Don't Pay The Man

 さて、前回はFA市場に存在すると言われる「落札者の呪い」について触れた。FA市場で有力選手を集めてくるのは、コストまで考えると決して効率的ではないという指摘だ。だが世の中には違う主張もある。これまた前回紹介しているが、VAMPという指標"https://ftw.usatoday.com/2019/03/nfl-teams-cap-spending-efficiency"を作成したSteven Ruizは、「FA選手の方が自らドラフトしたベテラン選手より費用対効果はいい」という驚きの主張をしている"https://ftw.usatoday.com/2019/03/nfl-free-agent-premium-overpay"。
 一体どういうことか。ルーキー契約以外のベテラン選手には2種類いる。ドラフトしたチームが契約を延長したり再契約した選手たちと、FAになって市場に出てきた選手たちだ。もちろんどちらもルーキー契約の選手たちより割高になるのは同じ。しかし両者の間で比較すれば、よりコストが高くつくのはFA選手ではなく、契約延長や再契約した選手たちなのだそうだ。
 まず単純な比較をすると、FA選手たちの平均VAMPは1.19ミリオンの赤字となる。一方、契約延長か再契約選手たちは2.37ミリオンの赤字となり、1ミリオン以上の差がつく。Ruizは「もしかしたらやたらと高額契約の多いQBが影響しているのかもしれない」と考えてQBを除いたデータを調べてみたが、ここでもFA選手(1.8ミリオンの赤字)の方が契約延長/再契約選手(2.8ミリオンの赤字)より採算がいい。
 FA選手の中でもよくPatriotsがかき集めている「安いベテラン」は費用対効果が高いと言われている。逆に言えばFA第一波で契約するような高額FAたちは、さすがに契約延長/再契約選手たちよりも高くついてしまうのではないか。そう考えてRuizが3.5ミリオン以上のキャップヒットになる選手たちのみを対象に調べたところ、やはりFA(2.9ミリオンの赤字)の方が延長/再契約(3.6ミリオンの赤字)より割安になった。
 Ruizは結論として「世の中にfree agentプレミアムなるものは存在しない。存在するのはベテランプレミアムである」と述べている。より正確には「存在するのはルーキーディスカウントであり、そして自家製(homegrown)選手プレミアムである」と言うべきなんだろう。NFLに存在する3種類の選手のうちルーキー契約が最も割安で、次に割安なのがFA選手、そして最も割高なのが延長/再契約のベテラン選手ということである。

 なぜFA選手の方が延長/再契約選手よりは割安になるのか。おそらく行動経済学"https://en.wikipedia.org/wiki/Behavioral_economics"の中で知られているバイアスの1つ、保有効果"https://en.wikipedia.org/wiki/Endowment_effect"が原因だろう。NFLのチームに見られる保有効果について以前にも紹介したことがある"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56435187.html"が、VAMPにもその効果が表れていると考えられる。
 保有効果とは、自分が保有するものについてその正当な価値よりも高く評価してしまう認知バイアスの一種。NFLの各チームの場合、自前で手に入れた(つまり主には自分たちでドラフトした)選手について本来の能力よりも高く評価してしまうケースがまさに保有効果に当たる。そうした効果の例として上記のエントリーではJetsがベテランを大量解雇に踏み切った時、そのベテランの多くが次の仕事にありつけなかったという事例を紹介している。当時のJetsは他チームが魅力を感じない選手たちに多くのスナップカウントを任せていたわけで、それこそが保有効果の影響ではなかったかと思われる。
 Ruizのデータにも同様の傾向が明白に出ている。全体として自家製の選手たちほどVAMP、つまり市場価値と実際に支払っているサラリーの赤字額が大きい。おそらくその選手が他チームによってドラフトされた選手であればやらないような過大評価を、「我らの選手」に対しては行ってしまうヒューリスティックが人間には存在し、それが普通にNFLの世界でも見られるのだろう。
 一例が昨年のオフに話題に上ったFolesのトレードだ。2017シーズンのSuper Bowl後、Eaglesは「少なくとも1巡と交換でなければトレードしない」"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000919690/article/"と鼻息が荒かったが、ジャーナリストなどは2巡から3巡ならトレードするという意見ばかりだった"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/22326194/"。まさに保有効果(及びSuper Bowl MVPという後光効果"https://en.wikipedia.org/wiki/Halo_effect")のせいで、Eaglesとそれ以外との間に評価の差が生じていたことが分かる。
 ドラフト候補で高い評価を受けているQBが多かった(結局1巡で5人が指名された)この時の状況まで踏まえるなら、Eaglesは高望みしすぎていたことになる。結局昨年のオフにFolesのトレードは成立せず、今年のオフになるとEaglesはトレード自体を諦めざるを得なくなった。もし彼らが保有効果に囚われることなくFolesの市場価値を冷静に評価できていれば、2020年の3巡補償ドラフトではなく、2018年の2巡か3巡を手に入れることができていたかもしれない。
 Folesの場合はトレードに出す際の評価だったが、手元に残す選手についても同じように過大評価してしまう傾向が存在し、それこそが延長/再契約選手のVAMPを引き下げている大きな理由だろう。例えばGurleyの2015-17シーズンのPFFグレードは平均73.3くらいだった"https://www.profootballfocus.com/news/pro-rb-todd-gurley-is-better-than-ever"。この成績のRBは、今年のケースだと市場価値が年平均8.1ミリオン程度になる。だが彼はサラリーキャップがもっと少なかった昨年、年平均14ミリオン超の高額延長契約を勝ち取った。自家製選手に対する過大評価の一例だ。
 もちろん一方でFA選手には「落札者の呪い」が働く。だが自家製の選手であっても契約が切れればオークション対象になるわけで、他者より先に交渉できるというメリットはあっても他者より安く契約できる保証はない。いわば潜在的なオークション対象として一定程度の「落札者の呪い」が自家製選手にも働いている可能性があるのだ。そうしたリスクに保有効果まで合わせた結果、自家製の延長/再契約選手がFA選手より割高になってしまうのだろう。

