最初の表に出てくるように1スナップあたりの価値はQBが最も高く、以下RT、RB、LTと続く。ただしこの4者のうちRBを除く3者は母数が1桁とあまり参考にしないほうがいいデータと言える。そこそこの母数があるポジションの中で控え選手の価値が最も高いのは、実はRBだということになる。一方、控え選手の価値が低いのはIDLやS、tLBといった面々だ。
控えの価値が高いということは、逆に言えば先発の価値はそれほど高くないことを意味する。
RBというポジションについては以前から「交換可能」と言われていた が、それを裏付けるデータと言える。実際、3つ目の表を見ると控え選手を5割以上上回る価値をもたらしているRBは1割にも満たず、逆に4つ目の表にあるように控え以下の価値しか出していないRBは実に6割も占めている。
1番最後の表では控えレベルを上回っている度合いの高い選手を順番に並べているが、RBで名前が載っているのはたったの4人。最も高いMcCafreyですら全体64位にとどまっている。RB以外でそこまでメンバーが少ないのはS(3人)とLT(4人)しか存在せず、しかしこの2つのポジションは控えを5割以上上回る価値をもたらしている選手の割合がそれぞれ22.7%、12.2%とRBより高い数字を出している。RBほど「交換可能」とは言えないわけだ。
Bill Barnwellは
RBについて「最近の契約がなぜ大惨事に見えるのか」という記事 を書いている。高額契約をしたElliottについては「控えのPollardが出ている方がオフェンスは僅かながら効果的」、Gurleyについては「役割が減らされ、遥かに効率が落ちている」、Bellについては「NYでの仕事は惨状を呈している」、Johnsonについては「上手くいっていない」といずれも残念な状況になっていると指摘している。
実のところ、Elliottはそれほど酷いわけではない。
Football OutsidersのDVOAを見るとリーグ2番手に位置している し、ランでのFirst Down獲得もMcCaffreyより多いくらいだ。だが残るGurley、Bell、Johnsonの3人のランはおよそ冴えない成績で、かろうじてJohnsonのレシーブが少しは見られる状態だ。RBに対する投資収益を見ると、多くのチームで上手くいっていないことが分かる。
なのに最近、
今シーズンになってランオフェンスがリーグを席巻している、という日本語記事 が出ていた。ランオフェンス上位チームの成績がいいから、という理由であり、確かに今シーズンの1試合あたりランのヤードと勝率の相関は0.571とそこそこだ。だがランのヤードと勝率の相関が高いことは昔から言われていたし、それに対しては「相関は因果にあらず」という批判が常に向けられていたことに対し、この記事は口をぬぐっている。何より、同じ勝率と比較するならオフェンスのANY/Aとの相関の方が高い(0.650)。
もう一つの注目点は、ランのEPA(Pro-Football-Reference)でトップにいるチームにおいて、RBよりもQBこそがエースランナーになっているという事実だ。ランのEPAがリーグトップのRavensではIngram(778ヤード)よりJackson(876ヤード)の方がランで距離を稼いでいる。2番手のCardinalsでもJohnson(302ヤード)よりMurray(418ヤード)が上。JacksonもMurrayもチームのエースRBより安いサラリーでパスのみならずランオフェンスまで請け負っている状態であり、いよいよもってRunningback doesn't matterと言いたくなるデータだ。
また4番手に顔を出しているTexansで最多のランを稼いでいるのは、年2.8ミリオンのサラリーで雇われているHydeだ。5番手のColtsで最もよく走っているMackに至っては年平均63万ドル台と1ミリオンにすら届かない金額でプレイをしている。ここでもランEPAで3位に顔を出しているCowboysのElliottを除き、RBのサラリーと成績が比例していない様子が分かる。そして上記5チーム以外では1試合あたりランEPAが+1以上を記録しているチームはない。
今週のQB of the decadeは1930年代だ。といってもNFLのデータがきちんと揃うようになったのは1932年からであり、それ以前の2年分のデータは不十分だ。一方、この時期のNFLはSingle-wingの全盛期であり、パスよりもランが圧倒的に多用されていた。例えば1932年のリーグの全プレイを見ると、パス試投が1044回しかなかったのに対し、ランは3238回とパスの3倍以上の頻度で使用されていた。1939年になってもその数は2238回と4075回で、やはりランの方が多かったのである。
そんな時代においてAdjusted Yardsを調べることにどれほどの意味があるかと言われると返答に困るのだが、他に手がかりもない。とりあえずいつものように左から名前、AYだ。
Arnie Herber 3654
Ed Danowski 2493
Bernie Masterson 2219
Bob Monnett 1617
Sammy Baugh 1348
Ace Parker 1341
Herber、Baugh、ParkerはHOFerであり、まだ名前が出ていることに違和感はない。だがそのうちBauchとParkerはいずれも30年代に3年しかプレイしておらず、それでもこの順位に入れてしまう。そして残る3人は今ではほとんど名前を知られていない人物たちだ。そもそもQBという切り口で並べることに意味があるのか、と疑問も浮かぶ。
上記の6人はいずれもパスで2000ヤード以上を稼いでいるが、30年代にはランで2000ヤード以上獲得した選手の方が多かった(計8人)。Single-wingではパスよりもランの方が花形だったことまで踏まえるのなら、上記の選手たちのうち半数が今や忘れ去られた選手たちと化しているのも理解できるだろう。当時としては珍しくパスに力を入れていたPackersのHerberが、最もパッサーらしいパッサーだった。
だがパスの質で見るなら彼よりも3位のMastersonの方が高い。AY/AはHerberの3.97に対してMastersonは5.75だ。MastersonはLuckが来る前のBearsパスオフェンスを担っていた選手だが、Bearsが優勝した時期にはまだプロ入りしていなかったため、結果的には存在が知られていない選手と化している。Danowski(AY/A4.07)はGiantsでパスを担っていたが、ランも結構多かった。Parkerも似たタイプの選手だ。
そして実はパスよりランの方が多かったのが4位のMonnettだ。Herberと同時代にPackersにいた彼は、6年のキャリアで336回のパス試投を記録しているが、一方でラン回数は510回とパスよりずっと多い。当時のランにはサックも含まれているので見た目よりランが少なかったとは思われるが、それでもQBというよりRBと呼んだ方が実態に合う選手だったのではなかろうか。
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