ロースター入れ替え

 ロディは1回休みで、代わりにトレード期限直前に大きく動いているPatriotsの話をしよう。1つはGordonをIRに入れ、さらに彼をwaiverにかけようとしている件についてだ。Over The CapのFitzgeraldがこの対応について面白い分析をしている。どうやらこれもまたPatriotsがやろうとしている「抜け目のない」動きの一つなんだそうだ。
 IRに入れた後になっていきなり他のチームでプレイする可能性が報じられたことは、おそらくGordonの怪我がそれほど深刻ではなく極めて軽いものだからだろう。にもかかわらずGordonをIRに移したのは、まずSanuをチームに入れるためロースターの枠を空けるという狙いがあったと思われる。IRに入れる以外でも、例えばGordonを解雇することで枠を空けることはできるのだが、今回Patsはそうしなかった。それには理由がある。
 プロ入り後も欠場や出場停止の多かったGordonは、実は未だにRFAの立場にある。RFAはシーズン6試合に出ればFAになれる一方、3試合に出場すればtermination pay(解雇手当)はもらえるようになる。従ってGordonの場合は「解雇手当によってその契約を守られている」というのがFitzgeraldの説明、なのだがここの部分はよく分からない。そもそもGordonは今シーズン、既に6試合に先発済みだ。7試合目こそアクティブロースターから外れたが、普通にFAになる権利は持っているように思う。
 実際、その直後にFitzgeraldは「もしGordonが本日解雇されるなら、彼はFAとなり他の31チームと自由に契約できる」と書いている。また同時にGordonは、Patriotsから契約の残高分1.08ミリオンも手に入れられるのだそうだ。このあたりの細かい計算はGordonの契約を見ても正直よく分からないのだが、要するにPatriotsにとっては単純に彼をカットした場合には1ミリオンほどのデッドマネーを背負う必要があるということだろう。
 前回も書いたがPatriotsのキャップスペースはかなり少ない。少しでもキャップスペースを空ける方法が使えるのならそうしたいところだ。そこでチームが編み出した手段がGordonをIRに入れることだという。彼をIRに入れたうえで、トレード期限が過ぎるまで待てば、waiverのルールが変わる。基本的にwaiverにかかる選手はリーグ入り後4年以内の選手であり、Gordonはその対象外だ。しかしトレード期限を過ぎると、ベテランを含め全ての選手がwaiverの対象になる。
 waiverでピックされた選手は、以前のチームの契約を引き継ぐこととなる。カットされた後でどこかのチームと契約する場合は新規の契約だが、古い契約を引き継ぐことになればその分だけPatriotsが負担しているサラリーを新しいチームに肩代わりしてもらうことが可能になる。もちろんwaiverでどのチームにもピックされることがないケースもあり得るが、Gordonくらい安価な契約をしている選手であれば、今の契約を引き継ぎたいというチームがいてもおかしくはない。おまけに彼は来年UFAになるので、その際に補償ピックを手に入れられる可能性もある。
 IRに入れることでロースター枠を空け、次にwaiverに出すことで運が良ければキャップを少しでも作る。Gordonに対するPatriotsの対応の背景にはこうした考えがあるのだ、というのがFitzgeraldの推測だ。これがどこまで正しいのかは分からないが、かなりテクニカルな取り組みなのは間違いない。「神は細部に宿る」というが、それにしても細かすぎないかというレベルの細かさだ。逆に言えば、今後もこのチームがロースターを動かすつもりであり、そのために少しでもキャップスペースを空けようとしている証拠とも見られる。勝利の確率を僅かでも上げることに極めて貪欲なBelichickならではの動きと言えそうだ。

