4年前は米大統領選について色々と書いた。今年はほとんど触れていないが、状況を見ていないわけではない。今回は共和党の候補が変わる可能性がほとんどなく、面白い予備選になりそうなのが民主党側だけである点も、なかなか取り上げる気にならなかった一因だ。
アイオワの党員集会は米国では
disasterとまで呼ばれている。集計に使われることとなっていたアプリの不備で投票結果が出るのに時間がかかり、おまけに出てきた結果が怪しいということで
再集計の可能性も残されている。民主党にとっては大失敗と言われても仕方ない。
そしてその点でアイオワは事態を混乱させる大きな影響があった、とFiveThirtyEightは見ている。
直前までの予想を見ると分かるのだが、アイオワではサンダースとバイデンがトップを争い、ブティジェッジとウォーレンが3位争いをするであろう、というものだった。
アイオワの結果(まだ確定とは言えない)を受けFiveThirtyEightの予測モデルが出したのは、バイデンの確率低下だけではない。
急激に評価を上げてトップランナーに躍り出たのがサンダースである。一時は確率を49%まで上げたほどで、過半数ではなく多数を取る確率になると既に50%を超えている。
確かにサンダースはアイオワで健闘した。だがそれだけを理由に全体の評価がここまで急上昇するのは少々おかしくも思える。いくらアイオワで頑張ったといってもそこで手に入った代議員はせいぜい10人強。
最終的には3979人の代議員が選出されるわけであり、アイオワの比率はほんの一部にすぎないのだ。にもかかわらずなぜFiveThirtyEightの予測はここまで大きく変わってしまったのだろうか。
大きな要因の1つが、世論調査をほとんど、もしくは全くしていない州の存在にあるという。
こちらの記事によると、彼らのモデルはほとんど世論調査に則っているが、世論調査が少ないか行なわれていない州についてはそれぞれの候補者の人口構造的な強みや弱み、候補者の地元であるかどうかなどの要因を踏まえた回帰分析を行っているという。
そこで問題になるのがブティジェッジの弱みとしてよく指摘されている
「マイノリティーの支持が低い」問題だ。黒人やヒスパニックは民主党の重要な支持基盤であり、特に黒人についてはバイデンが圧倒的に強い。市長を務めていたインディアナ州に近いアイオワでは活躍できたとしても、マイノリティーが多い南部や西部の州における予備選では苦戦するかもしれない。
FiveThirtyEightの予想で、健闘した候補者のうちサンダースが大きく評価を上げたのに対してブティジェッジの評価がほとんど変わらないままなのは、こうした人口構造的な懸念がモデルにおいて弱みと判断されたためだろう。逆に言えばサンダースはブティジェッジほど人口構造的な弱みがない(マイノリティーからの一定の支持が期待できる)のだと思う。バイデンの苦戦という敵失から一番の利益を受ける候補者がサンダースになっているのには、そういう理屈が存在するのだろう。
もう一つ、サンダース以外にもバイデンの急落で大きなメリットを受けたものがある。それは「誰も勝たない」だ。要するに
過半数を取れる候補者がいないまま、全国大会での代議員による決戦投票に入るという展開が、4分の1の確率で発生すると見られている。実際にはそこに至る前に予備選レースから降りる候補もいるだろうし、本当に誰も過半数を取れない事態になるとは思い難いが、目先の不透明さが高まったのは確かだ。
4年前の大統領選は
「世論調査の敗北」だったと思っている。そして今回のアイオワでも、思い浮かんだ感想は同じものだ。予備選の開幕を告げる
アイオワでは様々な世論調査が行われており、そのほとんどにおいてサンダースとバイデンが上位に顔を出していた。ブティジェッジがトップになっていた世論調査は1つだけだ。
もちろんアイオワが党員集会での投票という、一般的な匿名での投票とは違う形式を取っていることは踏まえておくべきだが、それにしても事前の世論調査が効果的でなかったことは否定できない。世論調査の実態を把握する能力が低下しており、その傾向が続いているのではないか、という懸念が生じてしまう結果だったのは事実だ。
そしてその影響をもろに受けたのが、前回の大統領選と同じ伝統的な主流メディア。彼らは事前にバイデンとサンダースを有力候補に挙げていたわけだが、何の論拠もなくそうしていたのではなく世論調査に基づいて報道していたのだろう。だがその結果、ブティジェッジをほとんどカバーできない状況になっていたようで、中には
「もう主流メディアなんか見るのすらやめよう」という声まで出てきた。
実際には主流メディアを見なくなるとよけいにエコーチェンバー化が進み、情報が偏る可能性があると思う。世論調査が頼りにならないとしても、ではそれ以上に頼れるデータがあるのかと言えばおそらくない。FiveThirtyEightのモデルも、結局のところは世論調査に大きく頼っている。昔に比べて見通しが悪くなっているとしても、だからと言って闇雲に進む方がいいことにはならない、と思う。
そして、もしFiveThirtyEightのモデルが正しいのなら、今年の大統領選はトランプvsサンダースというトンデモな組み合わせがいよいよ現実のものになりそうである。サンダ対ガイラとかゴジラ対ビオランテが思い浮かぶのだが、ポピュリスト対社会主義者の大統領選が世界中に影響を及ぼす超大国で行われるというのは、ある意味で「世紀の大スペクタクル」。トイレはすませたか? ポップコーンとコーラの準備はOK?
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