このデータは、サックやQBへのプレッシャーが誰の責任であるかを考えるうえで重要な意味を持つ。一般的にはサックをQBの責任というよりOLの問題と見る向きが多いのだが、アナリティクス系のサイトでは以前からこの点には疑問が呈されていた。老舗のFootball Outsidersにも、
FO Basics というページで「ランは人々が思っているよりOLに左右されるが、パスプロテクションは人々が思っているよりQB自身に左右されている」と書かれているほどだ。
もちろんOLが重要でないという主張しているわけではない。
以前にも紹介した ように、OLによるパスブロックはディフェンスのパスラッシュより重要である。だがサックやプレッシャーといったスタッツは、OLの質よりもQBのプレイスタイルによって決まる部分が大きいのだ。
QBのプレイスタイルのうち何がそんなに影響するのか。ポケット内にいる時間だ。各チームのn年とn+1年のポケット内時間との相関係数は+0.57になる。個別のQB単位で見るとこの数値は+0.79とさらに大きくアップする。そして、この「ボールを持ってポケットにとどまる時間」は、QBがプレッシャーやサックを受ける度合いとの間にかなり強い相関を持っている。データからそれが裏付けられる。
QBがボールを持つ時間については
Next Gen Stats に載っているQBごとのTT(Time to Throw)を使い、QBへのプレッシャーはFootball Outsidersが毎年まとめているQuarterback and Pressureのデータを使う。TTのデータが取れるのは2016シーズンからの3シーズン分。プレッシャーについても
2016シーズン 、
17シーズン 、
18シーズン それぞれのデータが取れる。
これらの数字を使って調べると2015シーズンのTTとプレッシャー率との相関係数は+0.520、2016シーズンは+0.629、そして2018シーズンは+0.631となっている。アメフト関連の数字としては決して悪くない水準だ。年によっては強い相関に近い数字が出ているわけで、確かにこれを見ると「プレッシャーはQBのスタッツ」という主張にも一理ある。
それに対し、OLのパスブロックデータとプレッシャーのデータとの相関は実は決して高くない。Next Gen Statsのデータを使ってESPNが算出している
2018シーズンのPBWR(Pass Block Win Rate) とプレッシャー率との相関は、実は-0.167しかない。一応、PBWRが高いOLの方がプレッシャーを受ける率が低めに出るという傾向はあるが、その度合いは弱い相関にすら達していない水準であり、TTとの相関度の高さに比べると明確に違いが出ている。
QBへのプレッシャーが多い場合、それはしばしばOLの問題だとされる。例えば
こちらの記事 では、2018シーズンにプレッシャー率41.1%とリーグで最も高かったWatsonについて「Texansの危険なOL」とそちらに問題があるかのように書いている。あるいは
Billsがこのオフに複数のOLをFAとして採用した のも、Allenのプレッシャー率が39.3%と高かったからだろう。
だがPBWRで見ると、TexansのOLは16位とリーグ平均であって、決してそれほど悪いわけではない。Billsに至ってはOLのランキングは7位とむしろリーグ上位だ。WatsonやAllenのプレッシャーが多いのは、前者のTTが3.01秒、後者が3.22秒と、どちらもボールを長く持ちすぎる傾向があったからだ。OLが頑張ってパスラッシュを必要な時間(2.5秒)防いでも、QBがいつまでも投げなければ、そりゃいずれはプレッシャーがかかる。
ただし、プレッシャーやサックが多いQBが悪いQBとは限らない。WilsonなどはTTが長く、プレッシャーの比率が高いQBであるが、同時に優秀なQBであることは誰も否定しないだろう。プレッシャーを受けるとQBの成績が急低下するという傾向は確かに存在するのだが、それでもトータルではむしるリーグ上位の成績を収めるQBはいる。
それに、OLよりQBとの相関が高いことは確かだが、QBのTTだけでプレッシャー率が100%説明できるわけではない。他にも影響を及ぼす要素があることは間違いなく、そしてそうした要素の中にコーチングスタッフによるプレイコールが含まれていることも確かだろう。
