パスラッシュよりカバレッジが大切という話がある一方、シングルハイのSを残すくらいならcover-0でブリッツをかけた方が効果が大きいという説もあることを
紹介した 。それぞれどう評価すればいいのか難しいところだが、少しはヒントになりそうな話もある。
最初に出てくる表を見てほしいのだが、Playsはディフェンス側がパスに対処したスナップ数であり、Pressure Rateはそのうちディフェンスがプレッシャーをかけることのできた割合を示す。ここで言うプレッシャーとはサック、hurries、及びスクランブルを強いた数となっており、一方でスナップミスやカバレッジサック/スクランブルは対象外などとなっている。
見ての通り最もPressure Rateが高かったのはリーグ最高額DLを抱えるRamsであり、その後にSteelersやBears、Jaguarsなどが続く。必ずしもサックの多いチームが上位に来ているわけではない(Ramsはサック数だけだとリーグ15位)が、全体的にディフェンスの強いチームが上位に顔を出している印象はある。
DVOA w/ Pressureはプレッシャーがかかった時のオフェンス側のDVOA、DVOA no Pressureはプレッシャーがかかっていない時のDVOAである。DVOAは数字が小さいほど優れたディフェンスを意味するので、マイナスの数字がでかいチームほどいいディフェンスを展開していたことになる。見ての通りプレッシャーがある時とない時では極端に数字が違い、プレッシャーをかけることがオフェンスをどれだけ悪化させるかが明確に分かる。
もう一つ、このデータに付け加えたいのが
2018シーズンの各チームのポジション別サラリー である。ディフェンスに関してはDL、LB、S、CBという分け方になっている。このデータを上の数字と組み合わせれば、ポジションごとのサラリーとQBに対するプレッシャーとの相関を見ることが可能になるわけだ。そしてその結果はなかなかに興味深い。
まずDLのサラリーとプレッシャー関連のデータとの相関、なのだが調べてみるとあまり相関が見当たらない。まずプレッシャーレートとの相関は+0.083しかない状態。一応プラスの相関なのでDLにサラリーを投じているチームの方がプレッシャーをかける度合いが高い傾向はあるのだが、いかんせんその度合いはあまりにも限定的。ほぼ無相関と言っていい。
DLサラリーとプレッシャー時のDVOAとの相関も同様に-0.048と極めてゼロに近い。DVOAはマイナスが大きい方がディフェンスが強いことを意味するので、こちらもまたDLのサラリーが多いほどディフェンスが強いことを意味しているとは言えるのだが、やはり基本はほぼ無相関だ。
DLサラリーがプレッシャー絡みで多少なりとも相関があると言えるのは、プレッシャーがない時のDVOAとの関係だ。その数値は+0.210。かろうじて弱い相関ではあるが、それでも他のデータよりは高い。つまりDLにサラリーを投じるほど、プレッシャーをかけられない時のディフェンスが悪化する、という傾向が存在しているわけだ。そしてパスディフェンス全体に占める割合を見ると、プレッシャーがかからない時の方が多い。DLへサラリーを投じることは、もしかしたらパスディフェンス全体にとってはマイナスの影響の方が大きいのかもしれない。
ただし、ここで言うDLとは昔からのDT及びDEを合わせたデータだ。つまりこのDLサラリーの中にはEdgeに分類される選手たちのうち3-4OLBが含まれていないわけだ。実際にパスラッシュを担当するポジションという意味ではLBの数字も見なければならない。
そのLBとプレッシャーレートとの相関は+0.205、そしてプレッシャーがかかっている時のDVOAとの相関は-0.481となる。前者は弱い相関、後者はそこそこの相関だ。これを見ると、LBまで計算に入れればパスラッシャーにサラリーを投入するメリットはそれなりに存在すると主張することもできそうに見える。
問題は、Edgeの中でも高額サラリーをもらっている面々の数を見る限り、OLBよりDEの方が多いという事実である。2018シーズンのキャップヒットを見るとOLBで10ミリオン以上に達しているのは8人にとどまっているのに対し、DEは12人と1.5倍も多い。またDLの中にはパスラッシュの役割が増えているDTも含まれているのに対し、LBの中にはブリッツの時以外はパスラッシュにかかわることの少ないTraditional LBが入っている。OLBを考慮に入れてもなお、DLサラリーとプレッシャー関連のデータとの相関の低さは、やはり気になるところなのだ。
逆に、OLBを含めるとしても高いLBとプレッシャーとの相関は興味深い。もしかしたらこれは、DLよりもLBによるブリッツの方が実際のプレッシャーを生み出し、あるいはプレッシャーによってパスオフェンスを劣化させる効果が大きいことを示す、と解釈することもできそうだからである。前に紹介した「Zero Blitzを増やせ」説の論拠にもなるかもしれない。
そう思わせるもう1つのデータがSのサラリーとプレッシャーがらみの相関係数だ。少なくともプレッシャーレートとSサラリーとの相関は+0.139と、DLサラリーとの相関よりも高い。もちろん弱いと呼ばれるレベルにも届かない数字であり、実のところ誤差の範囲にすぎないとも考えられるのだが、それでも高額Sの存在がQBへのプレッシャーに影響を及ぼしている可能性がある点は面白い。PatriotsのSたちがQBへのプレッシャーを多く与えていたことなど、この分析を支持する個別のデータもある。ただしSのサラリーとプレッシャー時のDVOAとの相関は+0.026とほぼ無関係であることも事実。
残るポジションであるCBのサラリーはプレッシャーレートとはほとんど関係を持っていない(-0.006)。ただしプレッシャー時のDVOAとの相関になると-0.337とLBについで高い数字を出している。プレッシャーをかけている時のディフェンス全体のパフォーマンスを上げるためには、実はカバレッジの存在も重要である、ということを意味しているのかもしれない。
LB、S、CBそれぞれのサラリーとプレッシャーがかかっていない時のDVOAとの相関は、いずれも水準が低い(それぞれ-0.058、-0.125、-0.015)。DLにサラリーを投じすぎるとプレッシャーがかからない時のディフェンスが悪化するという弱い相関はあるが、では代わりにDBにサラリーを投じればディフェンスは向上するのかというと、それほどの向上度合いは期待できないわけだ。DLサラリーの方が相関係数の絶対値は大きい。
この点はポジション別ではなくディフェンス全体のサラリー額との相関を見ても同じだ。プレッシャーレートとの相関が+0.255と弱い相関、プレッシャーがかかった時のDVOAとの相関が-0.532とそれなりの相関を持っているのに対し、プレッシャーがかからない場合は+0.088でディフェンスに投じたサラリー額はほとんど効果をもたらしていない。元々ディフェンスは受動的なプレイを強いられ、
オフェンス次第で成績が大きく変わる傾向 を持っている。ディフェンス全体のサラリーがディフェンス成績との相関に乏しいのも、そうした面があるのかもしれない。
Interior DLやEdgeによるパスラッシュと、それ以外の選手のブリッツとで、QBプレッシャーに与える効果がどの程度のものであるかについては、できればもっと知りたいところ。チーム全体ではパスラッシュよりカバレッジの方がディフェンスにとって重要かもしれないが、個々のポジションごとのパスラッシュ及びカバレッジの効果まで分かれば、チームがディフェンスのどのポジションにいくらのサラリーを投じるべきかといった問題についてもヒントが得られるかもしれない。
もちろんそのためにはどうデータを取るかという課題が常につきまとう。例えばPFFのカバレッジについて
こういう声 が出てくるなど、主観に頼ったグレーディングにはどうしても信頼に疑問符が残るし、それはFootball Outsidersがまとめているデータでも同じだ。
そういう時こそ
Next Gen Stats の出番なのだが、こちらは
パスラッシュについてはデータをまとめる動きがある ものの、カバレッジについてはそこまで踏み込んだ話を見かけたことがない。レシーバーにはAverage Separationというデータがあるものの、これは実際にパスを投げられたときのデータのみをまとめたものだ。まだまだディフェンス絡みのデータは発展途上、ということだろうか。
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