カットとトレード

 ロースターカットは単に選手の数を枠内に収めるため解雇するだけではない。他チームで解雇された選手をウエーバーで手に入れたり、あるいはウエーバーにかからなかった選手をPSで手に入れたりと、各チームで様々な動きが生じる。もちろん、そうした動きの中にはトレードも含まれる。
 レギュラーシーズンが始まる直前は、ドラフト当日ほどではないにせよかなり多くのトレードが行われるのが通例だ。例えば昨年のケースだと8月から9月初頭にかけて19のトレードが行われた。その中には選手同士のトレードというNFLでは珍しい取引も3つ存在したし、Mackのケースのように1巡が対価となった大型トレードも存在した。
 もちろん今年もトレードは盛んだ。こちらを見ると8月中で既に昨年を上回る24件のトレードが成立している。昨年はMackを1巡と交換で放出するなどRaidersが選手を大量にパージして話題になったが、今年派手な動きを見せたのはTexans。トレードの件数だけならPatriotsの方が6件とTexans(5件)より多いが、内容は後者の方が凄い。
 5件のトレードでTexansが手に入れた選手はDuke Johnson、Barkevious Mingo、Jake Martin、Carlos Hyde、Keion Crossen、Laremy Tunsil、Kenny Stillsの計7人、放出した選手はJadeveon ClowneyとMartinas Rankin、Johnson Bademosi、Julie'n Davenportの計4人。ドラフト権は手に入れたのが2020年の3巡と4巡、21年の6巡で、放出したのが20年の1巡、4巡(3巡になる可能性あり)、6巡と21年の1巡、2巡だ。実に目まぐるしい。
 トレード件数だけなら多いPatriotsは内容はずっと地味で、手に入れた選手はEric Saubert、Korey Cunningham、Jermaine Eluemunor、Russell Bodineの4人で、放出した選手はDuke Dawson1人。ドラフト権は手に入れたのは2020年の6巡3つ、放出したのが20年の4巡、6巡、7巡2つだ。このうち7巡と交換だったSaubertは最初の53人枠に残っていない。ほとんどのトレードがロースター下位の調整に使われていることが分かる。
 どちらが賢明なのかは現時点では判断しがたいが、少なくとも今のところTexansの行動に対しては批判が多い。ClowneyをTunsil及びStillsと交換しただけならまだしも、実際にはドラフト3巡を手に入れる一方、1巡2つと2巡1つを失う形になっているところが問題視されている。一連のトレードはかなりのギャンブルと考えてもいいだろう。
 記事でも指摘されている通り、Texansのやり口はO'Brienが以前いたPatriotsの方法とはかなり異なっている。Patsは細かいトレードでもきちんと得失は考えて行っている。その一例が2018年の2巡指名だったDawsonをBroncosに送り出したトレードだ。Dawsonはキャンプ中からロースターカット候補と言われていたが、単純に彼をカットすると今年のデッドマネーは1.1ミリオン弱になるはずだったが、トレードによってこの金額は0.4ミリオン弱まで減る。2019シーズンの保証サラリー70万ドル弱をBroncosが負担してくれるからだ。加えて単なるカットなら得られなかったドラフト権が付いてくる。
 取引相手のBroncosにとっても悪いトレードではない。ただでさえ安いルーキーがさらに安い値段で手に入る(均等配分ボーナスはPatriotsの負担)うえに、いわゆるpick swap tradeになるため指名巡は下がるが指名数自体は減らない。そしてDawson自身にとってもチームにカットされ不安定な身分になる事態が避けられる。要するに三方よしな取引だ。
 PatriotsファンはDawsonのトレードそのものより、過去の2巡指名DBたちの惨状を話題にしている。終わったトレードにも、去っていった選手にも、もはや興味がないのだろう。一方、TexansファンはTunsilらを手に入れるために失ったドラフト権についてかなり不満を抱いている。どちらのトレードがより受け入れられるものであるかは明白だ。
 逆に言うとTexansの取引相手となったSeahawksにとっては極めていい取引だったことになる。Dolphinsもこれでタンクモード全開が決まりだろう。とばっちりを受けるのはRosenだが、そもそも最初に指名されたチームから1年で放り出された時点で彼のNFL人生はハードモード確定であり、いまさら条件が多少厳しくなったところで影響は限定的だろう。シーズンへの影響を見るのなら、Seahawksとの試合があるチームにとっては厳しく、逆にDolphinsと試合するチームは楽になりそう。

