QBキャップヒット問題 下

 前回紹介した「QBの高額契約は他のポジションに影響を及ぼさない」説の続き。論拠となった一連のツイートでは、QBの関与しない分野におけるEPAやPFFのグレードとQBのキャップヒット%との間に相関のないものが多いという指摘をしていた。だがそこで使われているEPAやPFFグレードが、どのゲームを対象としているのかがよく分からない。
 PFFのチームグレードのページを見る限り、こちらのデータはレギュラーシーズンにプレイオフも加えて算出しているように見える(Ramsの試合数など参照)。EPAの方はnflscrapRから取ってきているそうだが、残念ながらレギュラーシーズンのみなのか、プレイオフを含めているのかは分からない。
 ただし、どちらのケースにしてもレギュラーシーズンの方が試合数が多く、分析結果にも大きな影響を与えていることは間違いないだろう。QBの高額契約が他のポジションにほとんど影響を及ぼさないという結論は、主にレギュラーシーズンの結果からもたらされたものである可能性が高い。しかしながらプレイオフに限ると、QBの高額契約がもっと深刻なマイナス影響を及ぼす可能性が出てくるのではないか、というのが前回示した疑問だった。

 今回はその疑問がどこまで当てはまるのかを調べてみる。まずは過去のQBのキャップヒットがどうなっているかを調査するところからだが、これが意外に遡るのが難しい。Over The CapにはPositional Spendingというページがあるのだが、遡れるのが2013シーズンまでにとどまっているうえに、ポジション別の金額は載っているがチームのキャップ総額が載っていない。QBのキャップヒットが総額の何%を占めているのか、調べることができないのだ。
 一方、SpotracにあるPositional SpendingのページにはQBのキャップヒットに加えてチームのキャップ総額も書かれている。だがこちらのデータは2015シーズンまでしか遡れない。一方、チーム別のページを見るとその中にもPositional Spendingの項目がある。そしてこちらは2013シーズンまで遡ることができる。結局このチームページのデータを使うのが最もよさそうだと判断。今回の調査では2013シーズンのプレイオフ以降についてデータを集めることにした。
 一方、チームのパフォーマンスについての調査は連ツイートでも使われていたEPAを使用する。ただしnflscrapRのデータではなくFootball Perspectiveのゲームサイトに掲載されているExpected Points Summaryを使う。例えば今年のSuper Bowlのページを見ると、出場したOfficialsの下にEPAの数字が細かく分けて載っている。
 見ての通りPatriotsのオフェンスはトータルで2.46点、ディフェンスは12.15点のEPAを叩きだしている。一方STではリターンが冴えなかった影響でEPAはマイナス4.67にとどまったが、それでも合計ではRamsを10点上回ることができた。この試合の勝敗に最大の貢献をしたのがPatriotsのディフェンスだったことが分かる。
 実際にQBキャップヒット%との相関を調べる際にはこれらの数字をプレイ回数で割る。今年のSuper BowlならPatriotsのプレイ回数はパスが36回、ランが32回となり、オフェンス全体では1プレイ当たり+0.036とほんの僅かなEPAしか稼げなかったことが分かる。一方Ramsのオフェンスはパス42回、ラン18回で、Patriotsディフェンスは1プレイ当たり+0.20のEPAを稼いだことになる。
 こうした記録を2013-18シーズンのプレイオフゲーム全てについて集め、各シーズンのチームごとにまとめる。延べ72チーム、66試合分の記録が集まる格好だ。レギュラーシーズンを対象にした場合(延べ192チーム、1536試合)に比べれば全然少ないデータだが、それでも集めてみるとなかなか興味深い結果が出てきた。

