プレシーズンに関しては去年
Hackenberg指数というものを紹介した。プレシーズンでドラフト上位指名のルーキーQBが残したら拙い水準の成績のことだが、とりあえずANY/Aで2ヤード未満は好ましくないというもの。もちろんこのデータを気にするにはせめてHackenbergの1年目くらいのドロップバック数(48)くらいは必要であり、今年のルーキーでそこまで行っているQBはいないのだが、それでもデータを見ておくのは構わないだろう。左から名前、ANY/A、そしてカッコ内がドロップバック数だ。
Kyler Murray 4.88 (8)
Daniel Jones 17.4 (5)
Dwayne Haskins 0.19 (16)
Drew Lock 3.52 (44)
Will Grier 2.65 (17)
Ryan Finley 4.32 (19)
Jarrett Stidham 7.96 (25)
今のところHackenberg指数を下回っているのはHaskinsのみで、さすが
ハイリスクハイリターンが予想された選手だけのことはある。といっても母数が小さいのでまだそんなに心配する必要はないだろう。逆にJonesの数字は突出して凄いが、こちらはもっと母数が小さく信頼度はさらに低い。相対的に母数の大きな選手たちの間ではStidhamが一番よさそうだが、でもやはりもっと見る必要があるのは確かだろう。
Hackenbergとは逆にプレシーズンでいい成績を残すとどうなるのか。それを調べたのが
FiveThirtyEightに載っているこちらの記事だ。レギュラーシーズンではキャリアを通じて1000回未満のパス試投しかしていない選手たちのプレシーズンの成績を調べ、優れた成績順に並べている。
その中でトップになったSage Rosenfelsには直接話を聞いたようで、先発に定着できないジャーニーマンの考えが分かるというなかなかに興味深い記事だ。2001年にドラフト4巡でRedskinsに指名された彼は、その後Dolphins、Texans、Vikings、Giants、Dolphins(2度目)、Vikings(2度目)とチームを渡り歩き、2012年のシーズン前のロースターカットでクビになったのを最後にプロ生活を終えた。何のかんの言いながら10年以上にわたってNFLの仕事をこなしてきたことになる。
Rosenfels自身は自分のプレシーズンの成績がそんなに良かったことは知らなかったそうだし、そもそも気にも留めていなかったようだ。だがプレシーズンゲームが自分の仕事にとって重要な意味を持っていることは理解していた。「プレシーズンがチャンスを得る助けになったのは100%事実だ」「先発の機会を得たのも、その多くはプレシーズンの活動のおかげだ」と彼は語る。特にTexansでは彼は2シーズンで10回の先発を行っており、それが彼のキャリアのハイライトとなってもいる。
プレシーズンはNFLの全32チームに送付する履歴書のようなもの、とRosenfelsは考えているそうだ。プレシーズンの試合は全チームに見られている。もちろんQBだけでなくQBに襲い掛かろうとするディフェンスの選手たちも同じで、いわば大半がNFLのオーディション会場に立っているような立場なのだろう。そこで実績を積めば、どこかのチームの目に留まる。そうすればどこかで契約にありつき、ロースターに残り、時には公式試合にも出られる。夢追い人たちの戦場がプレシーズン、というわけだ。中でも「練習よりゲームの方が得意」なRosenfelsのような選手にとってはプレシーズンは重要だったようだ。
実際この「履歴書」の効果はかなりのもの。プレシーズン成績上位のQBたちを並べてみると、ドラフト下位指名あるいはドラフト外にもかかわらず、そして先発の機会をなかなか与えられなかったにもかかわらず、長期にわたってプロとしてリーグにとどまった選手たちがその多くを占めている。例えば2位に顔を出しているLuke McCownは2004年のドラフト4巡だが、2016シーズンまではどこかのチームでロースターに残っており、2017年のシーズン直前にCowboysから解雇されるまではプロであり続けた。
2000年のUDFAだったBilly VolekはTitansとChargersの2チームで2012年の春まで生き残った。2009年のUDFAであるChase Danielは延べ6チーム目となるBearsで11年目の今もロースターにとどまっている。2006年の6巡指名Bruce Gradkowskiは2016年10月にSteelersから解雇されるまでプロ生活を続けた。1995年のUDFAであるKelly Holcombもいくつものチームを渡り歩き、2008年2月にVikingsを解雇されるまではサバイブした。
ただしランキング上位にはドラフトでそれなりの位置で指名されながら期待外れになってしまった選手もいる。Todd Collinsは1995年にドラフト2巡でBillsに指名されたが大成せず、その後はジャーニーマンと化した選手だ。それでも2010シーズンのプレイオフまで彼は何らかの形でリーグには残っている。ドラフト時の期待には添えなかったが、プレシーズンの好成績が彼をリーグにつなぎとめたのだろう。
期待外れ組でも代表的なのは、2013年のドラフト1巡で唯一指名されたQBであるEJ Manuelだろう。彼はBillsで4年間を過ごしたが期待に応えることはできず、次のチームであるRaidersでも1年間はロースターに残ったが2018年のシーズン前にはカットされた。2019年春にはChiefsと契約したものの、すぐに引退を表明している。2007年ドラフト1巡でBrownsが指名したBrady Quinnも期待外れ組の1人で、こちらは2014年のシーズン前にDolphinsから解雇され、2015年にはベテランコンバインに参加したが契約は勝ち取れなかった。さすがに1巡バストはいくらプレシーズンの成績が良くても落胆の方が大きいのか、リーグに10年残れなかった。
それほど上位指名でない選手の中にも、比較的短いキャリアだった選手はいる。2007年のドラフト3巡指名だったTrent Edwardsはシーズン中まで契約が続いたのは2012年まで、オフシーズンの契約なら2014年まで生き延びたが、それがNFLでのキャリアの最後となっている。レギュラーシーズンでの試投数が多かったために、プレシーズンの活躍よりそちらの方が評価対象になってしまった可能性はある。
ランキング上位の中で最も例外的な選手はJimmy Garoppoloだ。プレシーズンよりもレギュラーシーズンのレーティングの方が高い彼は、他のチームに指名されていればとっくに1000試投以上を記録してこのランキングから外れていただろう。彼にとって不運なことに2014年の2巡で彼を指名したのはPatriots。Bradyがいる限り先発の機会がない彼は2017シーズンに49ersに移ってようやく先発の機会にありついたのだが、怪我などもあっていまだに1000試投に達していない。
だがそうした例外を除けば、ランキングの多くはドラフト下位あるいはドラフト外でプロに入り、バックアップとして長くキャリアを続けた選手たちだ。2010年のドラフト6巡指名で今もなおTexansに所属しているJoe Webb、2005年に5巡で指名されて2017年までリーグにとどまっていたDan Orlovsky、2001年に同じく5巡指名を受け、2011年まで生き残ったA.J. Feeley、2008年の5巡指名で、
対抗リーグも含めて延べ16チーム目となるLionsと最近契約したJosh Johnson、1993年のUDFAで2006年まで生き残ったShane Matthewsなど、事例には事欠かない。
足元ではRyan Griffinが彼らの中に名を連ねる可能性を残している。2013年のUDFAである彼はSaintsからBuccaneersへと移り、今年の春に2年の契約延長を勝ち取っている。プレシーズンのレーティングがそれほど高いわけではないところが心配ではあるが、そこで踏ん張ればバックアップの仕事に継続してありつく機会はあるだろうし、先発の怪我でプレイする機会だっていつか訪れる、かもしれない。
個々の選手の話も面白いが、このランキングで興味深いのは大半の選手がレギュラーシーズンよりプレシーズンでいいレーティングを残していることだ(例外はGaroppolo、Orlovskyの2人だけ)。プレシーズンはオフェンスもディフェンスも2戦級の選手が主力を占めるが、格落ちな味方しかいなくても格落ちなディフェンスを相手にする方が成績は上がりやすいのだろう。以前紹介した
「若手QBの成績は大学時代の数字が上限になる」とも通底する話だ。
プレシーズンからレギュラーシーズンのチーム成績を予想するのは難しい。だが個々の選手の上限を見定めるうえでは、プレシーズンも役に立つのだろう。Hackenberg指数もそういう性格のものと言えるし、どのバックアップQBが長いキャリアを維持できるかもこのあたりからある程度は予測できる。プレシーズンのゲームを見るときは、チームではなく選手に注目すべきなんだろう。
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コメント
名前を聞いた覚えのないQBが、控えとして10年以上もNFLで飯を食ってたりとか驚きです。
スターターQBという最もきらびやかな表層の下には、深海魚みたいな別の生態系があるように感じました。
1巡バストQBは控えとして生き残りにくい。については、控えQBに求められるとして聞くところの
①若手QBのメンター役(かつ、でしゃばらずチームの和を乱さない)
②移籍先のプレイブックへの即応性、理解力、サイドラインでの分析役
③自分向けでない先発QB用のプレイ対応、練習での相手役など、苦手プレイが少ない
という面で、エリート意識が強く一芸で成績を上げたQBは、控えには向かない、お呼びがかからないんだろうなー。と思ったりしました。
QB以外のポジションは、スターターと控えの能力はコンパチブルな印象ですが、QBだけは異なるイメージを持ちます。
2019/08/25 URL 編集
https://www.foxsports.com/nfl/stats?season=2019&week=300&category=passing&sort=5
彼は「控え10年超選手」の有力候補と見ていいんでしょう。
上位指名QBは控えQBとしては使いにくい、という面は確かにあるかもしれません。あるいは本人は何でもやるつもりなのに、チーム側が配慮することもあるかもしれません。
チームも本人も気にしていないけど、ファンが騒ぐのでやはり使いづらいという可能性も考えられます。一時期のTebow、あるいは最近のKaepernickなどは、たとえ控えとしての力があっても、とても雇いたい選手ではない、と判断されたのでしょう。
QBはそれだけ目立つポジションです。単純にローテーションで回すといったことが難しく、それだけ先発と控えの役割が大きく違ってくるのも仕方ないのかもしれません。
2019/08/25 URL 編集