ルートラン分析

 ホールドアウトしていたSaintsのMichael Thomasがチームと契約延長で合意したそうだ。当初の報道(こちらこちら)によれば5年100ミリオンで、QB以外のオフェンス選手では初の年平均20ミリオンという報道があったが、実際はちょっと違ったらしい。
 詳細はこちらの記事にあるのだが、Thomasの契約の実態は5年96.25ミリオン、年平均19.25ミリオンになるそうだ。WRとしてはOBJの年平均18ミリオンを上回るが、サラリーキャップのインフレ分を反映した順位を考えるならA.J. Greenを少し下回る水準にとどまる。もし平均20ミリオンに達していれば、インフレ反映分を含めてJerry Rice、Randy Moss、Calvin Johnson、Larry Fitzgeraldに次ぐ水準になっていたところだが。
 報道によると彼が5年100ミリオンに到達するにはいくつかのインセンティブを達成しなければならないという。具体的には2022シーズンと23シーズンにそれぞれ12TD、1400ヤード、100レシーブ以上を記録し、かつプレイオフに到達する必要がある。困ったことに彼は3年のキャリアで100レシーブ以上は2回達成しているが、1400ヤードは1回だけ、12TDは1度もない(最多で9TD)。おまけにこれらの数値はBreesがいるおかげで達成できている面がある。2022-23シーズンのBreesは43~44歳だ。
 思ったほど高額になりそうもないためか、Saintsが交渉を引きずることなくさっさと契約延長に踏み切ったのも納得がいくといった意見が存在する。実際、こちらを見る限り2022シーズン以降の契約には保証分はなく、キャップヒットが20ミリオン前後になる時期には比較的カットもしやすい契約となっている。確かにルーキー契約時に比べれば高いのだが、過去のWRのサラリーを大幅に塗り替えるほどのものではないということだろう。

 有能なWRはRBなどに比べれば高額の支払いが正当化できる選手だ。ある意味、それを裏付けるのがPro Football Focusに掲載されたこちらの記事である。レシーバーのルートランについてヒートマップを作成し、それを分析したものだ。読めば分かるのだが、なかなかに興味深い。
 筆者が分析しているのは2015-18シーズンの4年分のデータ。各シーズンごとにどのルートが4年間の平均より多く使われているか、それとも少なく使われているかについてヒートマップ化して表示している。多いルートは青、少ないルートは赤に塗り分けられているのだが、見ての通り年ごとに傾向の変化が窺える。
 2015シーズンに広く使われていたのはディープのアウトサイドゾーンへのパスであり、またスクリメージから5ヤードまでのショートゾーンへのパスだった。だがこれらのエリアへのパスは年を追って少なくなり、逆に増えてくるのがディープのミドルと、そしてスクリメージより手前側への(おそらくはRBを主なターゲットとした)パスだ。あくまでこの4年間の比較にすぎないが、リーグが全体としてどのゾーンを狙っているかの傾向に変化が見られるのは興味深い。
 次に取り上げているのがTyreek Hillの3年にわたるルートランのヒートマップ。ルーキーだった2016シーズンはディープはほとんどアウトサイドのみで、あとはスクリメージ手前のエリア(jet motionなどが使われていたのだろう)が中心だったが、2年目以降はディープのミドルでも使われるようになってきたのが分かる。また単なるルートランだけでなくターゲットとなった度合いを見ると、QBが変わった3年目になって急速にディープでの使用が増えていることも分かる。SmithからMahomesへの交替が大きく影響した様子が窺える。
 さらにこの記事では、ルートランのデータを使ってexpected targetsという数字を出している。リーグ全体の平均に比べ、どのエリアでターゲットになる度合いが多いか少ないかをやはりヒートマップ化したもので、Hillの場合は年ごとにディープでの使用に重点が移っていることが分かる。やはりQBの交替が大きいのだろう。足元ではHillがスクリメージより手前にいる場合、むしろデコイである可能性が高いとすらいえるほどだ。
 レシーバーについてexpected targetsの数字が出せるということは、QBに対しても同様の数字を算出できることを意味する。この記事ではaDoT(おそらくaverage depth of targets)という数字を出しており、その期待値と実際の数字についてグラフを掲載している(こちらは2014-18シーズンの5年分)。基本的に期待値と実際の数字はある程度相関しているが、そうでないQBもいる。またどのチームのQBがよりディープに投げやすいプレイコールをしているかといったことも分かる。
 右上にいるPalmerなどはディープに投げやすいプレイコールに合わせ、実際にディープに投げているQBである。もう1人、Taylorも妙にディープを攻めるプレイコールが多い。もちろんゲームの展開もあるので単純に比較はできないが、彼らのコーチ陣はかなりアグレッシブだった可能性がある。逆に低いのはSmithであり、Manningだ。きわめて保守的なプレイコールの下でQBを務めてきていたと言える。
 近似線との位置関係を見れば各QBがどれだけアグレッシブか、逆にどれだけ保守的かといった傾向も分かる。BradyやRiversあたりは近似線の付近におり、コーチの意図に合わせてパスを投げていると解釈できる。Breesはコーチの意図よりは保守的なパスが多く、同じことはStaffordやFlaccoにも言える。彼らよりさらにdink and dunkなのがSmithやBradfordだ。逆にアグレッシブすぎるのは上の方に飛び出しているWinstonであり、あるいはNewtonやFitzpatrick、Roethlisbergerあたりもそうだ。
 記事中ではStaffordの保守性について説明をしている。彼らはTateがチームに残っていた時期まではショートパスを上手く使っていたのだが、彼がいなくなった後のパス成績はかなり大きく落ち込んだという。今シーズンはHockensonの指名などもあり、チームとしてはもっとStaffordにディープへ投げ込んでもらいたいと思っている可能性があるそうだが、もしStaffordがAmendolaに頼りすぎるとまたもは保守的すぎるパスオフェンスになりかねないそうだ。
 ルートから想定できるexpected targetsと実際にターゲットになった比率の差からは、QBに頼られる優秀なWRの存在が浮かび上がる。データで上位に顔を出しているのはJulio Jonesであり、OBJであり、Mike EvansやAJ Green、Antonio Brownといった評判の高いWRたちの名が挙がっている。彼らのうちJones、Evans、Brownはいずれもポストルートが最もいい成績を出しているそうで、ディープのミドルを攻撃するのはパスオフェンスとしては効率がいいのかもしれない。まあ実際には彼らはそれ以外のルートでもいい成績を残しており、要するに「優秀なWRはどのルートでも優秀」という平凡な結果になるようだが。
 そして一番最後のグラフだが、人によってはこれをかなり重要視している。アウトサイドのレシーバー、スロットレシーバー、及びRBのレシーブについて、それぞれ優秀な選手(平均より1標準偏差上)、平均的選手、平均以下の選手たちがどのくらいのEPA(expected points added)を出すかについて調べたものだ。見ての通り、アウトサイドレシーバーの場合、いい選手と悪い選手の間には15EPAもの差が存在する。だがスロットレシーバーになるとこの数字は12EPAまで低下し、RBの場合はたった3EPAしかない。ディープのパスほど優秀なレシーバーを使う意味は大きく、逆に短いパスはどの選手を使ってもあまり差がないことが分かる。
 こちらのツイートにある通り、RBをターゲットにするのは他のレシーバーに比べて効果に乏しく、またそのRBは交代可能の度合いが大きい。この事実は、特に現時点ではElliottの高額サラリーに対する批判の材料となる。ランプレイがパスより効率が悪いことは知られているが、加えてRBへのパスも効率が悪く、かつどの選手でもあまり変わらないとなれば、RBへの高額投資は無駄に終わる可能性がそれだけ高まる。
 単に記録上のポジションがRBにすぎず、実際はルートランの成績がいい選手であれば、話は違ってくるだろう。だがElliottはそういうタイプのRBではない。Elliottのサラリーを巡っては、しばらくはこうした議論の的になりそうに思われる。

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