ドラフト権トレード

 NFLドラフト終了。指名もさることながらドラフト中のトレードの数が過去最高になったそうだ"https://twitter.com/ESPNStatsInfo/status/1122273205027139584"。40回ということは6~7回の指名のうちに1回はトレードが行われていたわけで、各チームともかなり激しく動いた様子が窺える。
 中でも回数が多かったのがPatriotsとSeahawksの各7回。Patsについてはいつものことだが、SeahawksはWilsonとの大型契約でドラフトの弾を増やす必要が出てきたのに合わせて積極的に動くことを強いられた印象が強い。QBに多くのサラリーを割り当てる以上、他のポジションはできるだけ安いルーキー契約で埋め合わせる必要があったのだろう。
 もう1つの特徴として、トレードの数が多かった割に選手を含むトレードが少なかったことが挙げられる。こちら"https://www.cbssports.com/nfl/news/2019-nfl-draft-trade-tracker-broncos-trade-up-for-drew-lock-and-details-of-every-draft-day-trade/"のデータを見る限り、ドラフト期間中に選手を交えたトレードが行われたのはたったの2回。CardinalsがRosenを、Dolphinsが全体62位と来年の5巡をそれぞれ差し出したやつと、Broncosが全体148位を出して49ersからWatsonと全体212位を手に入れたやつだけだ。後はとにかくドラフト順のやり取りばかりが行われたのである。
 去年も選手を交えたトレードがそれほど多かったわけではない(4回)が、今年はさらに少なかったと言える。ドラフト前に行なわれた選手込みのトレードも去年の19回に対して今年は15回と少な目。補償ピックの影響でFAがあまり動いていないという話は前に述べた"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56919585.html"が、トレードによる選手の動きも去年に比べれば地味だったことになる。
 中でも目立っているのが、Patriotsが得意技のように乱発していたPick Swap Trade"https://www.bostonherald.com/2019/04/06/patriots-have-dominated-in-pick-swap-trades/"を減らしたこと。昨年はShelton、McCourty、Patterson、Brownの4人をこの手法で手に入れていたのに、今年はこの手を使ったのはMichael Bennettのトレードだけで、ドラフト中は全くやろうとしなかった。
 逆にPats以外のチームにPick Swap Tradeが広がっているともいえる。ドラフト前に行なわれたKeenumトレード"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56905364.html"はPick Swap Tradeだったし、それ以外にEaglesがDeSean Jacksonを手に入れたトレード、JetsがKelechi Osemeleを入手したトレード、そしてドラフト中に起きたDekoda Watsonのトレード"https://www.milehighreport.com/2019/4/27/18519974/"がいずれもPick Swap Tradeであった。
 Patriotsの成功例としてあまりに喧伝されすぎたことが、彼らのPick Swap Trade活用を抑制したのかもしれない。少なくともトレード相手はPick Swap Tradeの申し出に今まで以上に警戒するようになったことだろう。補償ドラフトについても、彼らよりも先にRavensが多用していたのに、Patsが活用するようになった結果としてFA市場が停滞するにまで至ったことを考えるなら、やはり優勝チームのやることはそれだけ大きな影響を及ぼすことを意味する。

 実のところ、今年のPatsは例年とはむしろ逆のことをしている。彼らが行った7回のトレードのうちトレードアップは3回に対してトレードダウンはたったの1回。残る3回は複数指名権同士の交換となるため単純にアップかダウンかは判断しがたいのだが、Patsの方が受け取った指名権の多かったトレードをトレードダウンだと判断していもトレードダウンは計2回にしかならない。12個の指名権を持ちながら最終的に10人の指名(プラス2020年の指名権1つ)で終わったのは、それだけトレードアップの影響が大きかったことを示している。
 これはドラフトの少し前まで4つしか指名権を持っていなかったSeahawksが最終的に11人を指名した"https://www.thenewstribune.com/sports/nfl/seattle-seahawks/article229766804.html"のとは対照的である。彼らはClarkのトレード"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56933029.html"の他にトレードダウンを4回行ない、さらに来年のドラフト権も使ってここまで数を増やした。トレードアップも1回しているのだが、これだけトレードダウンを繰り返せばもとの弾が少なくても数を増やすこと自体は可能であることが分かる。
 しかしPatsのトレードをApproximate Value"https://www.footballperspective.com/draft-value-chart/"で評価すると恐るべきことが分かる。彼らが一連のトレードで得たAVは、まだ順位の確定していない2020年4巡指名を除いて47.3ポイント、逆に失ったAVは45.6。そう、トレードアップの方が多かったにもかかわらず、なぜか彼らのAVは増えているのである。
 Over The Capには最近になってルーキー契約後のサラリーに基づいた新たなドラフトのValue Chartを作成している"https://overthecap.com/using-salary-data-to-better-value-nfl-draft-picks/"。こちらを使って計算するとさすがにPatsが得た5435ポイントに対して失ったものが5481ポイントとなる。ただしこちらも来年の4巡は計算に入れておらず、たとえBearsから手に入れるのが来年の4巡のラストになったとしても、最終的にやはりトレード採算はプラスという計算になる。
 Patriotsのトレードがどれだけ価値を膨らませることに成功しているかについては去年も指摘した"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56662280.html"。その大きな要因となっているのがトレードダウンだったことは指摘済み。だが今年はトレードダウンが少ないにもかかわらず、やはりトレードを活用して価値を高めることに成功しているのだ。そりゃGMランキングでBelichickがトップになるのも無理はない"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001027372/article/"。大方の予想と違うことをやってもなお、彼らは他者を出し抜いている。

 もちろんピックを本当の価値に変えるうえでは、具体的に誰を指名したかが重要になる。その評価は前回も書いた"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56934027.html"ように数年しなければ下せない。今年Patriotsが指名した(Punterを含む)選手たち"http://www.espn.com/blog/new-england-patriots/post/_/id/4817418/"が計算通りに「価値を高める」指名であったかどうか、これから見る必要がある。
 前回は1巡指名選手についてESPNが出している予想活躍度に基づいて調べてみたが、もっと単純に「一般通念」と比べている記事があったので紹介しよう。FiveThirtyEightではモックドラフトにおける平均指名順位と、実際の指名順がどれだけ違っていたかについてまとめている"https://fivethirtyeight.com/features/which-picks-did-nfl-mock-drafts-get-most-wrong/"。
 モックの予想がほぼ完璧に的中していたのが、Panthersが指名したBurnsであり、49ersのBosaもほとんどモック平均と変わらない順番だった。彼ら以外にもBillsのOliver指名、RavensのBrown指名、JetsのWilliams指名、CardinalsのMurray指名、そしてPackersのGary指名あたりはモックドラフトがかなりきっちり予想できていた事例となる。
 最もsteal扱いされているのがRedskinsのSweatであり、また同じRedskinsが指名したHaskinsもstealと評価されている。このあたりは「コンバインで評価が膨れた選手」「モックで過大評価されがちなQB」といった特徴が出ているとも解釈できる。思ったより下に落ちたと言われているAllen、トレードアップの成功例として語られることの多いDillardなどもstealの例だ。
 逆にこの記事で典型的なreachと見なされているのがTexansのHoward指名、SeahawksのCollier指名、そしてPackersのSavage指名ということになる。ただし彼らは1巡でも下位の指名であり、1巡上位の選手たちほどはっきり固まった評価がなされていたわけではないため、それほど酷いreachという印象はないだろう。むしろ1巡でも下位と思われていた選手が上位指名されるケース、具体的にはRaidersが指名したFerrell、Giantsが指名したJonesの方が、reachの印象は強い。
 Patriotsが指名したHarryはわずかにプラスで、少しばかりstealだったということになる。あくまでドラフト前の一般的な予想が全面的に正しければ、だが。
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