それを示す分かりやすい例がGoffの成績だ。彼のTTを見ると2016シーズンには2.54秒とそれほど長くなかったのが、17シーズンには2.93秒へと大幅に伸び、18シーズンも2.94秒と高い水準を維持している。ルーキー年を除くと彼がボール離れの遅いQBであることは間違いない。だがプレッシャー率を見ると真逆の傾向が登場する。2016シーズンに40.4%とリーグ最多のプレッシャーを受けていた彼は、翌シーズンには30.7%にプレッシャー率が急低下し、18シーズンには25.5%とさらに数字が低くなっている。
もちろんこの変化をもたらしたのはMcVayだ。彼がRamsのプレイコールを大幅に改善し、Goffがパスを投げるまでの時間を増やす一方でプレッシャーを減らすというリーグ全体の傾向と矛盾する(しかしQBにとってはメリットのある)オフェンスを展開できるようになったのである。その原動力となったのは間違いなくプレイアクション。2016シーズンにRamsが行ったプレイアクションはパス全体の16%(リーグ26位)にすぎなかったが、この数字はMcVayが来た17シーズンには29%(2位)に、次の18シーズンには36%(1位)にまで跳ね上がっている(
こちら など参照)。
足元ではプレイアクションを上手く使いこなすことがパス攻撃の向上にかなり貢献している傾向がある。それを示す具体例がこのGoffのプレッシャー率とTTの変化だろう。QBのプレイスタイルと同様、コーチのプレイデザインやプレイコールもサックやプレッシャーにとっては重要なのではなかろうか。
ちなみに
「Rodgersは本当に今もエリートQBなのか」 という記事では、Goffと逆に成績低下の一因としてPackersのプレイアクションを取り上げている。確かにデータを見ると、2015シーズン以降のRodgersのプレイアクション成績はリーグでも下位にいるのは事実のようだ。
だがFootball Outsidersが
2011年からまとめているプレイアクションの成績 を見ると、プレイアクション時のPackersのDVOAは、+63.4%、+30.5%、+21.6%(Rodgersの先発は9試合)、+60.0%と、2014シーズンまではリーグ平均を上回っている。少なくともその時まではRodgersのパスも、あるいはMcCarthyのプレイコールも、プレイアクションのパス成績を悪化させるようなものではなかったはずなのだ。
上の記事ではMcCarthyの創造性に欠けるプレイデザインが原因ではないかと推測しているが、それが事実ならMcCarthyは2014年までできていた創造性に富んだプレイデザインが15年から急にできなくなったことになる。だが実際には
McCarthyは2015年からプレイコールの権限を一時的にOCに譲っている わけで、本当にMcCarthyのプレイコールが成績低下の原因かというと怪しい。
それよりは単にRodgersが「プレイアクションを含めたプレイ全般で成績を落とした」と解釈する方が妥当なように見える。実際、パス全体における彼のDVOAは2014シーズンの+32.2%が翌年には-1.0%に急落しており、PackersのプレイアクションDVOAの急落(+60.0%から-15.1%)と傾向は同じである。Rodgersがエリートの位置から転げ落ちた原因がMcCarthyによるプレイアクションのデザインに由来すると主張するのは、少し無理があるように思われる。
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コメント
なるほど!(^^)/ と納得です。
一般的にパスラッシュの効果はパスプロテクトに劣るのかもですが
①フォーメンラッシュだと毎回プレッシャーが掛かるとは限らない
②ラッシュ対策として決め打ちパスやクイックリリースの選択権はオフェンスにある
という理由があるとすると、スーパーでは
対①常に5人以上のラッシュで圧力を掛ける
対②McVayオフェンスはリリースが遅い前提と見切る
ことで、対Rams専用に効果的だったのかもしれないな。などと思いました。
面白いです!(^^)/
2019/08/20 URL 編集
一方GoffのTTは3.16秒とシーズン中よりもさらに長くなっており、彼がなかなかボールを投げられなかったことも分かります。
パスラッシュを増やしたのは確かにプレッシャー狙いだったのでしょうが、McVayがたとえプレイアクションを減らしても、DBのカバーによってリリースを遅くさせられる自信があったからこそのブリッツ戦法だったのかもしれません。
2019/08/20 URL 編集