RBのホールドアウト

 気が付くとNFLのキャンプシーズンに入った。同時にサラリーに不満を抱いている選手たちによるホールドアウトの季節も到来した。既にChargersのMelvin GordonとCowboysのEzekiel Elliottという2人のRBがホールドアウトの可能性に触れている。
 当然ながらOver The Capでも彼らの契約について言及している。まず今年が5年目オプションとなっているGordonについて。彼の今シーズンのキャップヒットは5.6ミリオンで、スタッツを見ると過去3年間はyards from scrimmageで1400~1500ヤード前後を達成している。Elliottに比べればいささか水準の下がる成績と言わざるを得ないだろう。
 彼に関するJason Fitzgeraldのエントリーを見ると、現時点でリーグトップクラスのサラリーをもらっているGurley(年平均14.4ミリオン)やBell(13.1ミリオン)などのレベルまで手に入れるのは難しいという予想をしている。上手くいけばChargersとの間で年10ミリオン前後の契約を結ぶか、そうでなければFAになる翌シーズンに備えて第1週からプレイするのではないか、というのが彼の見立てだ。
 ではElliottはどうか。こちらも既に5年目オプションをチームが採用しているが、彼の契約自体はまだ4年目である。ちなみに今のまま行けば今シーズンのキャップヒットは7.9ミリオン、来シーズンは9.1ミリオンとなる見通し。ドラフト順位も全体15位のGordonより高い全体4位だ。
 FitzgeraldはElliottに関するエントリーの中で、RBというポジションはトップのサラリーをもらっている選手が5番手や10番手、32番手の選手と比べてかなり割高になっていることを指摘。QBがルーキー契約の間はそうした高額RBを抱える余地もあるが、CowboysにおいてはPrescottもまた新契約を結ばなければならない時期になっており、そうした贅沢をする余地がなくなりつつあると指摘している。
 結局Cowboysの選択肢は2つのみ。今の契約を続けて5年目オプションが終わった後はフランチャイズタグを貼るか、今すぐに長期契約に変えるかだ。後者についてFitzgeraldは4年60ミリオン程度の契約案を出しているが、それが最適の契約だとは全く認めていない。最適なのはとにかく今の契約を続けて、後はタグを貼るかチームを去るのを黙って見送ること。しかし「Dallasにとっておそらく現実は違う」ため、Cowboysが何らかの長期契約を結ぶ可能性はあると見ている。

 実のところFitzgeraldの解説はまだ「RBに対して優しい」内容だと言える。もっと手厳しいのはFiveThirtyEightに載っている記事だ。見出しの時点で明確にElliottは「欲しがっている金にふさわしくない」選手だと断言している。
 そもそもランはパスに比べて重要度が低いことは何度も指摘されているが、あらゆる局面においてそうだと言うわけではない。実はいくつかのシチュエーションにおいてランが重要になる場面がある。この記事ではそうした場面に注目し、Elliottがその局面において果たしてどの程度の実績を示してきたかを分析している。
 まずはリードした状態でゲームを終わらせるというシチュエーションだ。第4Qにリードした場面におけるwin probability addedを調べたところ、1回のラン当たりのWPAが最も高かったのはRoyce Freemanだった。昨年のドラフト3巡でBroncosに指名されたRBで、2年目となる今年の時点でもキャップヒットは1ミリオンに到達しない選手である。一方、ElliottのWPAは22位。Frank Goreのような超ベテラン、Alvin Kamaraのようにランよりもレシーブが目立つ選手、あるいは高額RBの先達であるGurleyなど、いずれもElliottよりはるか上位にいる。
 次はレッドゾーンにおけるショートヤードのランだ。レッドゾーンで残りヤードが3ヤード以下のケースについてexpected points addedを見ると、こちらのトップはGordonであり、2番手はBengalsのベテランでキャップヒットは4ミリオン台のGiovani Bernardだ。Elliottは16位にとどまっており、2017年にドラフト7巡で指名されたChris Carsonよりも低い位置にとどまっている。
 最後にレッドゾーン以外でもショートヤードにおけるプレイでランは効果が期待できる。同じく3ヤード以下を対象にEPAを見ると、こちらのトップはColtsが2018年にドラフト5巡で指名したJordan Wilkinsとなり、またBellの不在をしっかり穴埋めしたSteelersのConnerも上位に顔を出している。Elliottの順位は、上の2種類よりは高いものの、全体10位と突出して素晴らしいわけではない。
 そして、上記の局面を除くと、それはむしろランをしない方がいいシチュエーションになる。ショートヤードではなく、ゲームも終盤に入っていない局面では、最終的に勝ったチームは負けたチームよりパスを投げる度合いが高い。そしてElliottのランのうち65%ほど、つまり3分の2ほどはそうした「そもそもランを使わない方がいい場面」で使われたものなのだ。
 この記事の著者であるHermsmeyerは、RBとの高額契約がプレイコールに「考え得る最悪の形でのインパクトを及ぼす」と指摘する。Elliottに対する過剰な支払いを正当化するため、チームがよりランを多くコールし、パスを減らすのではないか、というわけだ。だがCowboysというチームは昔から自前選手に高額のサラリーを出し、しかも彼らを手放すのも他チームより1年遅いと言われている。Fitzgeraldも言っていたが、彼らが自らに呪いをかける可能性は高そうである。