 GordonのIR入りはロースター枠を空けたものの、キャップスペースを作る動きではない。その分を作り出すためにPatriotsがやったのはMasonの契約リストラだ。Masonのbase salaryである4ミリオンのうち1.75ミリオンをsigning bonusに振り替えたことで、今年のキャップが1.4ミリオン空いたという。これに残っていたキャップスペース2.9ミリオンを足し合わせれば、Sanuの今年のキャップヒットをまかなうことができるのだそうだ。
 一部で指摘されていた「FalconsがSanuの契約を一部前倒しで払ったのではないか」という推測は違っていたようだが、これならSanuをチームに入れてもキャップは破綻しない。代わりにFalconsに対する「対価(ドラフト2巡)の払いすぎ」問題は残るが、Faoconsが違うカンファレンスのチームであることを考えるならやむなしという判断だろう。何より、PatriotsとしてはGordonをSanuに代えたいという強い希望があったのだと思われる。
 昨シーズンは11試合で40レシーブの720ヤード、Y/Rは18.0とディープターゲットとして大活躍したGordonだが、今年は6試合20レシーブで287ヤード、Y/Rは14.4と獲得距離が極めて短くなっている。一方パスレシーブ率は50%台と決して高くない。そろそろIRからHarryが復帰してくることなどを踏まえ、効率的とは言えないディープターゲットを外してslot receiverだがレシーブ率の高い堅実なSanuに切り替える、という判断があったのではなかろうか。
 ショートヤードのターゲットを増やす方向にかじを切ったのは、Bradyの調子も原因だろう。今シーズンの彼は明らかに試合ごとに成績が低下傾向にある。Next Gen Statsのデータを見ても、昨年は7.7だったIAY(Average Intended Air Yards)が今年は7.3に低下しており、Bradyのディープパスが減っている様子が窺える。しかしショートパスのターゲットとして頼りになるのはEdelman、Whiteくらいで、彼らにパスが集まっているのが現状。Sanuを入れてこちらの分野で使える選手を増やした方がBradyがやりやすくなる、と考えたのかもしれない。
 もう1つ、サラリーキャップを空ける手段としてPatriotsが行ったのが、BennettのCowboysへのトレードだ。Patriotsのキャップ状況に詳しい人のツイートを見ると、Bennettトレード直前のキャップスペースが10268ドルしかなかったのに対し、トレード直後にはその数字が2.6ミリオンへと膨れあがっている。あまり使われていないベテラン(DEの中ではSimon、Winovichより少ないスナップカウント130)を減らし、資金効率を高めようという判断だろう。
 実のところ、Patriotsのパスラッシュはリーグでも下位にある。少なくともスナップから2.5秒という時間内でのパスラッシュ能力を示すPRWRにおいて、彼らはリーグでも24番目とおよそ冴えない数字だ。Football Outsidersが算出しているAdjusted Sack Rateで彼らがリーグ4位に位置しているのは、DLのおかげではなく、レシーバーをきっちりカバーしているDBたちの能力を反映したものと見るべきだろう。つまり、DLの選手を無理に引き留める必要はないことになる。
 実際問題、このチームでSack数上位にいるのはLBのCollins(4.5)であり、ルーキーのWinovich(4.0)である。QB Hitsで見てもトップはVan Noy(7)で、2位はCollinsとWise(6)だ。Sackは2.5、QB Hitsは4というBennettの数字は、悪くはないが突出していいわけでもない。Cowboysとのトレードで代価が7巡もしくは2021年の6巡というほぼ捨て値になったのも、チーム内においてBennettの必要性がかなり低下していたからだろう。
 ちなみにPatriotsはDLだけでなくOLも冴えない成績だ。PBWRは25位となっており、先発CとLTの不在が覿面に効いている。にもかかわらずPass Protectionがリーグ11位とそう悪くないのは、Bradyの早投げのおかげ。彼のTime to Throwは2.58秒とリーグで8番目に早い。その代わり、ディープにパスを投げる時間的な余裕もなくなっているわけで、Gordonがチームの構想から外れてしまったのもこうした事情があったからかもしれない。
 逆に言うなら、OLやDLが冴えなくてもオフェンスのバックス陣、ディフェンスのLBやDBたちが有能であれば、極めて高い成績を残すことが可能なのが今のNFLなのだろう。今や「フットボールは7オン7になった」。これまでは塹壕(つまりスクリメージ)が強いチームがいいチームというのが通説だったが、それも「実は証明されていなかった」ことが判明したわけだ。これからはNFLのフラッグフットボール化が進むのかもしれない。
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コメント

おかべさせ
シーズン前なら良くある話ですが、シーズン中にプレイヤーの再編を実行する(できる)チームって記憶にないです。怪我した選手の補充とかタンキング中のチームからトッププレイヤーを引き抜くとかは良くありますが。

こういう所でさらに差が開いていくのが悲しいです。というか観戦がつまらなくなっています。凄いとは思うんですが。
他のチームもなんとかしろよと。

desaixjp
普通は上手く回っている時に余計なことをすると失敗につながるのではないか、と恐れるものなんですけどね。
Belichickはそのあたりを全く恐れることがないですし、何よりオーナーもファンも彼を信用しきっているので、周囲を気にせず行動できる面もあるのでしょう。
in bill we trustと呼ばれるだけのポジションを作り上げたからこそできることだとするなら、他人が真似するのはそう簡単でないかもしれません。
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