Over The Capで2021シーズン以降に結ばれるであろう新たな労使協定に対する提言が連載されている。現在の労使協定は2011シーズンから適用されているが、当初は想定されていなかった影響やら副作用やらが出ていることは間違いない。ここでは主に選手の立場からどのように変更すべきかを論じている。
記事中ではまず、表面的には長期契約と報じられている選手たちも、その多くが実際には2年から3年でカットされていることを紹介している。こちらはベテラン契約の話だが、6年契約を結んだ選手のうち実際に契約を満了するかまだ6年目に至らずなお契約継続中の選手の割合はたったの16.7%。4年や5年契約の選手たちも半分以下しかおらず、3年契約の場合は3割未満にとどまっている。
ベテラン選手たちがクビになるのは加齢がマイナスに作用するから。チームは過去の実績ではなく「これから期待できるパフォーマンス」に対してサラリーを支払うのであり、当然ながらベテランたちに対しては財布のひもが固くなる。それでも20代の選手にはまだ需要が残っているが、今の労使協定が適用されるようになった2011シーズン以降、特に30代の選手たちが容赦なく打ち減らされていっている様子は記事中のグラフからも明確に分かる。
それだけ選手寿命が短くなっているのに、そのうち4年(1巡選手はオプションで5年)について人為的にサラリーを抑えられ、自分を高く売りつける機会を奪われるのは問題だろう。加えてタグという手段を使えば、チームはさらに選手の契約に大きな影響を及ぼすことができる。1巡選手にタグを2回も貼れば、結局7年間は市場の需給ではなく制度によってサラリーが決められてしまうわけだ。その時、選手の年齢は28歳から29歳。市場価値が急落する時期に差し掛かっている。
そもそもルーキー契約はドラフト順位が高いという理由だけで高額のサラリーをもらう選手が続出したことに対する対応策だ。選手の実力にふさわしいサラリーを払うようにするには、選手の実力を見極める期間が必要。それを4年としたのが今の労使協定なのだが、実はそれが長すぎたというのがこの記事の指摘。実のところ現労使協定より前にリーグに入った選手たちの中には、GronkowskiやAntonio Brownのように2年様子を見ただけで次の長期契約を結んだ者たちもいる。実力を見極めるなら2年で十分、というのがこの提言だ。
結果、ドラフト順位の高い選手の方が4年間に獲得できるサラリーが低くなるという現象が起きている。記事中の表を見てもらえば分かるが、2巡より3巡選手の方が高いのは4年目にサラリーを引き上げる制度があるためだし、ドラフト外選手はテンダーの内容次第で1巡選手に次ぐレベルの高額サラリーをゲットすることすら可能になる。下手に下位でドラフトされるくらいなら、ドラフトされない方がむしろ選手にとってはプラスになってしまうわけで、実際にドラフト指名を避けた選手もいたという。
ルーキー契約期間を短縮することができずとも、せめてこのおかしな制度は見直す必要がある、というのがこの記事の主張だ。指名順の高い選手の方がもらうサラリーが少ないのでは、ドラフトそのものの公正さが疑われかねない。確かに修正が必要な課題だと言える。
だがここで定められた金額の下限は低すぎるというのが記事での指摘。2015-19シーズンの支払額とサラリーキャップとの関係を見るとリーグ全体では101%と下限より6%ポイント、チーム単位では最も低いTexansでも92.8%と下限より4%ポイント近く上回っている。サイニングボーナスの比例配分という仕組みを考えれば、キャップより支払いが多くなることは普通だし、実際にそういうチームが過半数を占めている。今の下限設定は低すぎるというわけだ。
記事中ではリーグ全体の下限を103%に、チーム単位でも100%にまで引き上げるよう求めている。今の制度のままだとチームが簡単に「タンクモード」に入ることができ、結果として金をため込む年と一気に支払いを増やす年とに分かれやすい。選手にとっては特定のチームが数シーズンだけ支払いを増やすよりも、毎年全てのチームがきちんと資金を選手に投入するようにした方がありがたいという。
また4年間の合計で下限を満たすのではなく、連続する4年間の平均で下限を満たすよう要求している。足元ではチームの支払いが2017-20シーズンの累計で89%以上になればよく、例えば2015-18シーズンで89%を割り込んでもルール違反にはならない。だから2015-18の4年間に極端に支払いを減らしてタンクを図ることも可能だ。そうした長期にわたるタンクを避けるためのルール提案である。
特に後者の影響は記事中に載っている表にはっきりと表れている。連続した8年間に地区優勝を1回でもしたことのあるチームの割合は、今の労使協定になってから71.9%と、それ以前より10%ポイント近く激減している。サラリーキャップが採用された1994シーズン以降のこの数字は80%台を続けていたわけで、その時期は確かに勢力均衡によって多くのチームに優勝の機会が訪れていた。だが今の労使協定はその機会を失わせ、より実力差の大きかった1970~80年代と同水準にまで数字を下げてしまっている。まさしく「元の木阿弥」だ。
いや、当時よりもむしろ状況は酷いと言える。当時のNFLには6つの地区しかなく、チーム数は28だった。つまり地区優勝確率は単純にいえば21.4%となる。一方、現在のNFLは8地区32チームであり、単純な地区優勝確率は25%に達しているはず。にもかかわらず70年代後半から80年代前半と同水準になっているということは、より特定チームに優勝が偏る傾向が強まっているとすら言える。
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