 他にRBに対する厳しい指摘の例となるのはこちらの記事。元プロ選手たちがElliottの重要性を訴えていることに対し、一つ一つ反論するという何ともnerdらしい文章だが、内容を見ると元プロ選手たちがcherry pickingな議論しかしていないのに対し、記事を書いたnerdの方がより包括的な指摘をしているのが分かる。
 まずElliottによってディフェンスがboxに引き付けられ、それによってプレイアクションの効果が増しているという議論。Next Gen StatsによればElliottが8-man boxと相対した比率は24.67%で、2018シーズンのリーグでは全体19位とそれほど多くはなかった。またPrescottがシングルハイのディフェンス相手にパスを投げた比率はリーグでも真ん中付近であり、Elliottが2人のSのうち1人をboxに高い比率で引き寄せていることを示す具体的な証拠はないことになる。
 次にElliottがレシーバーとして貢献しているという話だが、実のところElliottのレシーブのEPAについてターゲットになった回数で割った数字はRBの中でリーグ30位とかなり低い。チーム別の数値はこちらのツイートに載っているが、Cowboysは全体13位とこれまたそれほど高くない。
 もちろん数字のよかったプレイもある。具体的にはスクリーンパスで、平均EPAはリーグでも9位と上位に顔を出したそうだ。残念ながら2018シーズンにElliottがレシーブしたスクリーンパスは全部でたったの25回。1試合当たり2回もないプレイのために高額契約を結ぶのが正しいかどうか、少し考えれば分かるだろう。
 Elliottはゲームで使用される頻度が高いため、合計数字で見ると高いスタッツを出しているように見えるRBだ。だが個別の切り口で見た場合に特段優れたプレイがあるわけではなく、むしろ局面によってはリーグでも冴えない数字しか残していない。そしてより根本的な問題として、そもそもランの重要性はかなり低いことが分かってしまっている。
 NFLのアナリティクスで分かったことをまとめて読めるのがこちらだ。見ての通り、1ページ目から「パスのEPAはランEPAよりでかく、その差は広がっている」だの、「ラン回数とプレイアクションの効果には何の関連もない」だのといったデータが次々と出てきている。
 以前にも指摘したが、「Adrian Peterson以来の大物」RBを求めるのはもはやノスタルジーにすぎない。もしくはたまたまルーキー契約のQBを抱えているチームだけに許された贅沢、というべきだろうか。個人的にはFitzgeraldの言う「タグを貼る」ことすら無駄で、むしろ契約が残っているうちにできるだけ高くトレードで売り払うのが最良の選択に思えてならない。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント