2020ドラフト

 NFLではリモートワークならぬリモートドラフトが開催され、2日目まで終了した。1巡の指名は仕事があったのでリアルタイムでは見ていないのだが、Football OutsidersのAudibles at the Lineを見ると何となく雰囲気は分かる。前半は予想通りすぎる展開だったが、後半にかけて意外な指名が増え、盛り上がったようだ。
 何より最大のクライマックスはPackersがトレードアップしてJordan Loveを指名したところ。以前紹介した今年のQBASEによるとLoveは1巡指名の可能性があるとされている選手の1人ではあったが、同時にとても低い期待値を叩きだしてもいる。大学最終年の成績があまりにアレだったことが理由だろう。
 彼を指名したのが、足元でQB不足に見舞われているチームでないことも驚きの1つ。確かにPackersは2005年に35歳のFavreを先発に抱えたままRodgersを24番手で指名し、3年後に先発を彼へと切り替えた。今年のRodgersは36歳で、Loveの使命は26番手と、15年前に似た状況が生じているのを見る限り、彼らが「二匹目のどじょう」を狙っている可能性はある。
 だが15年前のRodgersは1巡上位と言われながらなかなか指名されていないstealだったのに対し、Loveはそこまで事前に高く評価されていたわけではない。ESPNのBig Boardでは20位、USA Todayだと17位に入っているが、The Ringerなら32位、SBNATIONでは42位、Pro Football Focusに至っては76位と、かなり評価の割れる選手だ。
 加えてPatriotsが23番目の指名権をトレードダウンし、Saintsが24番目でCの選手を指名した時点で、Packersより前にQBを指名するチームが出てくる可能性はほとんどなくなっていた(Titansくらいか)。reachの可能性がある選手をわざわざトレードアップする理由があるとしたら、PackersがLoveに何らかの素質を見出したか、あるいはRodgersの時の成功体験を重視したといったあたりだろうか。前者は必ずしも世間一般の見方と完全には一致していないし、後者は単なるゲン担ぎにすぎない。
 そもそもPackersとRodgersの契約を見れば、2021シーズンまではどうやっても計30ミリオンを超えるデッドマネーを抱える覚悟をしなければカットやトレードには踏み切れない。要するにPackersがルーキー契約の安いQBを活用することができる期間はかなり限られるわけで、その意味でもこのタイミングで1巡トレードアップでのQB指名は予想外だ(もっと下の順位での指名なら理解できる)。
 Jason Fitzgeraldの書いているエントリーでは「2020年にトレード」「2021年の早いうちにトレードかカット」「2021年の6月1日後にカット」「2022年にカットかトレード」という4つのシナリオについて検討している。最もありそうなのは最後のシナリオで、17.2ミリオンのデッドマネーが発生する一方で22.7ミリオンのキャップスペースを空けることができるという。3番目のシナリオも考えられるそうだ。
 いずれにせよLoveがすぐ先発することはほぼあり得ない。現労使協定のように安いルーキー契約QBを生かしたチーム作りが広まっている時代においては、なかなか珍しい選択と言えるだろう。もし彼が2年間、サイドラインに留まるのだとしたら、ルーキー契約が導入された2011年以降の1巡指名QBでは初めての事態となる。Loveと同じ26番手で指名されたPaxton Lynchが先発4試合と最もプレイ数が少なく、そしてRodgersの負傷歴を考えるならLoveもそのくらいのプレイ機会があって不思議はないが、Lynchの場合はPeyton引退を受けて指名された選手であり、Loveとはやはり状況が違う。
 Packersは15年前の成功例をもう一度繰り返したいと思っているように見える。だが当時のように1巡指名選手を数年にわたってサイドラインで勉強させるようなやり方が、今のNFLでどこまで可能なのかは不明だ。もちろんLoveがRodgers並みの選手になれば、そうした懸念も些細な問題にすぎなくなるのだが、そんな保証はどこにもない。今の労使協定でこうしたやり方がどこまで通用するのか、ある意味、見ものである。

 彼以外の1巡指名QBについてはほぼ予想通り、Bengals、Dolphins、Chargersが上位で指名していった。特にBurrowとTagovailoaはほぼ誰にでも想定できる結果と言える。Chargersの指名したHerbertも含めて、トレードが一切行われないまま指名が進んだのが少し予想外だったかもしれない。
 去年ESPNがやっていたDraft projectionsと同じものが今年は見当たらないため、去年と同じ方法でreachかstealかを調べることはできないが、上にも紹介した各メディアのBig Boardを見ながら想定することはできる。例えばESPNであればBurrowは2番手、Tagovailoaが7番手評価に対し、Herbertは24番手の評価であり、他の2人は比較的順当だがChargersの指名はreachだった、という判断ができる。
 USA TodayだとBurrowが1番、Tagovailoaが3番、Herbertが7番となっており、こちらで見ればreachは存在しないどころか、むしろDolphinsがstealっぽく見える。SBNATIONならBurrowが3番、Tagovailoaが8番、Herbertが16番で、Chargersがreach気味。The RingerならBurrow2番、Tagovailoa3番、Herbert23番で、これまたChargersが明確にreachとなる。そしてPFFだとBurrowが1番、Tagovailoaが2番、Herbertが30番となってやはりChargersがreachだ。
 指名順で見てもChargersの後はしばらくQBを必要としていないチームが並んでいた。せこく勝負をかけるなら彼らはトレードダウンを試み、もう少しドラフト資源を増やしつつHerbertをもっと低い順位で指名するべきだったのだろう。ただし、うっかり下げすぎると別のチーム、それこそPackersあたりが意表をついてトレードアップし、Chargersの目の前でHerbertをかっさらっていく可能性もあった。Herbertがどうしても欲しかったのであれば、そう間違った選択でもないだろう。
 そもそもQBの指名はBig Boardより高めに出るのが避けられない。優秀なQBが希少資源であり、かつ勝敗に大きな影響を及ぼすことは、21世紀に入ってからのAnalyticsの発展で嫌というほど知らされている。少し古いデータだが、ドラフト1巡指名QBほど実績が高く、2巡以降はその成績がどんどん落ちているという話もある。1巡指名が全員当たりという保証はないが、1巡で指名し損ねると失敗確率が上がると考えるなら、多少のreachには目を瞑って確実にQBを取りに行くことがそう悪いとも言い切れない。
 逆に事前にQBニーズがあると言われていたチームのうち、1巡でのQB指名に踏み切らなかったBuccaneers、Patriots、Saintsの3チームは、現状それほど追い詰められていると思っていない可能性がある。特にPatriotsの場合は、それだけStidhamを信用していると考えないと辻褄が合わないところだ。逆にBucsやSaintsはPackersほど早めに後継QBを選ぶことに躊躇したのかもしれない。
 他のポジションも含めた1巡のreachとstealについては、FiveThirtyEightに記事が載っている。記事中の表に載っている右端の数字は、当該選手がそれ以前に指名された確率を示しており、これが0.0%ということはその時点で少なくともstealではないことを示している。逆にこの数字が高い選手は明白にstealと見ていいだろう。
 1巡指名選手のうちreachではないかと見られているのは、Andrew Thomas(Giants)、Damon Arnette(Raiders)、Jalen Reagor(Eagles)、Jordyn Brooks(Seahawks)、Isaiah Wilson(Titans)の5人。例えばThomasはESPNのモデルで想定されていたより3人分も早く指名されたという。今年のドラフトは特に序盤におけるトレードがほとんどなく、バーチャルドラフトがトレードを困難にしていた可能性があるという。
 逆にかなりのstealと見られているのはTagovailoa(Dolphins)、Becton(Jets)、Wirfs(Buccaneers)、Jeudy(Broncos)、Lamb(Cowboys)、Murray(Chargers)、Love(Packers)及びQueen(Ravens)といったあたりだ。面白いことにモデル上ではLoveもsteal扱いとなっている。
 2日目に関しては2巡でEaglesがHurtsを指名したのが目立った。高額契約のエースQBがいるのにドラフト上位でQBを指名しファンを驚愕させたという意味では、Packersと同じではある。今年のドラフトは(これまでのところ)緑のチームがアツい、ってことか。
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