主観的QB評価

 以前こちらでちょっと紹介したWarren Sharpのブログが大幅リニューアルしていた。本人以外のエントリーも多数掲載されており、いきなりNFLのアナリティクス関連ニュースサイトみたいになっている。ここまで手間を掛けているってことは、おそらくこれが金になるという見通しがあるのだろう。将来的にはESPNあたりに買われるもかもしれない。
 もちろん基本は数字に関連した記事が多い。Sharp自身の書いたもので言えば、例えば「なぜPhilip RiversはショートヤードでFD更新を図ろうとしないのか?」などがそうだ。Bradyの得意技であるQBスニークはショートヤードでは極めて効果的な戦術であり、Riversももっとやるべきである、という内容の記事だ。
 よりSharpらしい記事といえばこちらだろう。プレイアクションが効果的であることはよく知られているが、ではどの状況でプレイアクションをするのがいいのかについて、personnelやQBの位置ごとにまとめた記事である。面白いことにWRの数が少ないpersonnelの場合、プレイアクションは必ずしも合理的とは言えないことが分かる。
 具体的に言うと最もプレイアクションが効くのは11 personnel、つまりRB1人、TE1人のケースだ。特に11でQBがアンダーセンターにセットしている場合、プレイアクションを活用するとそうでない場合より大幅にパスの成績が高まる。Ramsはまさにこれを活用して強力オフェンスを展開した。一方ショットガンだと向上効果は限定的だが、それでもプラスにはなる。
 しかし12(RBが1人、TE2人)になるとアンダーセンターでは却ってプレイアクションした方がsuccess rateが低下する。逆にショットガンの方がプレイアクションが効果的なようだ。そして21の場合、アンダーセンターでもショットガンでもプレイアクションをした方がsuccess rateは低下。WRが2人しかいない場合、プレイアクションでMLBを引きつけてもその裏を突くのが難しい、といった理由があるのかもしれない。
 ではもっとレシーバーを増やす10(RB1人、TEは0人)はどうか。こちらは逆にサックが増えてしまい、success rateもYPAも大幅に低下してしまうそうだ。プレイアクションは投げるまでにどうしても時間がかかるため、ブロッカーが少ない場合はリスクの方がリターンよりも大きくなるのだろう。やはり11くらいが最もバランスのいい使い方になると考えられる。

 という具合にデータに基づく分析を主眼にしたサイトになっているのだが、中にはそうでないものもある。特に興味深いのが、若手QBについて分析しているページだ。筆者は(おそらく)以前にも紹介した「パントをしない」ハイスクールのフットボールコーチらしく、だからアナリティクス的な視点を持っている人物であることはおそらく間違いない。でも一連の記事を読むと分かる通り、分析の内容は数字よりも筆者の主観が中心である。そして結構、辛口だ。
 例えば2年目のQBたちについてまとめたページ。JetsのDarnoldに対してのっけから「チームとファンは彼こそが求めていた人物だと考えているが、このかわいそうな人物はとても歯が立たない状況に置かれていると思う」とかましてくる。ダウンフィールドを見続けることもできないし、十分に正確でもない。必要な10分の1秒を稼ぐことができていない、と実に手厳しい。
 ただしこれはDarnoldだけの責任ではないそうだ。少なくとも昨シーズンはプレイコールにも問題があったし、USC時代に得られていたようなチャンスもなかった。一方で彼のフットワークやメカニクスにも課題が残っているそうで、それが改善されなければ「Darnoldはチームを決してSuper Bowlに連れて行けないし、Jetsは今年プレイオフにも出られないだろう」。そして最後には「Jetsは未だにQBを必要としている」と述べ、Darnoldが期待されているようなthe guyではないとまで言っている。
 BillsのAllenについても評価は低い。QBの成績予測に役立つプレッシャーを受けていない時の成績が悪く、右側に逃げた時はパスを通すことができないそうだ。左に逃げた場合は効果的にランを出せるそうだが、QBにそれを期待するのが正しいかというと疑問。「私がBillsファンならBuffaloがArizonaの真似をして損失をカットし、出来るだけ早く新しいQBを手に入れてほしい」と、これまた手厳しい評価だ。Rosenについても同じで、「プレイ中における彼の癖はあまりに酷いもので、それを直すのは難しい仕事になる」そうだ。ただしこちらはすぐに先発しない可能性もあるため、前の2人のように「次のQBを探せ」とまでは言われてない。
 プレイオフに到達したJacksonだが、「パスが彼の得意分野でないことは明白」だそうだ。著者は今シーズンのRavensがプレイオフに出られないと予想しており、その論拠の多くがJacksonのスキルセット及び判断力に由来しているという。結局、この筆者が2年目QBでそれなりに高い評価をしているのはMayfieldのみ。といっても彼は安定性には欠けるQBであり、「極めて良いことも極めて悪いこともある」。だから彼が今年はプレイオフに到達し、来年にはプレイオフで勝利する可能性はあるそうだ。
 今年のルーキーに対する評価も興味深い。まずMurrayに対しては「かなり上手くやるだろう」と褒めたかと思うと、その直後に「Rosen、Darnold、Allenよりは上にランクされる」と褒めているのか貶しているのかよく分からないことを書いている。もう一つ、著者が指摘しているのはHCであるKingsburyの重要さだ。彼が上手くオフェンスを構築できればMurrayも活躍し、チームが昨シーズンの倍の勝ち星(8勝)を得ることも可能だと述べている。コーチングスタッフを重視しているのは、この手の予想の中では割と珍しい。
 Haskinsの評価は明らかにMurrayより低い。「彼には疑問符が付く」と述べ、「すぐスターターにはならないのが彼にとってベストだろう」というのが著者の考え。大学時代の彼は優れたタレントを持つチームメイトに頼ってプレイしていたのだが、同じことはRedskinsでは期待できない。キャリアの最初の時点でいいQBになるのは困難だから、まずはサイドラインにとどまってゲームを見て学ぶことを優先すべきだそうだ。
 Jonesも評価は厳しい。パス成功率の低さは周囲のタレント不足だけではなく「キャッチできないパスの数が極めて多い」ためだ。確かに一方にEliを並べるとJonesに期待するのも分からなくはないが「隣の芝生は常に青いとは限らない」。彼が成功するにはサイドラインかにとどまり、山ほどのパスを毎週投げて正確さを増し、システムを学ぶ必要がある。そしてGiants自体も、大学でのJonesの成功要因を調べ、自らのエゴを捨ててそのシステムを自分たちのオフェンスに取り入れるべきだという。
 最後に3年目のQBに関する評価だが、もちろんこれも辛口。Watsonに対してはダウンフィールドではなくDLを見ていると指摘し、また彼のパスのタイミングが良くないのは彼のプレスナップリードをコーチが信用していないためではないかと疑っている。彼はプレッシャーを受ける比率が高く、その傾向が変わらないのであれば「未来のQBではなくIRのQBになる」。もし問題の改善が見られなければプレイオフも難しいという見解だ。
 Mahomesへの評価はもちろん高いのだが、それは同時にコーチへの評価の高さになっている。「問題はコーチングだし、プレイコールだ」「彼は優れたプレイコールから利益を受けている」といった表現がその一例。もしMahomesが成長し、プレイコールが今の水準を維持するのなら、彼はあらゆる種類の得点を積み上げていくだろうという指摘は、この筆者にしては珍しいレベルだ。もちろんプレイオフでPatriotsが見せたように彼のプレイも止められることはあるが、それでも彼は「Super Bowlまでもう1年」のところにいるそうだ。
 それに比べTrubiskyへの評価は低い。彼がチームをSuper Bowlまで率いるようなQBになることはないと筆者は考えているそうで、もし彼がBillsやJetsでプレイしていればQBRはリーグ30位くらいだっただろうと書いている。ただBearsのコーチングスタッフはより優れているため、コンスタントにプレイオフに出るくらいは可能だそうだ。

 以上、この著者の特徴はQBの能力を個別に論じるのではなく、彼を取り囲むチームメイトたち、そして何よりコーチの能力を取り込んだ評価をしているところにある。この点はQB評価に対してもっと考慮に入れるべきだと個人的にも考えている。Goffの成績はMcVayの役割を無視して語ることはできないし、SmithやVickを手堅い先発QBに変えたReidの能力は彼らの数字に大きな影響を及ぼしている。Casselで11勝も稼いだBelichickも、もちろんそうしたHCたちの1人だ。QBの評価をするうえでは、コーチの役割をきちんと踏まえて考えるべきだと思う。
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コメント

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そう言えばですが、Chip Kellyはサイバネティクス活用の第一人者と見なされてたかとおもうのですが、NFL初年度を除き惨澹たる結果に思いますが、その辺、こちらのハイスクールのHCも同じ雰囲気を感じますが、どうなんでしょう?

desaixjp
SABRmetricsのことでしょうか。確かにNFL入りした頃に、彼がリーグにMoneyball Revolutionをもたらすとの報道があったようです。
http://www.thepostgame.com/blog/men-action/201211/how-oregon-coach-chip-kelly-can-spark-moneyball-revolution-nfl
ただし下の記事を読むとKelly自身はその話をはっきり否定していたそうです。
https://www.phillymag.com/birds247/2013/03/22/chip-kelly-and-the-moneyball-theory/

なお今回の記事を書いているコーチはKellyと名前は似ていますが、なにせ高校のコーチなのでNFL入りすることはほとんどあり得ないでしょう。彼がKellyと同じように失敗するかどうかを確認する機会は、おそらく訪れないと思います。
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