NFLでは全チームが今週からプレシーズンに入った。もちろんこの時期にはスタータークラスよりロースター生き残りをかけた選手たちの活動が中心。BrownsのDuke Johnsonのように
このタイミングでトレードされる選手もいる。そうした細かい動向が積み重なり、シーズンが迫ってくる雰囲気が盛り上がっていくわけだ。
Bradyの契約にいろいろとテクニカルな手法が使われていることは説明したが、現時点でチームにとって最大の狙いは要するに2019シーズンのキャップヒットを減らすことだ。既に述べた通り、彼のキャップヒットは今回の契約見直しに伴って5.5ミリオン減少し、27ミリオンから21.5ミリオンに低下すると言われている。
いやそれどころか、BradyのキャップヒットとPatriotsの成績はある程度、連動しているという主張すらある。
前に紹介したリニューアル後のWarren Sharpのblogに載っている
こちらの記事がそれだ。そもそもは
Sharp自身のツイートが元ネタなのだが、Patriotsが優勝したのはBradyのキャップヒットがQBの中でトップ10に入らなかった年であり、またSuper Bowlに出られたのはトップ5に入っていなかった年なのである。
2001年当時は2年目の控えQBだったためキャップヒットは極めて少なく、2003年も18位、04年は11位だった。10年ぶりに優勝した2014年も11位で、16年は18位、18年は11位とやはりいずれもトップ10に入っていない年である。Super Bowlに到達したが負けた年を見ると、2007年は10位、11年は7位、そして17年は19位。彼のキャップヒットがリーグ11位以下だったにもかかわらずSuper Bowlにたどり着けなかった年は2002年、12年、15年の3回しかない。
この事実は、QBのキャップヒットが大きい場合は絶対に優勝できない、ということを意味しているわけではない。例えばPeyton ManningがBroncosで優勝した時の彼のキャップヒットはリーグ6位だった。だがそうした高額QBが優勝しにくい傾向があるという指摘は以前から何度も紹介しているし、その傾向はBradyという選手に限って見てもやはり存在していることが分かる。プレイオフ出場だけならともかく、優勝という条件で見た場合にはQBのコストは無視しがたい。
ではどうすればいいのだろうか。BradyのサラリーこそがMVPだと書いている記事では、Giseleの話を紹介している。Bradyは自分の契約交渉に際しては彼女のサラリー情報も伝えられていると冗談交じりに答えたそうだが、実は他のプレイヤーも彼女の存在を意識しているという。Prescottは「Tom Bradyが家族の大黒柱でないことは大きな問題だ」と言っているそうだし、その彼はいずれ年30ミリオンレベルのサラリーをもらうだろうと予想されている。つまりBradyより高給取りになる可能性が高い。
Brady自身は「人生で勝つことを最優先にしてきた」「競争優位という視点で見て、(サラリーキャップ下では)多くのいいプレイヤーを周囲に揃えたい」と話しているという。ただ、彼の妻がスーパーモデルでなかった場合、Bradyがチームに要求するサラリーがどうなっていたかには興味が湧くところだ。
ここに1つのヒントがある。さすがに既婚者の場合は無理だが、独身の将来有望なQBを抱えているチームは、今すぐ高給取りの女性を探し出して彼とお見合いさせるべきである。
……というのはもちろん冗談だが、実はそれよりもっと単純にBradyの真似をする方法がある。
Sharpのツイートの続きを見てもらいたい。Bradyが副業として
TB12なるフィットネスビジネスを始める前後で、彼のキャップヒット順位が変化していることが分かる。そしてこのTB12の顧客の中にはPatriotsもおり、選手がこのフィットネスを利用する際にその対価を支払っているという。
Bradyと組んでこのビジネスをやっている人物の胡散臭さもあり、
この話は2015年当時に少し話題になった。要するにこれはサラリーキャップ制度を迂回したBradyへのサラリー支払いではないか、というわけだ。だがこの記事によると、NFLもNFLPAもこの副業は労使協定に違反していないと判断していたそうだ。確かにこれはBradyのフィールド内のプレイに対する対価ではなく、フィールド外での事業に対する支払いであり、正面切って否定するのは難しいだろう。
逆に言うなら、他の高額QBたちも同じことをしたって問題ないわけだ。たとえば現在リーグ最高給の年35ミリオンをもらっているWilsonも、サイドビジネスを始めてチームからそちらへ支払ってもらうようにすればいい。もちろんWilson自身が事業の細かい運営に携わる必要は全くない。あくまで出資者なり協力者なりのポジションにとどまり、フィットネスサービスを提供するのは別の人間が行えばいいのだ。私が米国でフィットネス事業を手掛けているのなら、この話をSeahawksに持ちかけ、Wilsonを協力者としたサービスをチームに提供する。そちらへの支払い額が決まったところで、チームはWilsonと契約を見直し、キャップヒットを減らせばいい。Wilson自身のトータル収入は減らないし、チームにとっては他の選手に回せる金が増える。ブランド名はRW3でどうだろうか。
現実問題として、こうした取り組みがリーグ全体で広く行われるようになれば、さすがに問題視する向きが増えることだろう。それを避けるためには、次の労使協定改定できっちり対策を打つ必要が出てくる。最も単純な方法は選手の副業禁止だが、これをやると例えばコマーシャルへの出演などまで禁止されかねないため、リーグにとってむしろマイナスになりかねない。チームから選手の副業への支払い禁止という方法で網を掛ける手もあるが、利益の機会を逃さずに富を積み上げてきたやり手のビジネスパーソンぞろいのオーナーたちに、そのような条件を課すことができるかどうかは不明。つまり、対策といっても話は簡単ではない。
だからそうした動きに期待するより、さっさとBradyの真似をする方がいい。今のところこうしたサイドビジネスを上手く活用しているのはBradyだけであり、彼以外にそのメリットを受けている者はいない。copycat leagueと言われるくらいなのだから、こういうところももっと真似し、競争を増やして彼とPatriotsが得ている比較優位を少しでも削るようにすべきだろう。いやまあQBがサイドビジネスで儲けつつ、でもサラリーも減らす気はないという態度に出てくると、この策は通用しなくなるんだが。
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コメント
あと、これ、QBに限らず(効率を考えればQBが一番なのでしょうが)、そのチームの高額プレイヤー全般に使える方法のように思えます。
さらにいえば、サラリーキャップのある他のスポーツリーグでも効果がありそうな気もしますが、実際どうなんでしょ。
2019/08/10 URL 編集
もう一つ、これが使えるのはNFLでもスター選手のみってことです。さらに言えば1日12杯から25杯の水を飲むBradyのように特殊な食生活までしているような選手でないと、説得力のあるブランドにならないところが難しいですね。
当たり前の食事、当たり前のトレーニングしかしていない選手の場合、他のフィットネスサービスと変わらないじゃないかというツッコミが待ち構えているわけで、それをブランドと称して売ろうとするのはかなりの勇気がいることでしょう。TB12はそのあたりも絶妙です。
2019/08/10 URL 編集