Clarkトレード

 いよいよドラフトが始まるが、その前にドラフト絡みの分析についてまとめて紹介しておこう。Football Outsidersは毎年、いくつかのポジションについてスタッツやコンバインの結果を踏まえた予想を出している。既にQBASEについては紹介済み"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56921968.html"だが、他にもいくつかある。
 例えばWRの能力を計るPlaymaker Score"https://www.footballoutsiders.com/stat-analysis/2019/playmaker-score-2019"。元々今年はあまりいいレシーバーがドラフト候補にいないと言われているのだが、この分析もその結果を裏付けているようだ。最も評価の高いMarquise Brownですら「2013年以降のドラフトには少なくとも彼より高いスコアを記録したWRが1人はいた」ほど。コンバインで注目を集めていたMetcalfなどはさらにそれより下のスコアであり、1巡指名には「注意深くあるべき」とされている。
 RBを対象としたBackCAST"https://www.footballoutsiders.com/stat-analysis/2019/backcast-2019"もまた、一般通念とは違う評価を出している。昨年のBarkleyなどは一般評価もスタッツ分析も同様に高かったのだが、今年のBackCASTでトップにいるDarrell Hendersonはスカウトの評価では3巡レベルの選手になるという。加えてHenderson以外は彼より大きく引き離された評価となっており、そもそも今年のRBはWR同様にレベルが高くないようだ。
 RBの中で最も一般評価の高いJosh Jacobsに至ってはスコアがマイナスと惨憺たる有様。かつてBackCASTがマイナスで1巡指名されたRBとしてはAvery"https://www.pro-football-reference.com/players/A/AverJo00.htm"、Perry"https://www.pro-football-reference.com/players/P/PerrCh00.htm"がいるそうだが、さてJacobsはどうなるだろう。
 豊作と言われているEdgeの評価に使われるのがSackSEER"https://www.footballoutsiders.com/stat-analysis/2019/sackseer-2019"だが、確かに今年のドラフトにいいEdgeが多いのは確かだがMackやMillerのような超一流のEdgeは実はいないのだとか。確かに、各選手のリスト内に載っている「似た選手」の名前を見ると、超一流まではいかない名前が並んでいる。そして順番も興味深い。トップに出てくるのがBrian Burnsであり、常にドラフト候補トップとされているNick Bosaは実は4番手だ。
 そして昨年の時点でどこまで信用できるのかよく分からないと批判した"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56639887.html"機能的モビリティに関連した分析も掲載されている"https://www.footballoutsiders.com/stat-analysis/2019/qb-functional-mobility-model-2019"。ただし、相変わらず内容がぼんやりしていてデータの算出法がはっきりせず、数値の妥当性についてもどう評価すべきなのか全く判断できない。
 またNFLのチームは以前より機能的モビリティを見ながらQBをドラフトするようになっていると主張しており、論拠となっているのが足元4年間の機能性モビリティとドラフト順位との相関が昔より上がっていること。ただ4年分というあまり長いわけではない期間のデータから出てきた数字が単なる偶然ではないと言い切れるかどうかは不明だ。やはりもっと様子を見てからでないと判断しがたいデータである。
 一方でESPNが別のドラフト候補に関する予想"http://www.espn.com/nfl/draft2019/insider/story/_/id/26531220/"を出している。こちらもスカウティングの評価と組み合わせている"https://twitter.com/bburkeESPN/status/1118159187928862720"あたり、Football Outsidersの予想手法と似ているところがある。アナリティクスへの流れは強まっているが、まだ数値化しづらい部分は多々あるのだろう。

