2010年代

 COVID-19の影響はあちこちに及んでいる。NFLもドラフトを完全に「バーチャル」に進める方針だそうだ。国内でもあちこちでテレワークやらリモートワークが行われており、うまくアクセスできないといった問題も起きているようだが、NFLではそうしたリスクに備えて事前に模擬ドラフトも予定しているという。ぶっつけ本番よりはいい手だろう。
 そんな具合に重苦しい話が多い昨今だが、一方でウイルスとは無関係の話ももちろんある。最近のNFLで報道されたのは、NFL 2010s All-Decade Teamが選出されたというものだ。10年前に比べると多少発表が遅れたようだが、それでも2010年代が終わったところで間を置かずに決定されたことに変わりはない。数年の間を置いてから決めた方が後から見れば公平な選出になるのではないかと個人的には思ってはいるが、やはりそれは難しかったようだ。
 具体的に選出されたメンバーを見てみよう。今回の選出においては1st teamや2nd teamといった分け方はないが、一方で選出された52人の全ランキングも公表されており、それを見れば事実上の1st teamが誰であるかがわかってしまうという状況。という訳で順位が下の選手は2ndと見なす。
 QBはBradyが事実上の1stで、Rodgersが2ndだ。このうちBradyに対しては異論はない。この10年間にPro Bowl選出9回はBreesと並んでQBではリーグ最多であり、1st team All-Pro選出2回はRodgersと並んでこれまたリーグ最多である。加えて彼は5回Super Bowlにチームを導き、3回優勝している。Super Bowl MVPへの選出はあまり意味がないとは思うが、それを除いても彼以外に選択肢はない。ついでにApproximate Valueも160とリーグ最多である。
 問題は2番手だ。Rodgersについては上に記した1st team All-Pro選出2回と、チームの優勝1回という数字が評価対象となるし、これらを踏まえると彼が2番手に入るのはそれほどおかしくないことも事実。だが一方で怪我の多かった彼は他の候補となるQBたちに比べてこの10年間の先発試合数が結構少ない。レギュラーシーズンで1試合も休まなかったRiversより18試合少ない142試合にとどまる。そのためAVも150と、Brady、Brees、Ryanに次ぐ4番手にとどまる。
 特に問題となるのはBreesとの比較だろう。個人的にはRodgersが2番手でいいとは思うが、異論を持つ人がいても不思議ではない。実際52人枠に入らなかった選手たちを紹介する記事では真っ先にBreesの名前が出ており、彼の落選が非常に際どい結果だった様子が窺える。彼にとって不運だったのは、優勝したのが2010年代ではなかったことだろう。もし優勝が1年ずれていれば、Rodgersとの比較はさらに微差になっていたと思う。どうせなら1970年代のように2nd team QBを2人選んでもよかったかもしれない。

