サックとインターセプト

 Football Perspectiveにとても面白い記事が載っていた。NFL Offenses Were More Hurt By Sacks Than Interceptions In 2019という題名から分かる通り、今のNFLにおいてはインターセプトよりサックの方がオフェンスに大きなダメージをもたらしているという指摘だ。その主張において最大の根拠となっているのは、実はnflscrapRのデータである。
 記事によれば2019シーズンにNFLのチームは1762ポイントのEPAをインターセプトで失った一方、2308ポイントのEPAをサックで喪失したという。1チームの1試合単位に直すとそれぞれ3.44EPAと4.51EPAとなる。インターセプトは1回当たり4.30EPA、サックは1.81EPAの喪失になるのだが、サックの回数の方がインターセプトよりずっと多いために、こうした結果が導き出される。
 しかしインターセプトに対してサックの割合がこれほど高くなったのは割と最近の事象だ。サックがインターセプトの3倍以上も発生するようになったのは、ようやく2018シーズンになってから。インターセプトの比率がひたすら低下を続けた結果としてそうなっている。だから「割と最近に至るまでインターセプトは常にサックより高くついていた」と筆者は主張しているのだろう。
 ではいつからインターセプトよりサックの方が「高くつく」ようになったのだろうか。EPAを使った分析について、この記事には2019シーズンの実績しか載っていない。ただその時点でサックによる喪失EPAはインターセプトによるものの1.3倍強に達しており、それなりに差がついている。どこかのタイミングで逆転したことは確かだろうが、その時期はそれほど「最近」ではないと想像できる。
 調べる方法はある。例えばGitHubに載っているこちらのデータを使うものがそうだ。play by play dataのコーナーを見れば2009シーズンから記録が残されており、遡って調べることが可能。その結果は以下の通り。左からシーズン、インターセプトの喪失EPA、サックの喪失EPAだ。

2019 1762 2308
2018 1846 2269
2017 1871 2118
2016 1770 1971
2015 1925 2078
2014 1990 2045
2013 2266 2213
2012 2185 2031
2011 2286 2063
2010 2220 1938
2009 2300 1936

 見ての通り、両者の喪失EPAが逆転したのは2014シーズンだ。2013シーズンまではインターセプトによる喪失EPAの方がサックの喪失EPAより大きかった。Football Perspectiveの記事でも冒頭に「2014シーズンはパス効率の新たな時代を記録した」と記しており、この年が大きな転機になっていた可能性を指摘している。確かにこの年は初めてリーグ全体のANY/Aが6ヤードを超えた年であり、その後も2017シーズンを除いて6ヤード超の状態が続いている。
 Football Perspectiveでは、インターセプトよりむしろサックを嫌がるべきではないかと指摘している。それを受けてコメント欄では議論が盛り上がっているが、個々のプレイにおいてサックを受けるか、それを避けるためにインターセプトの危険を冒して無理なパスを投げるべきかの判断は、実際にはなかなか難しそうだ。
 1つのプレイだけで見ればサックよりインターセプトの方がマイナスが大きいのは明白。であれば基本的にインターセプトを避けることを最優先にして、サックが増えるのは許容するという考えはあるだろう。というよりリーグのコーチたちはおそらくそのように考えを進め、実際にそうプレイするようQBたちを指導してきたのではないかと思われる。2019シーズンのインターセプト率は過去最低と比べて0.03%ポイントしか高くないのに比べ、サック率は0.91%ポイント高い水準だ。でもそのように「サックを犠牲にしてインターセプトを避ける」対策が進んだからこそ、今の高効率なパスが出現したとも考えられる。
 もちろん、Football Perspectiveが指摘する通り、足元でサックがインターセプトよりオフェンスにダメージを与えているのは事実だろう(nflscrapRのEPAが正しければ)。つまり大半のチームにおいて、コーチたち及びQBたちは、必要以上にインターセプトを恐れすぎている一方、サックを軽んじていることになる。つまりそこには改善の余地があるわけで、NFLのように競争の激しい世界ではこの余地を見つけ出し、そこを活用するチームが出てきて勝利を収めれば、それが新しい流れになる可能性はある。
 もちろんサックを避けようとするあまりにインターセプトが許容範囲以上に増えたりすれば(例:Jameis Winston)本末転倒。今よりは大胆に、しかし大胆になりすぎない範囲で、サックを避けながらパスを投げる割合を増やしていかなければならない。こうした微妙な調整が本当に可能なのかは分からないが、もしかしたらこれから各チームはこうした難しい課題に挑まなければならないのかもしれない。

 チームが対策を求められるだけでなく、スタッツを見る側も注意が必要になる。これまたFootball Perspective記事のコメント欄で指摘されていることだが、この記事の指摘が正しいのならインターセプトがもたらす悪影響はサックの3倍もない(2.4倍くらい)はずなのだが、ANY/Aではインターセプト1回がマイナス45ヤード分のペナルティーとなっているのに対し、サックはそれに伴うマイナスヤード数(2019シーズンは6.75ヤード)しかペナルティーを受けない。インターセプトは実にサックの6.7倍ものマイナス評価を食らっているわけだ。
 サックはアナリティクスの世界においてunder-penalizedの状態にあるのではないか、というこのコメントは(これまたもしnflscrapRのEPAが正しければという前提付きだが)、真剣に捉えるべき問題となりかねない。そこでの対案の1つとして、サックのペナルティーと現在よりも増やし、喪失ヤードを3倍にしてANY/Aを計算すべきではないか、という意見が出てきた。
 実際にこの計算法を採用するとどうなるのか。例えば2019シーズンの成績を見ると、普通の計算法ではANY/Aが8.52でリーグトップに躍り出るTannehillが、この新しい計算法だと7.18とリーグで6番手にまで成績が下がる。彼のサック率は9.8%と規定試投数に到達したQBたちの中ではHaskinsに次いで高く、その分がもろにマイナスに働く。彼のインターセプト率は2.1%とリーグ平均(2.3%)に比べてそれほど優れているわけではないが、サックによるペナルティーが少ない分だけ数値が高くなっているわけだ。
 逆にトップになるのは通常の計算法だと3位だったBrees(7.88)。Mahomesは僅差で2位になる(7.87)。Tannehillのように大幅に順位を変える選手は彼以外にはあまり見当たらないが、細かい順位の入れ替わりは他にも色々ある。
 長い目で見てこの計算法によって利益を受けるのはPeyton ManningやDan Marinoといった極端にサックの少なかった選手たちだろう。他にパス試投の多い選手たちの中ではFavre、Brees、Bradyといった面々がサックの少なさをより大きく評価されるようになる。逆にサックの多い選手たち、例えばRodgersやAlex Smith、Wilsonといった現役選手たちと、Steve Youngなどは従来より評価が下がることになる。
 問題はこの新しい計算式が勝率や得点にどのくらい相関するのかだ。例えば2019シーズンで見ると各チームの新ANY/Aと得点との相関係数は+0.786となり、通常ANY/Aとの相関(+0.781)より僅かながら上昇する。2018シーズンも前者が+0.925に対して後者が+0.911だ。しかし2017シーズンになると前者の+0.784に対して後者が+0.791とこちらは僅かながら通常のANY/Aの方が得点との相関が高い。
 インターセプトよりサックの喪失EPAが大きくなった2014シーズン以降で見ると、今まで通りのANY/Aの方が得点との相関が高かったのが3シーズン(2015、16、17)で、サックのペナルティーを増やしたANY/Aの方が相関が高かったのも3シーズン(2014、18、19)あった。つまり、今の時点ではこの新しいANY/A算出法がより適切なものであると見るだけの確固とした証拠はないわけだ。こちらの課題についてはもう少し検討する必要があろう。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント