近代デジタルライブラリー"http://kindai.ndl.go.jp/"がリニューアル。新たに6万7000冊分のデータが閲覧できるようになっただけでなく、分類別の検索なども可能になっている。どうやら著作権の行方が曖昧になっていた文献に関して文化庁長官裁定で公開が可能になったようだ。これで多少はGallicaに近づいたという感じか。
で、さっそくナポレオニック関連で目に付いたものをいくつか紹介しよう。まずは「軍制要論」。著者名は「馬蒙」とあるが、実はこれはマルモンのこと。元帥自身の書いた本で翻訳されているものがあったこと自体が驚きである。マルモンは元帥たちの中でも一番最後まで生き延びたので、こうした本を書く機会もあったのだろう。
他に有名人が書いた本としては「クラウゼーウィツ著」の「以太利ニ於ケル千七百九十六年戦役 下巻」もある。なぜか上巻は見当たらない。しかも以下に「コリン訳、森知之重訳」とあるのでドイツ語からの直訳ではない。それでもクラウゼヴィッツの本のうち日本語で読める数少ない文献の一つであることは確かだろう(他には私の知る限り戦争論と1812年戦役の本がある)。
ほかにも歴史的な戦術の変化を紹介した「古今戦法」(ボグスラウスキー著、伊藤芳松訳)なる本も、その中でフランス革命からナポレオン戦争期の話をしている。
だが、そうした本よりも圧倒的に多いのは伝記の類だ。特にナポレオンの伝記はやたらと数が多く、中には土井晩翠が抄訳したイッポリト・アドルフ・ティンヌ著の「拿破翁性格論」なるものもある。「英雄のナポレオンの母と家庭」(満田寛一著)のようなパターンもあり。翻訳本、日本人が著者になっている本、日本人の編者名のみが掲載されている本。実によりどりみどりだ。
連合軍側ではネルソン関連の本が目立つ。「ネルソンとナポレオン」(石原忠俊、本間徳次郎著)と並べているものもある。ウェリントンとメッテルニヒに関してはなぜかどちらも宮川春汀なる人物の挿絵つきで伝記が掲載されている。英雄個人に焦点を当てた本が多いあたり、昔から英雄史観が盛んだったことが分かる。
変り種としては「泰西十五大決戦史」という本が上げられるだろう。著者は孔理斉(クリーシー)で天野鎮三郎訳。原文はこちら"http://www.blackmask.com/books59c/tfdbt.pdf#search='valmy%20waterloo%20fifteen%20battles';"。マラトンからワーテルローに至る15の戦いを紹介しているのだが、ここで面白いのは当て字だろう。ヴァルミーは「伐尓美」、ワーテルローは「窩徳尓禄」。「平斯天」がヘースティングスなのだから恐れ入る。
もう一つ、面白いのは「同盟諸候〔ワートルロー〕野戦記」。著者名も翻訳者名も載っていないのだが、読むだけでかなり初期の文献であることは分かる。人名表記がどうもオランダ語っぽいのだ。明治時代の翻訳本が結局は英語から訳したものが多いのに対し、オランダ語といえば江戸時代までの嗜み。実に興味深い。
さらに、ナポレオニックとは無関係だが、八甲田山で遭難した青森第5連隊に関する本がいくつも掲載されていた。とりあえず見つけたものは以下の通り。
「遭難始末」歩兵第五聯隊
「雪中行軍記」斎藤武男編
「雪中行軍捜索隊」三沢好吉編
「雪中行軍遭難談」雨城隠士著
「雪中の行軍」福良竹亭編
「第五聯隊遭難始末記」北辰日報社編
「歩兵第五聯隊遭難始末並附録」歩兵第五聯隊
いつか時間があったら読みたいものだ。時間があるかどうかが問題だが。
コメント