focus などは少し注意してみていてもいいかもしれない。
そのPatriotsの指名で最も注目を集めたのは、5巡のKickerだろうか。Patriotsは去年も5巡でPunterのBaileyを指名するなど、割とよくSTメンバーをドラフトで指名するので、その意味では不思議な行動ではないのだが、Kickerについては常に言われているのがUDFAで選んだ方がいいという説だ。Aaron Schatzもこの指名について
「奇妙とは言えないが、なお彼がUDFAのKickerより良くなると信じる理由はない」 としている。敢えて何かあるとしたら、Kick offに関してかなり高い能力を持っている可能性、くらいだろうか。
むしろこのRohrwasserというKickerで話題になっていたのか、
極右団体のマークを刺青していた ことかもしれない。個人的にスポーツ選手の政治的信条についていちいち口をはさむつもりはないのだが、Kaepernick問題がそうだったようにおそらく米国内では問題にする人も出てくるだろう。
Kicker以外の指名を見ると、オフェンスはTEが2人(どちらも3巡)、OLが3人(5巡でG、6巡でT、7巡でC/G)ディフェンスはSが1人(2巡)、Edgeが2人(2巡と3巡)、LBが1人(6巡)となっており、攻守双方ではバランスが取れている。いつもながらの「2巡のDB」とか、高い頻度で行うTE指名とか、Belichickらしさが目立ったドラフト、ともいえるかもしれない。チームにとって新しい時代に入る最初のドラフトだが、さて彼らはどこまで活躍できるであろうか。
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