労使協定案

 久しぶりにNFLの話題。このほどオーナー側が新しい労使協定案を出した。報道によるとプレシーズンを1試合減らす代わりにレギュラーシーズンを17試合とするつもりらしい。ホーム&アウェイをどう配分するつもりなのかについては記述はないが、国外ゲーム(ロンドンやメキシコ)などを中立地扱いとしてホーム&アウェイのバランスを取るのかもしれない。これまでは海外ゲームをホーム扱いされるチームがあり、それも特定チームに偏っていた。その問題が解消されるならいいことだろう。
 試合数の増加は怪我の増加につながるのではないか、という懸念をよく見かける。だがこちらでも少し触れている通り、Football Outsidersの記事によればインパクトは限定的であり、試合数増に伴うサラリー増加の分だけ選手にとってはプラスとの解釈もある。実際に選手たちがどう評価するか、興味深く見守りたいところだ。

 さらにこの案にはプレイオフ出場チームの変更も含まれている。これまで両カンファレンスそれぞれ6チーム(地区優勝4とワイルドカード2)が出場していたが、ワイルドカードの3チーム目にもプレイオフにたどり着く機会が与えられるわけだ。あと少しでプレイオフに届かなかったチームにとってはありがたい話だろう。
 具体的にはどのようなチームがその恩恵を受けるのだろうか。2002シーズン以降、両カンファレンスでシード順7位とあと少しでプレイオフを逃したところは延べ36チームあるのだが、中でも回数が多かったのはSteelersとVikingsで、いずれも4回「あと少し」を経験している。Steelersは2012、13、18、19シーズンに、Vikingsは03、05、07、18シーズンがそうだ。
 前者は同じ期間に11回もプレイオフに出ており、リーグを代表する強豪の1つだ。強豪チームが惜しくも出場を逃した年が結構あったということだろう。一方Vikingsがプレイオフに出たのは7回。毎年12チームが出場する場合の期待値(6.75)とあまり変わらない。彼らがもしシード7位で終わった年にもう少し頑張っていれば、あるいは運がよければこの数は11回になっていたわけで、その意味では不幸なチームの代表例かもしれない。
 次に多いのはAFCではPatriots(02、08)、Texans(09、14)、Titans(11、16)、NFCではBears(11、12)、Buccaneers(08、16)、Falcons(09、15)、Saints(02、04)だ。PatriotsはSteelers以上の強豪(もしこの2シーズンもプレイオフに出ていたなら19シーズン連続出場の記録を作っていた)だし、FalconsとSaintsはそれぞれプレイオフ8回と期待値以上の成績を収めている。一方、TexansとTitans(6回)は期待値より少し下で、Bears(4回)とBuccaneers(3回)は、シード7位で終わったことがより悔しかったと思われるチームだ。
 かなりの強豪からとてもそうはいえないチームまで、シード7位に入ったチームには違うタイプがそろっている。今回のルール変更によって特定タイプのチーム(強豪や弱小)が目立った利益を得る可能性はあまりないと見ていいだろう。
 逆にシード順でダメージを受けるのは2位だ、との見方が出ている。7チームが出場する場合、ワイルドカードラウンドで両カンファレンスそれぞれ3試合を行うことになる。つまりbyeを手に入れることができるのはトップシードのチームだけになるのだ。今までだと両カンファレンスで4チームが2試合勝ち抜けばSuper Bowlにたどり着けたのに対し、今後はその特権に与れるところが2チームだけに絞られる。
 プレイオフが1試合余計に増えることは、優勝の確率がそれだけ低下することを意味する。もちろん第2シードチームが対戦する第7シードチームは決して強いとはいえないところが多いだろうし、半分以上の確率で第2シードが勝つと思われる。だが100%の勝率はあり得ない。例えば勝率が75%だとしよう。現状ならディヴィジョナルの勝率6割、チャンピオンシップの勝率4割でトータル24%の確率でSuper Bowlにたどり着けるチームが、プレイオフチーム数増加に伴って確率を18%まで下げることになる。4分の1近くあったのが5分の1未満になるわけだ。
 これは同時にプレイオフに向けたシーズン終盤の各チームの戦略にも影響を及ぼす可能性がある。今までは第2シードまでに入ることを重視する一方で、それが無理なら最終週に手を抜くチームも存在していた(例:2009シーズンのPatriots)。今後は第1シードがだめとわかった段階でそうした対応を取るチームが増える可能性がある。
 さて、では過去にシード2位だったチームはどこが多かったのだろうか。トップはPatriotsの5回(2004、12、13、15、18)だ。まあ彼らはシード1位の方が回数は多かったりする(7回)ので、特別にシード2位の恩恵を受けたとも言いがたい。彼らに次ぐのがSteelers(08、10、17)、Packers(07、14、19)、Chiefs(03、16、19)の各3回となっており、強豪チームが上位に顔を出している。
 それ以外だとBroncos(05、14)、Ravens(06、11)、49ers(11、12)、Bears(05、10)、Falcons(04、16)、Panthers(08、13)、Rams(03、18)、Vikings(09、17)が並ぶ。プレイオフ出場回数の少なかった49ers(5回)、Bears、rams(ともに4回)が入っているのが目立つが、それ以外はやはり割と強豪が並んでいると言っていいだろう。新ルールによってシード2位が損をするのであれば、強豪チームほどそのターゲットになるリスクが高い。プレイオフ出場チームが増える分、強豪チームの優勝確率が下がり、ランダムな要素が拡大すると考えられる。

 なお労使協定の提案には当然ながらサラリーに関する項目も含まれている。どう解釈すればいいのかはこれだけでは分からないが、近いうちにOver The Capが簡単に内容をまとめてくれるらしい。Jason Fitzgeraldによると今回の労使協定案は、少なくとも2011年のものに比べれば「はるかに公正」なのだそうだ。
 NFLは2011年の時にシーズン17ゲーム案を放棄する代わりに、今の労使協定を成立させたという。今のシステムはキャップの拡大をスローダウンさせ、またルーキーへの支払いに上限を持ち込んだ。そして9年かけてそうした仕組みを定着させた後で、改めて17試合の案を持ち出してきたそうで、そのあたりは上手い交渉をしているということになるのかもしれない。
 もちろんこの案はNFLPAが了承しなければ成立しない。まずは選手たちの代表者による投票が行われ、そこで3分の2の賛成が得られれば、今度は選手全員が投票をして過半数で成立、という流れになるそうだ。こちらの結果も現地金曜日の午後には出てくる(つまりこれをアップしてからあまり間を置かずに決まる)そうで、いずれにせよ結論は早く分かる。
 もしNFLPAが同意するなら、新しい労使協定は2020シーズンから2029シーズンまでの10年間、適用されることになる。労使協定はチームの戦略にまで影響を与えるものであるだけに、もしこの協定でOKとなればその直後から各チームでそのうまい活用法の探索が始まると考えてもいいだろう。現在の労使協定によって生まれた「安いルーキーQBを生かしたチーム作り」という策にどのような修正が加えられるのか、それとも全く新しい策が生まれるのか。楽しみだ。
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