 続いてこれまた以前にも指摘しているが、選出されたポジション数を見ると、相も変わらずオフェンスは21 personnel、そしてディフェンスは4-3を前提にした、つまり極めて古臭いpersonnelに基づく選出となっている。一応ディフェンスの方はCBとS以外にDBを2人選ぶことでセカンダリー救済措置を取ってはいるのだが、オフェンスにはそういう措置はなし。それどころかFLEXと称してRBをさらに1人追加している有様だ。
 選ばれたRBのAVを見るとMcCoyが96、Petersonが81、Goreが78でLynchが69だ。FLEXのSprolesはたったの57。一方WRのAVはJonesが113、Brownが102、Fitzgeraldが74でJohnsonは70となっている。WRの方が高めであるうえに、AV70以上のWRは他にもThomas、Green、Nelson、Hilton、Bryant、Marshallと6人もいるのに対し、RBはForte、Ingram、Murrayの3人にとどまる。どう見てもRBが恵まれすぎているのに対し、WRへの評価が低く出ているのは否めない。
 もう少し伝統的なデータとしてYards from Scrimmageを見ると、RBのうちMcCoy、Peterson、Goreの3人はこの10年間に1万ヤード超を達している。WRではJones、Brown、Fitzgeraldの3人が同じく1万ヤードを超えており、このあたりのメンツは一見して妥当に思える。Johnsonは1st team All-Proに3回選ばれたことが、Lynchは4回Pro Bowlに選ばれたことなどが選出理由だろう。Sprolesはkick returnやpunt return込みの評価と考えるしかない(というか実際にかれはPRに名を連ねている)。
 しかしそれを言うなら実働7年で3回も1st team All-Proに選出されているHopkins、Lynchと同様にPro Bowlに4回選出されているThomas、Hilton、Marshall、いやそれどころか7回も選ばれているGreenといったWRたちが選外に終わっているのはどう説明すればいいのだろうか。最初から11 personnelを前提に選んでいれば、こうした問題は現状ほど酷くはなくて済んだだろう。
 一方、救済措置のあったディフェンスのセカンダリー陣はそれほど違和感のないメンツが並んでいる。CB3人はいずれも3回1st team All-Proに選ばれているし、Sの3人も2回以上は選出された選手ばかりだ。DBというポジションで選ばれているHarrisとMathieuは、むしろSlot CornerbackとかNickelbackという独自のポジションで選出されたと考えられる。21世紀に入って重要性が増してきたこれらのポジションについてきちんと選出することは大事であり、それだけにオフェンスでSlot Receiverというポジションから選手を選出していないおかしさがより際立っている。
 ディフェンスのフロントはどうか。DEとDTが各4人(1stが2人、2ndが2人)、そしてLBが計6人いる。DBが増えてもパスラッシュの人数がそれほど減っているわけではないことを踏まえるなら、過剰に選ばれているのはLB、と結論づけたくなるがそうではない。LBの中にはEdgeに相当する人物がMack、Jones、そしてMillerと数多く揃っており、一方DEの中にはEdgeではなくInterior DLと見なされているWattが含まれていたりする。
 DTやDE、LBといった実態に合わなくなったポジション名を基に選手を選ぶこと自体、おそらく無理があるのだろう。Edgeの中でこの10年を代表する選手は誰か、インサイドDLでは誰なのか、といった切り口で議論をすれば、もう少しすっきりとした選出ができそうに思える。

 あとはコーチの選択。1人目がBelichickなのはおそらく誰にも異論はないだろう。もう1人のCarrollについても、実績だけならおそらく文句はつけられない。正直、彼らが2年連続でSuper Bowlに出てきた時には、2010年代のDynastyはSeahawksになるのではと思ったほどだ。だが結果的にSeahawksはその後、いまだに1度もSuper Bowlにたどり着けていない。この10年間の勝ち星は100勝に達しているが、問題はこれがコーチのおかげなのかどうかだ。
 Carrollの最大の問題点はいまだにランオフェンスの確立こそが勝利への道だと思っているように見える点だ。実際にはランオフェンスのゲームにおける貢献度はパスに比べて圧倒的に低い。にもかかわらず彼がランを優先したプレイコールを続けることに対し、Seahawksファンなどからしばしば聞こえてくるのが「Wilsonの全盛期を無駄にしているのではないか」という批判である。
 現在、リーグでも最高給取りとなっているWilsonは、2020シーズン途中で32歳を迎える。QBのキャリアピークは30歳前後だそうだ。最近は息の長いQBが増えてきたとはいえ、Wilsonに残されている時間が決して長いとは言えないのは確かだろう。
 もちろんBradyのように32歳以降にSuper Bowlに3回勝利し、2回のMVPに選ばれる選手もいる。だがそれは彼が自身の実力をいかんなく発揮させられるチームにいたおかげ。もしCarrollがラン重視という自らの信念ゆえにWilsonの才能を生かし切れていないのなら、Wilsonの残りのキャリアが実のあるものになる確率がそれだけ下がるかもしれないのだ。そう考えると、2010年代のAll decade HCにCarrollが選ばれることには疑問を感じなくもない。
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