ちなみにこのGWDには同点から突き放したものと、逆転したものの両方を含んでいる。逆転のみのデータ(comebacks)は
レギュラーシーズンがこちら、
プレイオフがこちらに載っている。GWDなら両方の合計はBradyが57回でトップ、Peyton Manningが56回の2位だが、comebacksはManningの45回に対してBradyが44回だ。
ツイートに載っている表では、GWDを先発試合数と比較し、それに占める割合を算出している。両方足し合わせた数字が高いのがStafford(22.9%)やWilson(21.6%)であり、回数自体が多いBradyは比率だと18.6%、Peyton Manningは19.2%と、いずれも目立って高いわけではない。単純にこの数字だけ見ると「BradyやManningはStaffordやWilsonに比べ、ゲーム最終局面の勝負強さでは劣っている」という風に見えるかもしれない。
もちろんその解釈は必ずしも正解とは言えない。BradyやManningの比率が低いのは、単に彼らが先発した試合の大半において最終Qに至る前にリードを奪っていたから。Manningだとプレイオフを含め60.3%のゲームは第3Q終了時でリードしていたことになるし、Bradyに至っては実に77.5%のゲームはそうした展開になっている。第4Qになって追いつかれたり逆転されたりしない限り、逃げ切れたゲームの比率がそれだけ高かったことになるわけだ。
それに対しStaffordは43.1%のゲームでしかリードして最終Qにたどり着けたことがない。そもそも逃げ切り可能な状況が少なく、最終Qまでもつれた結果が多かったことが、彼の高いGWD比率に現れていると考えるのがいいのだろう。例外的なのはWilsonで、彼は第3Q終了時でリードを奪っていた比率が60.8%とManning並みに高い。この成績を残しながらなぜ逃げ切ることができず、最後までもつれる展開が多くなってしまうのかは謎だ。
最終QなりOTの重要な局面での勝負強さを知りたければ、GWDの数字そのものではなく、また先発試合数に占めるGWDの比率でもなく、GWDが可能な局面で実際にどの程度勝利につなげることができたかを調べるべきだ。ただしこれを真面目に確認したければ各試合のplay-by-playを確認し、どの試合が実際にGWDが可能だったかを数え上げなければならない。正直言ってそれをやるのは面倒だし、また古い時代の試合になるとPro-Football-Referenceにもplay-by-playが載っていないものも多い。
そこで疑似的な「GDW局面での勝率」を出してみたいと思う。具体的には対象QBがプレイしている試合において、相手チームのQBがどの程度GDWを決めたかを調べる。対象QB自身のGWDと足し合わせれば、そのQBがGWD可能な局面にどのくらい遭遇していたかが大雑把に分かるだろう。相手チームがGWDを決めたということは、自分たちだってそれを決めることが可能だった場合が多いに違いない、という想定だ。
もちろんそうならないケースもある。
一例がこの試合。第4Qで同点になる場面があったが、その局面でドライブできたのはBradyだけ。Warnerはドライブする機会がないまま相手が勝つのを見学するしかできなかった。だからこの勝率はあくまで「疑似的」にならざるを得ない。
Bradyの疑似的勝率は以下のように調べた。まず彼自身のGWD数はレギュラーシーズンとプレイオフを合わせて57回であることは既に述べた。一方、2001-18シーズンにおいてPatriots相手にGWDを決めたQBは延べ26人いる。その中から、Bradyが先発になる前の2001シーズン初頭のゲーム、Bradyが負傷で出場できなかった2008シーズン大半のゲーム、そして彼が出場停止を受けていた2016シーズンの最初の4試合に当てはまるものを取り除く。具体的には2008シーズン第9週のColts戦、及び第11週のPackers戦が対象になる。これらを除くとBrady相手にGWDを決めたQBの数は延べ24人となる。
つまりBradyはGWD争いにおいて57勝24敗になるわけだ。勝率は0.704であり、この数字は30以上のGWDを記録しているQBたちの中では最も高く、もちろんStaffordより上だ。GWDが27回しかないWilsonの場合も、一方で彼はGWD争いにおいて延べ25人のQBに敗れており、勝率は0.519にとどまる。母数を先発試合数にした場合とはかなり異なる結果になっていることが分かる。
以下はGWDが30回以上のQBについて、GWD争いの勝数、敗数と勝率をまとめたものだ。手作業でデータを集めたので多少は数字がぶれる可能性があるが、大きなずれはないと思う。
Tom Brady 57 24 0.704
Jake Plummer 30 14 0.682
Johnny Unitas 40 21 0.656
John Elway 46 27 0.630
Peyton Manning 56 34 0.622
Carson Palmer 36 25 0.590
Dan Marino 51 36 0.586
Tony Romo 30 22 0.577
Joe Montana 33 25 0.569
Ben Roethlisberger 46 35 0.568
Matt Ryan 37 30 0.552
Matthew Stafford 33 27 0.550
Drew Brees 51 43 0.543
Fran Tarkenton 34 30 0.531
Eli Manning 42 39 0.519
Brett Favre 45 42 0.517
Warren Moon 37 36 0.507
Drew Bledsoe 31 34 0.477
Kerry Collins 30 33 0.476
Philip Rivers 31 37 0.456
Vinny Testaverde 33 44 0.429
Riversのような有能なQBが5割を切っている一方、トータルとしては微妙な成績のPlummerが非常に高い数値を残すなど、なかなか特徴的な数字が出ている。特にCardinals時代のPlummerの数値は異常で、トータルの勝ち星31のうち3分の2近くに当たる20勝はGWDで得たものである一方、53敗のうちGWDで奪われたのはたったの7回しかない。逆に言うと余裕で勝った試合は11回だったのに対し、もつれることなく一方的に負けたのが46回もあったことになる。そこそこの母数でもこういう極端な数字が出ることもある。
Riversが冴えない順位にいるのは、このデータがQBの能力を見るうえでふさわしいものでないことを示すもう1つの例だ。GWDが決まるかどうかは、実はQBだけにかかってくるものではない。もう1つ重要なファクター、つまりディフェンスの良しあしがモノを言うことを忘れてはいけないだろう。Breesの順位が低いのもそれが理由で、どれほど有能なQBが勝利のために投げまくっても、ディフェンスがそれ以上に投げられてしまえばGWDにはつながらない。逆にBradyの異様な高さはPatriotsのディフェンスによる貢献もあってこそだろう。
それでも全体として上位には勝負強さで知られるHOFクラスのQBたちが目立つ。逆に下位はジャーニーマンが中心。TestaverdeやCollinsの名前を見ると、ジャーニーマンであってもGWDの絶対数を増やすことは可能に見える。GWDの数字そのものでQBを評価するのは、やはり色々と問題があるように思う。
あと全体の数字は高いのになぜかGWDの低いAaron Rodgersについても一言。彼のGWDは先発174試合のうちたった22試合にすぎず、そしてGWD勝率は22勝28敗の0.440とかなり低い。Riversの場合はChargersディフェンスが足を引っ張っていたと考えられるが、Packersのようにそれほどディフェンスが弱かったわけでもないチームで、しかもRodgersという優れたパッサーがこのような数値しか残していないのは、かなり変な話だ。RodgersといえばHail Maryの印象が強いが、むしろ全体で見れば彼はゲーム終盤での勝負弱さが目立つQBなのかもしれない。
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コメント
ディフェンスの影響もそうですが、HCの能力の影響も大きいんだろうなと思いました。Plummerの件とかは、カージナルス時代のHCが終盤のタイムマネジメントが凄かった。とか?根拠のない思いつきですが(^^;
ふと思ったのですが、凡庸なQB(移籍後ボロボロなPippenとか)がスーパーボウルで勝つ、MVPに輝くことはあっても、凡庸なHCがスーパーで勝つことは無さそうなイメージです。
そういう面も明らかにするのが、分析の醍醐味なのでしょうねー(^-^)
2019/08/24 URL 編集
それにBroncosに移った後のPlummerの成績向上ぶりを見る限り、CardsのHCたちは彼の実力を引き出せていなかったと考える方が妥当でしょう。
たまたまPlummer時代のCardsは僅差の試合で幸運に恵まれることが多かったのだと、個人的には思います。
ちなみにSuper Bowlに勝ったHCの中にはBarry Switzerみたいな人もいます。彼は結局4年でHCをクビになりました。
他にもSuper Bowlチャンプになりながら4年でクビになったHCはいます。
凡庸なHCであっても、チーム力が充実し運が良ければ勝つケースがあるように思います。
2019/08/24 URL 編集
Plummerの件はやっぱり興味深いです。
弱小チームの場合、負けるときは大差、勝つときは僅差となりそうなのはわかりますが、僅差で競り合いの勝率が高いのはPlummerの勝負強さの特殊能力なのか!?などど思ってしまいます。
Broncos移籍後は普通に良い成績で、ポテンシャルは高かったのねにも納得です。
2019/08/25 URL 編集
Cards時代の彼は、ゲーム開始時点ではコーチに合わせてプレイしていたのでしょう。ですがゲーム終盤に入り、このままのプレイコールでは負けると判断した時点で、コーチより自分の能力を発揮できるようなプレイを優先して実行するようにして、結果最後に勝利にたどりつくことが何度もあった、という理屈です。
あくまで思い付きなので本当かどうかは調べなければ分かりません。別にそんな理由ではなく、単にCards時代の彼はものすごく幸運だっただけ、とも考えられます。
2019/08/25 URL 編集
それで勝利を得てたから、自分の主導権を繰り返せてたとすると頷けるものがあります。
Plummerはもしかしたら、もっと評価されるべき選手だったのかもしれませんね。(^-^)
もちろん運が良かっただけの可能性もありますが(^-^;
2019/08/25 URL 編集
一方、第4Q以降で点差が-7から+7の時、彼のANY/Aは6.17まで上がっています。
本当に「ゲーム終盤の競り合った時」は有能なQBだった、のかもしれません。
2019/08/26 URL 編集