本題。トイグン=ハウゼンは残り1回なのだが、その前にCOVID-19がいよいよ本邦でも厳しい情勢になっている。新規の感染確認数が増加傾向を示し、著名人が死亡し、世間が騒がしくなっているだけではない。専門家の間でもそりそろクラスター対策では間に合わないという声が広がっている。感染症の専門家でない
山中氏の提言はまだしも、明らかに感染症の専門家による
「ロックダウンを決断すべき」というツイート、そしてクラスター班の中心人物による
「欧米に近い外出制限」をもとめる指摘は、現状の厳しさを示している。
その前に専門家会議の関係者がまとめた
COVID-19への対策という資料が表に出ていた。そこではクラスター対策が成り立つ条件として、流行状況をリアルタイムでモニタリングできること、感染を避ける行動変容が起きることを挙げている。おそらくこれらの条件がもはや満たされなくなりつつあるのだろう。夜の街における流行のせいでクラスターを追いづらくなり、また
自粛の要請があってもいまだに交通量がそれほど減っていない状況では、東京ロックダウンに踏み切るしかないとの見解もそりゃ出てくるだろう。
ロックダウンに踏み切るとどうなるのか。
こちらの記事では欧米よりはマシではないかと想定している。曰く「欧米はノーガードで避けるのみで防御しようとしたがコーナーに追い詰められ顔面にクリーンヒットをくらってKOされた」のに対し、アジアは「ガードをしていたが帰国者ラッシュの蓄積ダメージで1ダウンとなった」状態。欧米の感染者急増は実際にはあくまで「感染確認者急増」であり、実際にはロックダウンを始める前からエピデミックが生じていたのに対し、アジアでこれまで被害を抑制できていた国は感染者そのものがこれから増える。だからロックダウンをすればその効果によって欧米よりは少ない感染者の水準で止められるのでは、という理屈だ。
感染症専門家のblogでも、ある意味同じ指摘をしている。この人物の仮説によれば日本は春節の時期からアラートネスが高く「ほんのクラスターの始まりで、かなりの確率で感染を捕捉」できていた。その状態からずっとクラスターの追跡を続け「感染者を低いままに抑えつけていた」のだが、それがそろそろ限界に来ているという指摘だ。未確認の感染者が欧米ほど多くないであろうことは、これまでの国内における死者数がいまだ二桁にとどまっているところからも想定できそうだ。
サプライチェーンも含めた影響を見ると2週間の封鎖によって東京では4.3兆円、東京以外では5.0兆円のせいさんが減少。もし武漢のように封鎖が2ヶ月に及べば、合計の減少額は68.2兆円(GDPの12.9%)にまで拡大するという。1日当たりの付加価値生産額は封鎖から1ヶ月でコロナ前の7分の1まで急低下するそうで、まさに
こちらのツイートにあるトロッコ問題の絵のような状況になってしまう。長引くほどシャレにならない状態になってしまうわけだ。
国内だけではない。国連などは
「世界的食料危機」について警告を発している。こちらでも問題視されているのはサプライチェーンであり、さらに季節的農業労働者の確保も課題になりそうだ。どの国でも流通分野はロックダウンであっても続けるべき仕事とされるだろうが、そこで働く人々の健康をどう確保していくかという課題はのしかかる。
農水省は今のところ食糧不足の懸念はないとしているし、当面はそうなのだろう。だが世界的なロックダウンや鎖国状態が長引いた時にどうなるかははっきりとは示されていない。
正直なところ、この問題で最初に影響を受けるのは
先進国よりも低所得国の方だろうと思う。国連などが警告を出したのも、まずはそちらを心配しての動きだと思われる。しかし、国際貿易をつなぐ鎖の弱い部分で破断が相次ぐような事態になれば、国際的サプライチェーンを通じてその影響は各国に広がるだろう。その時、先進国がどこまで安心していられるかは分からない。
実のところ
日本社会では勝ち組に近い中高年にとってすら、ウイルスと戦わない方がメリットになる面があるかもしれないのだ。
こちらの記事では、ウイルスが定着し、かつ治療法もワクチンもない(集団免疫しかない)世界において、中高年は「十数年後、まだCOVID-19が存在する世界でうっかり年を取ってから初感染するよりも、2020年の今感染してしまった方が、致死率が低く、かつ、免疫獲得によって行動と精神の自由が獲得」できてしまうと指摘している。社会運営の中核となっている彼らがそう判断するような事態になれば、ノーガードでウイルスに殴られる手を選ぶ国も出てくるかもしれない。
そこまで長期的に考えなくても、目先の感染対策によって経済が悪化し、ウイルス対策より経済の方が重要だというところまで追いつめられる人が増えてくれば、事態は厳しくなる。ホモ・サピエンス間での利害対立が深まるほど、新型コロナウイルスにとって情勢は有利になる。専門家が言うように
「集団免疫を覚悟すべき」だとしたら、集団免疫を獲得するまでいかに社会の協力関係を維持できるかが問われる。
その期間は数週間や数ヶ月ではなく、数年を考えておいた方がいいだろう。運よく薬やワクチンが素早く開発されれば、そして量産化がスムーズに進めば、来年くらいから状況は収束に向かうかもしれない。逆に運が悪ければ、スペインインフルエンザのように3年ほどで大量死を生み出しつつ集団免疫を手に入れるか、あるいは十数年にわたってじわじわと感染者を増やすといったルートが考えられる。どちらにせよ期間は長くなり、それだけ協力関係を維持するのが難しくなる。さて、「クリスマスまでに終わり」そうにないこの戦争に、我々はどこまで耐えられるだろうか。
スポンサーサイト
コメント