パスカバー重要論

 大本営に2020年の補償ドラフト権予想記事が載った"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001030378/article/"。ほんの数年前までサラリーキャップマニア以外は見向きもしなかった話がここまで大きくなるのだから、何とも感慨深いものがある。

 パスラッシュよりパスカバーの方が大切だという論調を最も強く主張しているPro Football Focusが、その論拠についてまとめた記事をアップしていた"https://www.profootballfocus.com/news/pro-pff-data-study-coverage-vs-pass-rush"。具体的にはexpected points added(EPA)を使っている。
 PFFのパスカバーグレード(チーム単位)とパスプレイで許したEPAとの相関はおよそ-0.69、R自乗だと0.48であり、それに対してパスラッシュとEPAとの相関はおよそ-0.23(R自乗は0.05)となる。EPAではなくプレイの成功度との相関を見るとパスカバーは-0.62、パスラッシュは-0.21となり、つまりPFFのグレードで見る限りパスカバーの方がパスラッシュよりディフェンスの状況を説明するのにより適していることになる。
 記事に採録されている散布図を見るとパスカバー、パスラッシュとも右肩下がりの傾向を示しているが、パスカバーの方がより散布範囲が狭く、確かに相関度の高さが見て取れる。一方、パスラッシュはかなり広範囲に散らばっており、パスラッシュの成功度がパスディフェンス全体の成功度とあまり相関していないことが分かる。
 さらに記事ではパスラッシュとパスカバーが翌シーズンのチームの成功をどの程度予測できるかについても分析している。n年のパスカバーとn+1年のEPAとの相関はおよそ-0.26(R自乗は0.07)であったのに対し、パスラッシュは「翌年に許したEPAとはおおむね相関していなかった」。
 ちなみにパスで許したEPA自体は年ごとにおよそ0.34(R自乗0.11)の相関が見られたという。それだけディフェンス成績は年ごとのブレが大きく、データ面で言えばノイズが大きいのが特徴だ。その中で比較的少ないシグナルを説明できるのがパスカバレッジであり、一方パスラッシュが翌年の成績をほとんど予測できないのは「ポケットが崩れていない時のパスはポケットがプレッシャーを受けている時のパスに比べはるかに安定している」"https://www.profootballfocus.com/news/pro-pff-forecast-the-stability-of-play-from-a-clean-pocket-by-nfl-qbs"というPFFの他の分析と辻褄が合うそうだ。
 ただしパスラッシュの方がパスカバーより安定して予想に使える分野がある。n年とn+1年のパスラッシュ同士、及びパスカバー同士を比較すると、パスラッシュの方が相関度が高いのだ。具体的にはパスラッシュが0.62(R自乗0.38)、パスカバーが0.34(R自乗0.12)。つまりEdgeの方が過去の成績から将来が予想しやすく、CBはより難しい。これは選手単位でもチーム単位でも同じだという。
 「来年のAaron DonaldはおそらくAaron Donaldであり続けるだろう。だがもしチームがディフェンスの強力なプレイによって多大な成功を収めようとするのであれば、彼らのチームに必要なのは来年のStephon Gilmoreである」というのがこの記事の指摘だ。PFFがデータを取るようになった2006シーズン以降、カバレッジで上位3分の1に入るがパスラッシュは下位3分の1にいるというチームの成績は、その逆のチームに比べて平均して1.5勝上回っている。
 しかし記事ではカバレッジがパスラッシュより重要という結論でいいと断言することには慎重。何よりもディフェンス成績はどのオフェンスを相手にするかによって大きく変わるものであり、さらにカバレッジはパスラッシュに比べて1つ1つのプレイ結果の差が大きく出やすい。だからカバレッジの重要性についてのスタンスは「RBは交換可能"https://www.profootballfocus.com/news/pro-are-nfl-running-backs-easily-replaceable-the-story-of-the-2018-nfl-season"という主張に比べれば弱い」という。
 あくまでこの記事の主張は「カバーできるプレイヤーなしに成功するディフェンスを作り上げるのは難しい」だ。パスラッシュは助けになるものの、オフェンスは容易にそれに対処できる(例:プレイオフのPatriots)。だが一方で、過去の成績からパスカバーの将来を予測するのが難しい点は、実際にDBに投資してもその効果が上がらないリスクを内包する。さらに、対戦相手のオフェンス次第で成績が大きく変わってしまうという問題も、ディフェンス選手への投資を難しくさせる。
 ではどうするか。記事ではまず両極端はやめておけと提案している。Edgeに全額投資するようなやり方(Chiefs)や、逆にDBに全てを投じてパスラッシュを無視するようなやり方はやめた方がいい。そのうえで活躍が予想しにくいDBについては、総体としていい選手を見つける機会を繰り返し求めることが必要だと提言している。具体的には2017シーズンのEaglesの取り組みが模範例で、1年前にRodney McLeodを手に入れたのに続き、この年のドラフトの2巡と3巡でCBを選び、さらにPatrick RobinsonとRonald Darbyと契約した。このデプスがものを言ってPFFのパスカバー評価は16シーズンの15位から3位に上がり、チームの優勝につながった。
 同じくパスカバーに投資しているPatriotsも、RevisやGilmoreといった大物FAの他にPatrick ChungやDuron Harmonといったデプスを満たす選手を上手く使ってパスカバーの水準維持を図っている。彼らのディフェンスは2.5秒未満時のプレッシャーについてはリーグ25位と低かった(Chiefsは4位)が、パスディフェンスのEPAトータルではPatriotsが5位だったのに対しChiefsは21位。この結果がプレイオフになって如実に表れた。
 記事において今年パスカバーを強化していると注目されているチームはBuccaneersだ。ドラフトの最初の4人はカバレッジ担当のディフェンスを指名しており、その全員が成功することはないにせよ、パスカバーのデプスを高めることに成功できる可能性は高まっている。NFC南地区の勢力図に変化が起きるかもしれないと見ているほど。どうやらDBの確保はドラフトと同じように「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」方式が最も合理的なようだ。

 ちなみにこの記事にはPFFがどのように選手のプレイを評価しているかについて簡単な説明が載っている。1つ1つのプレイについて選手は-2から2点の評価を0.5点単位で割り当てられ、合計した上で0-100点のスケールに合わせて調整されるという。パスラッシャーの場合はQBにプレッシャーを与えるかサックをする、QBがさっさと投げてプレッシャーを掛けられない場合でもブロッカーに打ち勝つといった点が評価対象になる。
 カバレッジについてはインターセプトやボールをたたき落とす、あるいはレシーバーのセパレーションを妨げることでオーバースローなどを強いればプラスの評価が、逆にボールが来ても来なくてもレシーバーのカバーに失敗すればマイナスの評価をつけられる。見ての通りどちらの評価も主観に基づくものであり、信頼度を気にする人が出てきそうな評価法ではある。だが全プレイを対象にすることでそうした主観の影響を減らすことは可能というのが、彼らのデータを擁護する場合の理屈だろう。他にいいデータが見当たらないこともあり、PFFの評価を使う人は多い。
 もっと客観的に評価しようという取り組みも出ている。ESPNがNext Gen Stats"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56889544.html"を使って算出しているPBWR、PRWRといった指標がそれだ"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/24892208/"。このデータで見るとDonaldはサック数が20.5回とリーグで最も多いだけでなくパスラッシュで勝っている比率も46%と極めて高い"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/25074144/"が、彼の次にラッシュの成功率が高い(40%)Robert Quinnのサック数は6.5回しかない。PFFの評価でもQuinnはEdgeの中で平均以上とそれほど高い評価ではなく、ESPNの指標よりもサック数と似通った評価だ。
 果たしてPFFの主観的なデータと、ESPNがNext Gen Statsを使って算出しているデータの、どちらがよりプレイヤーの質を正確に表しているのだろうか。このあたりはもっとデータがたまり、実際のゲームへの影響を客観的に調べられるようになったうえで判断するしかないと思う。とはいえ、かつてのようにオフェンスのスキルポジション以外をデータで見ることがほとんど不可能だった時に比べれば、実にいい時代になったのは確かだ。これからもデータギーク各位には競い合うように面白いデータを見つけ、調べ、紹介してもらいたい。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック