選手の考課

 ロディ戦役の続きは休み。

 Over The Capが面白い取り組みを始めた。個々の選手のフィールド上での活躍ぶりを具体的な金額に置き直し、実際の彼らの年平均サラリーと比べるというものだ。しかも週単位でデータを更新し、あるシーズンだけでなくある週でその選手がどのくらい価値を生み出したのかを算出していくという。選手にとっては毎週、人事考課の結果が数字で出てくるようなもので、サラリーマン的にはシュール極まりない光景と言える。
 具体的な価値算出(valuation metric)のためには4つの指標を使うという。プレイヤーの参加度(おそらくスナップカウント)、Pro Football FocusのGrades、スタッツと、PFFが開発したスタッツだ。具体的にどんなスタッツを使っているかは不明だが、どちらかというと合計値より効率性を示すスタッツを重視しているようだ。
 使うデータを見れば分かる通り、この取り組みはOTCとPFFの共同事業と言える。データはこちらのページに掲載される。ただし、1~2週したら一連のデータのうち、シーズン合計と直前のゲームのデータを有料ページに移すそうなので、見ることができるデータは限定的と考えた方がいいだろう。要するに彼らはこの取り組みをマネタイズしようと考えているわけだ。PFF自体も有料ページが多く、NFLがらみのアナリティクスサイトはビジネスになると考えている人の多さが窺える。
 ただ、全体のデータについては見られなくなる部分もあるが、個々の選手の価値については個別選手のページに数字を載せるようにするそうなので、例えば「うちのQBはサラリーに見合う仕事をしているのか」を調べることが今後もできる。一例として、現在リーグ最高給をもらっているWilsonを見てみよう。現在の契約について記している部分にAnnual Contract Value、つまり年平均のサラリーが載っており、金額は35ミリオンとなっている。
 一方、右側の列には新たに2019 OTC Valuationというデータが黄色いハイライトで書かれるようになった。その数字は32.6ミリオン強。彼がもらうことになっている年平均のサラリーより2.4ミリオン弱少ない。つまりWilsonの数字だけ見るなら、彼はチームにとって赤字をもたらしていることになる。MVP候補と騒がれているWilsonですら赤字になるということは、それだけベテランQBのコストが高すぎる、というか人為的に抑制されているルーキー契約選手のコストが安すぎる結果だろう。
 実際、3番手QBから気がつけば先発になってしまい、リーグでも最も機能していないオフェンスを担っているLuke Falkですら、年平均サラリー(57万ドル)よりずっと多い4.5ミリオンのOTC Valuationを記録している。ルーキー契約があまりに安いため、単にルーキーであるだけで採算が取れてしまっているわけだ。逆にFalkよりずっと高い価値を記録しているBellは、契約額が大きすぎるため赤字だ。
 話をQBに戻すと、採算のいい選手はほぼルーキー契約(5年目オプション含む)ばかりになる。第5週終了時では上からPrescott、Mahomes、Jackson、Watson、Minshew、Murrayまでは純粋なルーキー契約、その後に5年目オプションのMariota、Winstonが並び、さらにJosh Allen、Mayfield、Kyle Allen、Rudolphと、12位まではとにかくルーキー契約ばかりが並ぶ。13位にようやく顔を出すのがBradyで、彼は年平均サラリー23ミリオンに対し、OTC Valuationは27.9ミリオン強だ。安い契約で知られ、なおかつ今年も上位成績を残しているBradyが、かろうじてルーキーたちの後塵を拝している状況なのである。
 年20ミリオン以上をもらうベテランQBたちのうち、黒字を維持しているのはBrady以外にはRiversしかいない。加えてDalton(年平均16ミリオン)も黒字ではあるが、この3人以外に黒字ベテランQBで10ミリオン以上のサラリーをもらっている選手は存在しない。控えレベルのQB(例えばBridgewater)がいくらか顔を出している程度だ。要するに高額QBたちは、どれだけ素晴らしい成績を残しても基本的に赤字扱いされてしまうのが、今の労使協定下では避けられない運命なのだ。逆に言えば、今ルーキー契約で活躍しているQBを抱えているチームは、彼らが安いうちに早く優勝を目指すべきである。
 ちなみに選手の活躍度と実際のサラリーを比べるという取り組みは、こちらで紹介したVAMPという指標と似ている。あちらはPFFのgradesとスナップカウントを利用して算出していたが、OTCがやろうとしているのはもっと複雑な計算法のようだ。しかし複雑な計算をすれば正確な結果が導き出されるとは限らないのが統計の面白いところ。あくまで今回のOTCがマネタイズに際して重視したのは、正確さよりも「毎週更新」という頻度の方だろう。話題になっているうちに情報を提供するというのは、情報で金儲けをするうえで基本なのだと思われる。

 もう一つ、今回の新データでは選手単位だけでなくチーム単位の数字も公表されている。載っている数字はチームごとのOverall Value、つまり個々の選手のOTC Valuationを足し合わせた合計と、Team APY(チーム全体の年平均サラリー)、そして両者の差だ。それぞれ「現在の選手の実力合計を金額に直したもの」「実際にチームが払っている金額」「採算」と考えればいい。成績との相関が最も高いのは当然ながらOverall Valueで、第5週終了時では勝率との相関係数が0.724、得失点差との相関は0.809に達した。当然ながらなかなか高い数字を出している。
 それに対し、実際にチームが支払っている年平均サラリーとの相関は低く、勝率とは0.348、得失点差とは0.411にとどまっている。もちろん正の相関はあり、安い給料しか払っていないチームほど弱い傾向はあるのだが、その度合いはそれほど強くない。そして最後にチームの「採算」と成績との関係だが、勝率との相関が0.404、得失点差とは0.431となっている。単なる平均サラリーよりは高いが、それほどの差はない。
 つまるところ勝てるチームを作りたければ、まずは何より選手のフィールド上での価値を高めることを重視すべきだという当たり前の結論がここから分かる。もちろんサラリーを払わないよりは払う方がいいチームができあがる可能性はあるが、単にサラリーをばらまけばそれだけで必ず強いチームが完成するとは言いがたい。集めた選手をフィールド上でどう生かしていくか、そこまで突き詰めなければcontenderは生まれないというわけだ。
 例えばVikings。彼らは年平均で213ミリオンのサラリーを選手に投じている一方、その選手たちが生み出したValueは211ミリオンにとどまっている。平均28ミリオンももらいつつ、16ミリオン弱の価値しか生み出していないCousinsをはじめ、年平均10ミリオン以上をもらっている選手たちのうち8人が採算割れになっていることが理由だろう。またVikingsについで多い207ミリオン弱を支払っているFalconsは、10ミリオン以上もらっている6人が全員採算割れ状態で、やはりトータル赤字に陥っている。
 もちろんサラリーの高いチームすべてが失敗しているわけではない。204ミリオンを投じているEaglesは216ミリオン弱の結果を生み出しているし、200ミリオンを投じたRamsは245ミリオンとかなり大きな黒字を生み出している。最終的なOverall Valueが高いチームの方が強いことを考えれば、高額投資した選手たちの採算が取れる状態はむしろ望ましいと言える。同様に高額投資グループの中では188ミリオンを投じて226ミリオンを得ているPackers、186ミリオンを投じて229ミリオンを得ているSaints、同じく186ミリオンで230ミリオンを得ている49ersあたりも、上手く回っているチームだ。
 逆に投資額が少なく、フィールド上の価値も低いのがDolphinsで、113ミリオンしか投じていない状態から123ミリオンを生み出している。ただ投資額の低いチームの中でも彼らほど成果が低いチームは滅多にない。大半は投資額よりもずっと大きな成果を出しており、例えばCardinalsは118ミリオンの投資に対して201ミリオンの結果を出しているし、Ravensは135ミリオンに対して215ミリオンだ。それ以外にもBills(142ミリオンに対し207ミリオン)、Buccaneers(150ミリオンに対し212ミリオン)などが低い投資で高い結果を得ているチームだ。
 Overall Valueの高いチームの中でリーグ平均よりTeam APYが低いのは、まずPatriots(166ミリオンに対し236ミリオン)。安いFAを集めてチームを作るのが上手いBelichickの特徴がここにも表れている。次に顔を出すのがTexans(163ミリオンに対し224ミリオン)で、あれだけドラフト権を放出してチーム力強化に走った割には使っている金額が低い。上に紹介したRavensやBuccaneersも、比較的効率のいいチームだ。
 逆に効率が悪いのは上に紹介した赤字のVikings、Falcons、そしてもう1つの赤字チームであるJets(180ミリオンに対し151ミリオン)など。BearsやJaguars、Brownsあたりも黒字ではあるが小幅にとどまっている。ただし彼らの中でもVikingsはフィールド上の価値が200ミリオンを超えているし、5週時点では勝ち越している。結局のところ、採算よりもフィールド上の価値の方が勝ち負けや得失点差との相関が高いというのは最初に指摘しているし、やはり目指すべきはそこをどう引き上げるかなのだろう。
 そう考えると、どうしてもtankingの妥当性に疑問が浮かんでくる。足元でtankingを経てcontenderを目指している代表的なチームはBrownsだと思うが、彼らのOverall Valueはリーグ25位とかなり下に沈んでいる。同じく昨シーズンに酷い成績を残した上でこのオフに大幅補強をしたJetsはもっと悪い31位だ。足元でtankしていると言われているDolphinsやRedskinsあたりは、おそらく来年以降に成績アップを目指すつもりだと思われるが、そのルートは果たして本当に存在するのだろうか。
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コメント

きんのじ
この選手分析の正しさ、正当性は誰が担保するのか?辛口ですが疑問です。

PFFやOverTheTopが有名で情報量多いから?
選手は勝つために仕事をしてるのではないか?と思っていて、今年無勝のMIAが支払い額よりいい働きをしているって、どんな意味があるのかわからないです(^-^;
企業で言えば、赤字で倒産目前なのに従業員はよくやってるねって、転職先は困らない?(そんな簡単じゃないでしょう)
意味がわからないです(^-^;

他人事の分析に同調できないというか、感情移入できないというか...。

desaixjp
実際のチーム成績と比較すればいいでしょう。エントリーにも記した通り、Overall Valueとチームの勝率との相関は0.724、得失点差との相関は0.809です。
第5週までのANY/A diffとの相関だと勝率が0.786、得失点差が0.936となり、それに比べれば低い数字です。
ですが、例えばTotal Yards per Playのdifferenceを見れば、勝率との相関は0.699、得失点差との相関は0.803となり、上記のOverall Valueの方が高い数字を示しています。
つまり現時点においてはそれなりに使える指標ということです。
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