 さらにドラフト直前にまた大型トレードがあった。SeahawksのEdge、Frank ClarkがChiefsへとトレードされたのだ"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001027521/article/"。Chiefsは代わりに今年のドラフト1巡、来年の2巡(Chiefsは2巡指名権を2つ持っており、そのうち後の方)を渡し、さらに今年の3巡指名権を入れ替えるという。さらにChiefsはClarkとの間で5年105ミリオンの契約で合意したそうだ。EdgeとしてはLawrenceと並びリーグでもトップレベルのサラリーになる。
 ChiefsはこのオフにHoustonとFordという2人のEdgeを失っているが、今回のトレードを含めてその分の穴埋めを完了したというのが一般的な見方だ。FordをClarkに入れ替えたのは後者の方が新しい4-3のスキームにフィットするからであり、この補強によってChiefsはPatriotsに挑戦できるだけのディフェンスになった"https://www.espn.com/blog/kansas-city-chiefs/post/_/id/26367/"という声すらある。
 だがファンの反応は決して歓迎一色ではない。こちら"https://www.arrowheadpride.com/2019/4/23/18512860/"のpollを見ると半分以上は確かにこのトレードを評価しているが、一方4割以上は評価しないと答えている。確かにClarkはいいEdgeかもしれないが、彼を手に入れるために1巡まで差し出す必要があったのか、と疑念を持つファンが多いのだろう。Fordのトレードで手に入れた2巡も今回のトレードで1つはなくなるわけで、支払い過多だと感じるのも無理はない。
 もっと明確に言語化してChiefsの対応を批判しているのがBill Barnwell"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/26152205/"。彼は今回のトレードについてSeahawksがB、ChiefsはD+とかなり差をつけた評価をしている。Clarkは確かにFordより少しばかりいい選手であるが、一方でオフフィールドの問題を抱えている選手であり、そして何よりやはり対価を払い過ぎ。Fordと49ersが結んだ5年85.5ミリオン程度の契約でFordを手元にとどめ、それによって失わずに済むドラフト権やキャップスペースを使ってチーム力の向上を図った方がマシではないか、というわけだ。
 確かにキャップスペースとドラフト1巡を差し出して手に入れたのが「3-4向きのEdgeから4-3向きのEdgeへの交代」というのでは、いくら何でもベネフィットが微妙すぎるように思える。Aaron Schatzのように「[スナップ時に]立っているか手を付くかの差は全体29位の指名権に値するものなのか? Fordは地面に手を付いたらプレイできないとでも?」"https://twitter.com/FO_ASchatz/status/1120753735964286977"と皮肉を述べたくなる気持ちもわかる。
 それどころか、スタッツ系サイトの関係者からは、そもそもClarkが本当にFordより優秀なEdgeなのかという点への疑問も出されている。Schatz自身も「Fordは昨年、48.5のハリーと13サックを記録した。Clarkは33.5のハリーと13サックだった」"https://twitter.com/FO_ASchatz/status/1120746180508618755"と述べ、QBへのプレッシャーという点ではむしろFordの方が優秀だった可能性を指摘している。
 ESPNのアナリティクス関係のライターであるSeth Walderは「Clarkの過去2シーズンのパスラッシュにおけるwin rateは22%で、まさにリーグ平均」"https://twitter.com/SethWalder/status/1120756203213205510"であることを指摘している。Clarkは最終的に記録したサックの数は多かったものの、その中にはチームメイトが生み出したプレッシャーによって運よく彼の手元に転がり込んだサックもあり、彼自身がサックに至るきっかけを作ったプレイは実はそれほど多くないのだそうだ。
 さらにJason Fitzgeraldは彼らがチーム内で担っていた負担の差について言及している"https://twitter.com/Jason_OTC/status/1120759634074263553"。ChiefsはかなりFordに頼ったディフェンスを展開していたのに対し、Clarkは多い時でもそれほどの負担をせず、つまりローテーションをしながらプレイに参加していたことになる。負担が増えたときのパフォーマンスがどうなるかも注目点だろう。
 個々の選手の能力評価よりも、Chiefsが相変わらずパスラッシュに資源を投入する考えであったことが明確になった方が問題かもしれない。こちら"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56924513.html"で紹介した「パスラッシュよりカバー重視へとChiefsが舵を切る」説が成立しなくなるわけで、彼らが昨シーズンと同じディフェンスの弱点を抱えたままになるリスクが高まる。もしディフェンスを向上させたいのなら「セカンダリーに資源を配分すべき」"https://ftw.usatoday.com/2019/04/grading-the-frank-clark-trade-the-seahawks-fleeced-the-chiefs"だったのに、Chiefsはそうしなかった。アナリティクス的な観点で見ると適切とは言い難い行動に見えてしまう。
 一方、SeahawksにとってはWilsonの巨額契約によって安いルーキー契約選手をドラフト上位で指名する必要性が増したからこそのトレードということになる"https://twitter.com/SharpFootball/status/1120744081179725824"。確かに高額QB以外のポジションはできる限り安い選手で埋めるしかないし、そのためにドラフト上位指名権を増やすのは当然だろう。今のところ彼らのフロントの方がChiefsフロントよりきちんと考えて行動しているように見える。
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コメント

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きんのじ
エッジか、CBか。
という課題で、NEがCBを重視してる、これがトレンドになるか?という問いについて、そのチームのスケジュール強度によって、エッジかCBか、どちらが有効か変わるのかもしれない?と思いました。

要はエッジのプレッシャーが「より」有効となる条件はシンプルに2つ
①QBがプレッシャーに弱い
②LT(or RT)がショボい
相手チームがこのどちらかor両方だと、エッジラッシュが効果的だと思います。
と思い、これってざっくりと「再建中の弱いチーム」の条件に思いました。(もちろんディフェンスで勝つチームもありますが)

要はNEは、厳しいスケジュールで更にスーパーを勝つことを考えた場合、トップクラスLTとプレッシャーを跳ね返すQBに勝たなければならず、結果、エッジよりCBの方がより効率が良い、コスパが良いと踏んでいるのではないか?

故に、NEの真似をしてCBを強化しても、上手くいくとは限らない。などと考えました。

流行りのエアレイドへの対策だと、エッジかCBか、どっちなんでしょうね?
QBの耐性やWRの能力、OLの強度で変わるのでしょうか?(^-^

No title

desaixjp
スケジュールは毎年変わるのに、特定の選手と5年100ミリオン超の契約を結ぶのは合理的でしょうか? スケジュールではなく、あくまでそのチームのディフェンススキームを重視したうえでの契約だからこその「5年100ミリオン超」だと思います。
Edgeが有利かどうかはQBやOTの能力だけでなく、スキームと、そして何よりゲーム状況が影響します。大量リードして無理にパスを投げる必要のない相手に高額Edgeは宝の持ち腐れです。そういった点まで考えたうえでEdgeに金をつぎ込んだ方が有利な状況を作りやすいと考えているチームが今は多く、それに対して敢えて逆張りで勝利を重ねているのがPatsというのが現状ではないでしょうか。
そうではなく本当にスケジュールが影響していると主張するのであれば、具体的なデータを示していただければより説得力が増すと思います。
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