 まずQBのキャップヒット%とオフェンスの1プレイ当たりEPAの相関係数は+0.115とかなり低い数字になった。ツイートの方ではこの数値が+0.34になっていたのと比べると、かなり相関度が下がっていることが分かる。つまりQBのキャップヒットは、主にレギュラーシーズンにおいてはオフェンス成績と割と相関しているのに対し、プレイオフに入るとその相関が弱まることが分かる。
 同じ傾向はオフェンスの1ドロップバック当たりのEPAでも見られ、こちらの相関係数は+0.172になった。ツイートの方ではPFFのパスグレードとQBのキャップヒット%の相関が+0.41に達していたのに比べ、やはり低くなっている。レギュラーシーズンにおいては高額QBがオフェンスを牽引する傾向が見られるのに対し、プレイオフに入ると彼らが必ずしも活躍しない場面が増える、と考えられる。
 むしろプレイオフにおいてQBキャップヒット%との相関度が高いのは、実はオフェンスの1ラン当たりEPAとの相関だ。その数値は-0.243と弱い逆相関になっている。つまりQBのキャップヒットが大きなチームほどランオフェンスが冴えない傾向が存在し、その傾向はパスオフェンスがよくなるよりも明確に存在することになる。
QBキャップヒットとEPA/run
 ディフェンスはどうか。ツイートの方ではディフェンスの1プレイ当たりEPAと1ドロップバック当たりEPAについてそれぞれQBキャップヒット%との相関を調べていた。その数値は前者が-0.01、後者が-0.03と、どちらもほぼ無相関になっている。QBのキャップヒットは、レギュラーシーズン中心に見ればディフェンスにほとんど影響を及ぼしていないように見える。
 だがプレイオフになると数字が変わる。具体的にはディフェンスの1プレイ当たりEPAとの相関は-0.093に、1パス当たりEPAとの相関は-0.119だ。どちらも弱い逆相関の水準にすら及ばないのは確かだが、少なくともツイートで見られる数字よりは絶対値が大きい。つまりディフェンスにおいても、レギュラーシーズンよりプレイオフにおいてQBのキャップヒットが大きい方がマイナスに傾く度合いが強まっていると解釈できる。
 もうお分かりだろう。QBのキャップヒットの大きさはレギュラーシーズンではパスオフェンスやオフェンストータルにプラスの影響をもたらす一方、ランオフェンスやディフェンスにはほとんど影響をもたらさない。だがプレイオフになるとパスオフェンスやオフェンス全体にもたらすプラス効果が薄れる一方、ランオフェンスやディフェンスに与えるマイナス効果がよりはっきりと見えてくるのだ。つまり、QBが多額のサラリーを奪い取る影響は、チーム力に差があるレギュラーシーズンの間は見えにくいものの、差が縮まるプレイオフにおいてはよりはっきり表れてくると考えられる。
 QBが試合に及ぼす影響は大きく、だから弱い相手ならQBで優位に立つだけで試合にも比較的容易に勝てる。だが戦力が均衡している相手との試合ではQBの差だけで勝つことは難しくなる。結果として他のポジションの能力が試合結果に及ぼす影響が増え、その際にはQBに多額のサラリーをつぎ込んでいるチームが不利になる局面が増える。そんなメカニズムが働いているのかもしれない。

 もちろんこの調査には穴がある。そもそも対象チームの母数が少ないし、また対象チームは多くても3試合、少なければ1試合分のEPAだけで評価されている。それだけ偶然の要素が大きく影響しているわけで、例えば調査対象期間をもっと長く取れば数字が大きく変化する可能性がある。
 それでも6年分のデータがあること、そのデータを見る限り、プレイオフはレギュラーシーズンよりもQBのキャップヒットがマイナスに働いていると解釈できることは、おそらく無視できないだろう。以前にも述べた通り、有能なQBを持つことがプレイオフへの最も近道である一方、プレイオフを勝ち上がるにはQB以外のポジションの強化が必要になる。そして後者のためにはQB以外のポジション用にサラリーキャップをできるだけ余らせておく方がやはり有利なのだ。
 つまり優勝したければ「安くて有能なQB」を確保し、そのうえで他のポジションのパフォーマンスをできるだけ高める必要がある。そのための手っ取り早い方法がルーキー契約QBなのだが、残念ながらこちらには当たり外れが存在する。となるとやはりBradyのように有能かつ安価なQBを手に入れるのが最も確実な方法となる。だがBradyのような選手はそんなに大勢存在しない。困った困った。
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