 ではどうすればいいのか。Ruizはチームのコアになるごく少数の選ばれた選手のみに多額の支払いを行い、他のベテランは去るにまかせてルーキーもしくは低コストなベテランに置き換えよと提案している。要するに「New Englandが20年にわたってNFLを支配してきた期間を通じてやってきたこと」をなぞることが、最も経済合理性に沿った行動になる。
 最近でいえばSolderやButler、そして今年のFlowersなどが「去るに任せた」自家製ベテランたちとなる。遡れば他にもそういう選手は山ほどいるわけで、Patriotsファンにとっては見慣れた光景である。Foxboro以外の都市では「彼らはそのまま去ることはない。ファンはタレントを残さないことに対してチームに不満を述べるだろう。だがSuper Bowl Ringのインフィニティ・ガントレット"https://en.wikipedia.org/wiki/The_Infinity_Gauntlet"を持つ者がやることなら、ファンはそうした行動には出ない」とRuizは述べる。
 契約延長や再契約した選手でも、Patriotsはしばしば「一度市場を試させる」方法を取っていることも注目点だ。McCourtyやHightowerが典型例だが、彼らはFA市場で自分たちの価値を確認した後でPatriotsと契約し直している。もしかしたらあれは、チーム自体が自家製選手を過大評価していないか再確認する手続きでもあるのかもしれない。
 もう1つ、Ruizの指摘で考慮すべきなのは、FAに頼らずドラフトを基本にチームを作り上げるのが必ずしも王道ではないという点だろう。ドラフトした時点では割安な選手でも、契約延長や再契約の時点ではFAよりも割高になるのであれば、ドラフトにこだわりFAをほとんど取らなかった昨年までのPackersや00年代のColtsのようなチームは、経済的には非合理な行動を取っていたことになる。確かに彼らは極めて有能なQBを抱えていながら結局1回しか優勝できず、一方ドラフトもFAもトレードも駆使しながらチーム作りを進めているPatriotsは6回も優勝している。
 ドラフトがチーム作りの王道という主張は、ある意味GMの仕事を楽にしていた。だがそうでないことがデータから読み取れるようになったのであれば、もうGMが楽をすることは許されない。誰もがBelichick同様にあらゆる手段を考え、その中から最も勝利が近づく道を選ばなければいけない時代が来るのかもしれない。そういう時代においては自前のヒーローであってもコストが高ければ容赦なく切るのが当たり前となる。チームにとってはもちろん、ファンにとってもハードな時代だ。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック