ラッシュかカバーか

 以前から何度か紹介しているが、「パスラッシュとパスカバーのどちらが大切か」についての議論が盛り上がりつつある。日本でもいくつかのツイートでこの議論が紹介されている("https://twitter.com/movethemchains/status/1114380441702686720"や"https://twitter.com/99Texans/status/1114664670554492928"など)が、足元で優勢に見えるのはパスカバー重視派だ。
 こちら"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56886910.html"の後半で紹介したように、パスラッシュとパスカバーの重要度については意見が分かれている。以前から言われていたのがパスラッシュを重視する主張"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56673160.html"で、パスラッシュはQBに圧力をかけることでパスの出所を押さえるのに対し、パスカバーは結局のところレシーバー1人しか止められない。スター選手に投資するなら前者の方が効果的という見方だ。
 だが各チームがパスラッシュを担当するEdgeに多額のサラリーを投入してQBにプレッシャーをかけ始めたのを受け、オフェンスも対抗策を取るようになった"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56711791.html"。どれほどの化物であってもダブルチームを容易に破ることはできない。プロテクションを工夫し、QBが早いタイミングで投げるようにすれば、高額を投入したEdgeを無効にできるわけで、実際にQBへのプレッシャーがもたらす効果は近年低下気味だ。
 そして最近になるとついにパスラッシュよりパスカバーの方が大事だという意見も出てきた。この5年のうち4回Super Bowlに出場し、3回優勝したPatriotsのディフェンスが、パスラッシュよりパスカバーを重視していることがその背景にある"https://twitter.com/PFF_Steve/status/1092622545742974976"。彼らはRevisやGilmoreに大金を投入する一方、Chandler JonesやTrey Flowersについてはチームを去ることをあっさりと許した。
 最初にそのような主張を行ったのはPro Football Focus"http://join.profootballfocus.com/"の関係者たちだ。足元でも彼らは同じ主張を続けており、例えばこちら"https://twitter.com/PFF_Chiefs/status/1114661166616317953"やこちら"https://twitter.com/PFF_Chiefs/status/1114605812037705730"では「パスカバーの方がパスラッシュより価値が高い」「CBのデブスの方がEdgeのデプスより重要」としている。
 そして彼らの意見に耳を傾け始める人も増えつつある。Over The Capの関係者は「素早いパスオフェンスへとシフトが進むことで、Edgeはゲームから取り除かれつつあるのでは」"https://twitter.com/BradOTC/status/1114545882987421697"と指摘し、さらにこのオフに多くのEdgeがチームを移ったのに比べてトップクラスのCBは動いていないことにも言及している"https://twitter.com/BradOTC/status/1114546578252095488"。
 同じOver The CapのJason Fitzgeraldは「パスラッシュは効果を上げたときには大きなインパクトをもたらすが、secondaryはその効果がプレッシャーのもたらすものほどドラマチックではないものの、より多くのプレイでインパクトをもたらすのでは」"https://twitter.com/Jason_OTC/status/1114644720418996224"という考えを述べている。最良のEdgeでも全プレイの4割でしかプレッシャーをかけられないのに対し、カバーは全てのパスプレイに影響するというわけだ。
 この点は以前にも指摘した「ディフェンス全体のDVOAとの相関で見ると、プレッシャーがかかった状態よりもそうでないときの方が相関係数が高い」ことが立証している。確かにEdgeのプレイは派手で目立つのだが、実際には彼がプレイから消えている時の方が全体のディフェンスに大きな影響を及ぼしている。PFF関係者が「CBの方がValueが高い」と主張するのも、こうした数値を見ると否定はできない。加えてPatriotsがやってみせたように、高額Edgeを使わずともスキームの活用でQBへプレッシャーをかけることができるとなれば、さらに話は「カバー重視」派の優位に転がる。
 もちろんパスカバーだってスキームでの対処ができないわけではなく、またゾーンカバーの際には個々のレシーバーに張り付く能力がそこまで重要になるとも思えない。だから反論は可能だし、足元の議論をもってCBがEdgeより大切だという結論が出たわけでもない。「全体的にカバーはラッシュより重要になりつつあるように見えるが、ディフェンスで最も重要なポジションについては結論は出ていない」"https://twitter.com/CowboysStats/status/1114379829246296066"というあたりが現状だ。

 より重要なのは、この議論が単にアナリティクス関連の個人の間だけにとどまるものでなくなりつつあるという点だろう。これまで実際にラッシュよりカバー重視でチーム作りをしていたのはPatriotsくらいで、他のチームはEaglesやRamsがそうであるようにDLに大量のサラリーを投入してきた。だが、このオフにはそれが変わり始めている。パスラッシュよりパスカバーへと資金をシフトするチームがPatriots以外にも表れ始めたのだ。
 それを紹介しているのがこちらの記事"https://www.theringer.com/nfl/2019/4/4/18294764/shifting-value-nfl-pass-rushers-new-england-patriots-kansas-city-chiefs"であり、Patsの後を追い始めたのはChiefsである。彼らはHoustonを解雇し、Fordをトレードした。その結果浮いたキャップを使って彼らはFSのTyrann Mathieuを獲得し、契約はできなかったもののCBのDarbyを取りに行こうとした。Edgeに空いた穴はトレードで獲得したルーキー契約中のOgbahで埋めるあたりまでPats的なやり方である。
 Chiefsは昨シーズン、Edgeに大量のサラリーを投下していながら、パスディフェンスは冴えなかった。Expected Pointsは-116.31とリーグで24位にとどまった。サック率はリーグ平均より高い7.6%だったものの、1試合当たりのパス喪失ヤードはBengalsに次いで多い273.4に達した。相手がパスを多用してくることも、それによってヤードを積み上げることも止められず、リーグで9番目に多い失点を記録した。パスラッシュだけで相手オフェンスを止めることはできないのだ。
 Chiefsの方針転換は、間違った場所に投下していたリソースの見直しを意味している。実際にその影響は既に数字に表れており、彼らがDBに投下しているサラリーは現在リーグで9位にまで上昇した一方、DLへの投資は27位に沈んでいる"https://www.spotrac.com/nfl/positional/breakdown/"。ちなみにPatriotsはそれぞれ2位と29位。Chiefsは次第にPatsに近づいているわけだ。
 一方、真逆の投資をしているのがBuccaneers(31位と1位)、Panthers(29位と2位)、Cowboys(30位と5位)など。もちろん現時点で各チームはまだチーム作りの最中であり、今後の取り組み次第で細かい数字は変わるだろうが、Lawrenceと巨額契約を締結したCowboys"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001025543/article/"がChiefsとは反対を向いていることは間違いないだろう。
 いや、Cowboysだけではない。CBで年平均サラリーの最高額はNormanの15ミリオンが上限だが、Edgeではこれを上回る選手が数多くいる"https://overthecap.com/position/edge-rusher/"。確かにチームが変わった選手が多いが、逆に言えば高額サラリーを払っても実績あるEdgeを欲しがるチームがまだ多数存在することも意味しており、全てのチームがPatriotsやChiefs的なチーム作りに向かっているわけではない。
 足元で一部に「ラッシュよりカバー」の流れができているのは、オフェンスの対応が進んだことと、こうしたサラリーデータから読み取れるコストパフォーマンスの問題が出てきたことが原因だろう。逆に言うならオフェンスの対応が変われば、またポジション別のコストに変化が生じれば、いつまたこの流れが違う方向に向かっても不思議はない。赤の女王"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56667206.html"はここにも存在する。
 今年のドラフトではEdgeをはじめDLが豊作だと言われている。各チームのパスディフェンスに対する考えがどのようなものか、ドラフトの動きから読み取ることもできるかもしれない。いずれにせよこの「パスラッシュかパスカバーか」の議論は、NFLファンにとってしばらくは楽しい暇つぶしのネタになりそうに思える。
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