プレシーズン2019

 Luckの引退については既に触れているが、少し付け加えておきたい。彼のキャリアがあるべき水準に至ることなく終わったのは、Coltsの前GMがまともなOLをドラフトしようとしなかったためだ、という批判に対する見解だ。
 以前にも紹介した通り、実はサックはOLのスタッツというよりQBのスタッツである。もしLuckの怪我の原因がゲーム中におけるサックなどの接触によるものだとしたら、それは本当にOLの責任なのか、そうではなく実はLuck自身の責任も大きいのではないか、という疑問が生じる。少なくともGMに責任を覆いかぶせるのは、あまりに話を単純化していることは間違いない。
 むしろHCがPaganoだった時代のColtsはリーグでも最も怪我のリスクが高いチームだったこと、そしてColtsのホームスタジアムが同じリスクでリーグ3番目に位置していたことにも注目すべきだろう。少なくともGMのドラフト指名のみに責任を求める論調は、こうしたその他の要因を無視しているという点で、誠実な議論とは言い難い。
 それに何よりLuckが怪我する以前の2012-14シーズンのANY/A+は105と、彼のキャリアトータルと全く同じである。怪我する前のLuckは、怪我した後のLuckとあまり変わらなかったと考えれば、そもそも彼のキャリアが本当に「怪我のためにあるべき水準に到達しなかった」のかどうかを疑う必要がある。NFLにおける彼の実績全体が、彼の本来の実力をそのまま反映したものだと考える方が辻褄が合うのではないか。

 NFLではプレシーズンが終了。レギュラーシーズンを前に各チームがロースターを53人にまでカットしている。そちらについて話をする前にルーキーQBたちのHackenberg指数についてチェックしておこう。
 対象はドラフトで指名されたQB11人。データは指名順で、左から名前、ドロップバック数、ANY/A。

Murray 39 4.56
Jones 36 12.14
Haskins 63 5.02
Lock 57 3.26
Grier 68 3.49
Finley 68 6.06
Stidham 99 7.28
Stick 48 1.44
Thorson 65 2.00
Minshew 105 4.07
McSorley 91 5.68

 Hackenbergはルーキー年のプレシーズンでANY/Aが2ヤード以下にとどまった。今回のプレシーズンでこの残念な条件に当てはまるのはEaston StickとClayton Thorsonの2人だ。といってもこの2人はどちらも5巡指名選手であり、指名したQBが外れであっても仕方のない順位。2巡指名だったHackenbergに比べればがっかり度は比べ物にならないほど小さい。
 プレシーズンのリーグ全体のANY/Aは5.35とレギュラーシーズンと比べてかなり低い。控えだったりPSにしか残れないレベルのQBがかなりプレイするためにこのような数字になるのだろう。とはいえルーキーたちのうちこの水準を超えられたのは4人しかいないわけで、いかに控え以下のQBが多いとはいえ新人にとっては厳しい競争の舞台であることが分かる。
 問題は、このリーグ平均を下回っているQBたちの多くが比較的上位指名に集まっている点だ。6巡のGardner Minshewが低いのは別にいいとして、3巡指名のWill Grier、2巡指名のDrew Lock、そして1巡指名のDwayne HaskinsとKyler Murrayがこの水準というのは、チームにとっては必ずしも満足いく結果とは言えないだろう。全体1位指名のMurrayに関してはドロップバック数が39と少な目なため数字をあまり信用しない方がいいのは確かだが、それにしても褒められた数字とは言い難い。
 逆にぶっちぎりで高い数字を残しているのが全体6位指名のDaniel Jones。ドラフト時点ではreachという評価も多かったが、少なくともプレシーズン時点では(ドロップバック数が少ないという課題はあるにせよ)いい意味でその予想を裏切っている。もし彼が本番でも同様の活躍を見せられるなら、今年のQBドラフトでは個人的に最も驚きの大きな選手ということになるだろう。ことほど左様にドラフトで選手の将来を完全に予測するのは難しい。
 Jones以外だといい成績の選手はむしろ下位指名に集まっている。4巡のRyan FinleyはANY/Aが6ヤードに乗っているし、Jarrett Stidhamに至っては7ヤード超と一流QB並みの成績だ。しかも彼はドロップバック数が99とMinshewに次いで多い。最後に全体197位指名のTrace McSorleyも5.68と、QBとしては最後に指名された割にそれなりの数字を残している。

 とはいえしょせんプレシーズンはプレシーズン。本番と違ってディフェンスもしばしば格落ちの選手が出ているし、プレイ回数も少ないため極端な数字が出やすい。Hackenberg指数なるものも結局のところサンプル数1のデータから勝手にそう呼んでいるだけで、これが本当に当該選手の今後を占うものになるかどうかは不明だ。
 少なくともこちらのツイートで紹介されている記事は、プレシーズンにおけるQBの成績はあまり参考にならないことを示しているそうだ。こちらによるとプレシーズンの成績からレギュラーシーズンを予想する能力が最も低いのはオフェンスだとまずrushing、次がpassingとなっている。つまりプレシーズンのQB成績は本番の予想にあまり役立たないわけだ。
 最も役に立つのはpass blocking、次はおそらくrun blockingの間違いだろう。ディフェンスではまずpass rushが来て、次にrun defense、そして最後にcoverageとなっている。要するにOLやDLのデータは割と役立つが、オフェンス、ディフェンスのバックスのデータはあまり参考にならないのである。
 ドラフト下位指名で成績が悪いQBにとって、プレシーズンの数字は致命的になり得る。だが成績がよくても下位指名選手の場合はバックアップ生活への可能性が開けただけにとどまることも多いわけで、諸手を挙げて歓迎できる状況でもない。逆に上位指名選手であれば、1年目のプレシーズンの成績の善し悪しだけでいきなり将来が閉ざされることはほとんどない。Hackenbergですらもっと長い時間、チャンスをもらえたのである。
 さらにはそもそもプレシーズンゲーム自体、意味がなくなってきているのではという指摘もある。こちらの記事では、QBのスターターがプレシーズンでプレイする比率が最近になって急低下していることを指摘。スターターに練習させておきたい様々なシチュエーションを想定したプレイは、プレシーズンゲームではなく他チームとのジョイントプラクティスで行う方にシフトしているそうだ。
 Football Outsidersに載っている記事では、週ごとに怪我が発生する確率を基に「リーグが1シーズン18試合制にしたらどんな影響があるか」について分析している。確かに怪我の可能性は増すが、それが多くの選手の寿命を縮めるほどのインパクトはないそうだ。むしろ1試合当たりのサラリーが変わらないなら、選手にとってはプラスの方が大きいという。
 もしかしたら近い将来、プレシーズンゲームを減らし、代わりにレギュラーシーズンあるいはプレイオフの試合数を増やすという変更が行われるかもしれない。スタータークラスの選手にとってはそちらの方がメリットが大きいとも考えられる。逆にマイナスが大きいのはリーグの当落線上にいる選手や、控えで本番ではほとんど登場する機会がなさそうな選手たち。プレシーズンのおかげで10年以上にわたるキャリアを積み上げられているQBなどは、むしろ苦しい立場に追い込まれかねない。
 様々な分野でwinner take allと言われる現象が起きている。もしかしたらNFLでもその流れがさらに強まるのかもしれない。
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