 ロースターカットは補償ドラフトにも影響を及ぼす。手に入れたFA選手をカットすれば、彼と相殺されていた補償ドラフト権が復活する可能性がある。逆にそのFA選手を送り出した側にとっては、補償ドラフト権が1つ姿を消すことを意味する。もちろん最終的に補償ドラフト対象が確定する第10週までそうした入れ替えは何度も起こり得るのだが、派手な変化が起きるのはこの時期だ。
 例えばOver The CapのCompensatory Draft Picks Cancellation Chartを見ると、Patriotsの補償ドラフト対象になる選手が5人記されている。確か当初ここに名前が並んでいたのは4人だったはずなので、つまり1人手に入れたFAをカットしたことになる。
 おそらく補償ドラフトを意識してFAを採用するチームが増えたせいだろう、現時点で補償ドラフト件の数はギリギリ32個分にまで落ち込んでいる。もしさらに対象FA選手が減るような事態になれば、次に待っているのは33番目に載っているBuccaneersの"net value"なる指名権だ。その説明はこちらに書かれているが、要するに対象選手と相殺選手の数は同じだが、対象選手の方が価値がかなり大きいチームに与えられる特別枠のようなものである。
 Buccaneersのチャートを見ると流出した選手4人はそれぞれ3巡、4巡、6巡、7巡相当であるのに対し、手に入れた4人は6巡2人と7巡2人にすぎず、人数的には釣り合っているがその価値まで見ると失った方が大きい。そのためBuccaneersはこの"net value"指名権を手に入れることが可能になる。ただしこの指名権は通常の補償ドラフト7巡指名の後にしか入らないため、もう1人分の補償ドラフト権がなくならなければ、Bucsが指名権を入手することは不可能なわけだ。
 この"net value"を入れてもなお補償ドラフト権があるべき数(32人)に届かない場合はどうなるのか。どうやら「もし8巡目のドラフトがあるとしたら、そのドラフト権を手に入れることができるチーム」にドラフト権が渡ることになるという。2020年の補償ドラフトについて言えば、今シーズンでドラフト全体1位を手に入れるチームがまず最初に対象となるのだろう。こちらの予想通りなら、まずDolphins、次にCardinalsといった順番だ。
 ただしこれらのチームが既に4つ以上の補償ドラフト権を手に入れていた場合、おそらく対象からは外されるであろう。今の例であればPatriotsやSeahawks、Vikingsなどは既に4人指名できる可能性が高く、彼らが"net value"後の指名権の対象になるケースは考えにくい。今のところDolphinsやCardsは補償ドラフトを手に入れる見通しではないため、そうした事態は発生しないだろう。
 いずれにせよそこまで話が面倒になることはあまりない。少なくとも2012年以降、あたかも「8巡以降」を想定したかのような補償ドラフトは発生していないという。珍しい現象が起こるのか、そこまで行かずに補償ドラフトが固まるのか。

 最後にPatriotsの53人枠を見ておこう。もちろんこの時点でのメンツはいくらでも入れ替わる可能性があるので、現時点であまり細かいところまで見ても仕方ない面はある。だが単純にメンバーの名前だけ見るのなら、去年あれほど人材不足が言われていたレシーバー陣が、今年はドラフト1巡の選手をIRに入れてもなお人材に余裕があるのが驚きだ。一方で人材が充実しているからと言って必ずしも優勝できる保証はない。これらの選手をどう組み合わせて総合的にどれだけの力につなげるか、シーズンが迫ってきた。
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